医学界新聞

「抑制廃止福岡宣言」を発表

第6回介護療養型医療施設全国研究会開催


 さる10月30-1日,福岡市のシーホークホテル&リゾートにおいて,第6回介護療養型医療施設全国研究会が開催され,1年半後に控えた介護保険の導入を背景に活発な討議が行なわれた。
 本研究会は,「看護・介護」「排泄・入浴」「経管栄養」など17の分科会に分かれて論議が進められたが,中でも注目を集めたのは,中尾郁子氏(光風園病院総婦長)と有吉通泰氏(有吉病院理事長)が座長を務めた「抑制分科会」だった。

抑制をめぐるさまざまな事例

 痴呆患者などが徘徊して転んだりするのを防ぐとの理由で,ひもでベッドに縛ったり,鍵つきのつなぎ服を着せる「抑制」は,安全対策上やむを得ない処置とされてきた。しかし分科会では,むしろそのような医療者側の対応が患者のストレスを増強させ,「抑制せざるをえない状況」を作ってきたのではないかとの反省のもと,経管栄養を経鼻食道法に変えて注入時間の短縮を図り抑制を回避した事例などさまざまな工夫例が提示された。
 本分科会は,そのまま「抑制廃止のための特別プログラム」に引き継がれた。司会を務めた吉岡充氏(上川病院理事長)は,「10年間抑制廃止に取り組んできたが,抑制だけを強く非難すると“言うことはわかるが現実にはできない”という結論になりがち」と,まず抑制をせざるを得ない理由を会場に尋ねた。
 フロアからは,「抑制は沖縄の米軍基地と同じ。なくしたいが現実には難しい」,「安全のためには軽い抑制はやむを得ない」などの意見のほか,抑制廃止を決意した病院からは,「看護婦が賛成派と反対派に分かれ,病院を去った看護婦も少なくない」という“葛藤”も紹介された。

院内公開を含めた抑制廃止策

 その後登壇した田中とも江氏(上川病院総婦長)は,「今までの医療には“治療から回復へ”の考え方しかなかった。そこでは,患者は治療に伴う苦痛は我慢せざるを得ない。しかし,抑制をして老人から生きる意欲と能力を奪わなければできない治療とはいったい何なのか」と主張。田中氏は,「抑制廃止は“縛らない”ことだけではない。もっと大きな意味を持っている」と繰り返し強調したが,確かに抑制には「慢性期の医療・看護とは何か」という現代的な課題が凝縮しているといえるだろう。
 また,有吉病院の福本京子婦長が福岡県内の10病院を代表して,(1)縛る,抑制をやめることを決意し実行する,(2)抑制とは何かを考える,(3)継続するために院内を公開する,(4)抑制を限りなくゼロに近づける,(5)抑制廃止運動を全国に広げていく,からなる「抑制廃止福岡宣言」を読み上げフィナーレを飾った。
 療養型病床群は,競合する特別養護老人ホーム,老人保健施設とともに介護保険の施設給付の対象となる。また福岡県ではこの3か月に療養型病床群が3000以上増えたと言われ,病院間競争も激しさを増している。「看護の質の高さ」を強調することは経営上からも要請されているとはいえ,「縛らない」ことを外部に向かって宣言することの看護にとっての意味は少なくない。複数の新聞紙上でこの宣言が好意的に報道されたように,「人手が足りない」「仕方ない」といった“内部的”な事情が通用する時代ではないのかもしれない。