医学界新聞

 Nurse's Essay

 どこまで届くか民の声

 久保成子


 この秋,北東フランスを旅しましたが,パリに戻る前日,世界遺産にも登録されているヴェズレーという土地を訪ねました。
 1日数本の路線バスしか通らない田舎町ですが,小さな丘の町とその頂上にある聖堂が丸ごと世界遺産となっているところです。遠景から望む落日の丘の風景の荘厳は実に見事。これも合わせて世界遺産だというのです。
 その聖堂を訪ねた際に,日本人の修道士に案内していただきましたが,その方は苦笑しながら次のようなことをつぶやかれたのです。
 「2-3年前,ここで世界宗教会議が開かれ,日本からも代表の方が見えられました。会議が始まって日本代表の方が開口一番何と言われたか……宗教法人税の対策をどうしていますか?……でした。通訳に困りました」。
 お返しする言葉を私は失いました。
 経済的問題は,さまざまな意味で今日的・世界的な問題には間違いなく,人類の平和・幸福を追求する世界共通の「理念」さえ崩壊しそうな状況が現実にはあるのですが……。
 さて,今年も余すところわずか。前述の話ではありませんが,日本の社会も真に経済・経済,税金・税金の声高の1年でした。「予測不可能,先行き不透明」といった言葉が飛び交います。
 こうした中で,医療の分野は,高齢社会の到来という予測可能な近未来が経済効率を基軸に,さまざまな改革を急ピッチで実施に向かわせています。高齢者医療に限らず,在院期間短縮=医療費削減,は医療機関の死活問題につながり,その徹底ぶりに,医療の受け手から悲痛な訴えがなされるようになりました。また,高齢者標的の感が強い「税金」問題では,「生きる日々が追い立てられるようだ」との苦言とともに『老人力』なるものが世の中に広まりつつあります。
 このような医療・看護・福祉の受け手となる人々の声は,医療等の本質・理念を置き去りにさせ兼ねない,「費用削減」を含めた制度改革の歪みの是正に関し,医療の現場から国に提言する指針となります。
 医療者と受け手が知恵を出し合うことでの改革が,21世紀を創り出すエネルギーとなると思えますが,如何なものでしょうか?