医学界新聞

医療の中での位置づけを考える

第30回日本芸術療法学会開催される


 第30回日本芸術療法学会が,さる10月29-30日の両日,大森健一会長(獨協大教授)のもと,宇都宮市の栃木県総合文化センターで開催された。本学会は設立30年を迎えたことから,「30回記念大会」と位置づけ,「これまでの軌跡を振り返りながら将来における芸術療法の発展を模索する機会としたい」(大森会長)との主旨のもと,特別講演「『私』の問題-芸術と文明社会」(世田谷美術館長 大島清次氏),会長講演「創造の救いとその陥穽」(大森健一氏),シンポジウム「芸術療法の発展-30年の軌跡を踏まえて」(座長=長谷川病院 徳田良仁氏,京大 山中康裕氏)が企画された。また,一般演題は絵画,サイコドラマ,コラージュ,箱庭,音楽,ダンス,詩歌の各療法の分野から全29題が,2会場に分かれ発表された。

「創造」のすばらしさとおとし穴

 特別講演で大島氏は,「芸術は知らず知らずに心も身体も健全にする」という意味のラテン語が世田谷美術館のエントランスホールに掲げてあることを紹介し,芸術と自然と人間のかかわりについて考察を述べ,「芸術+自然=健康」を強調した。
 また,大森会長は「人生すら創造である」と講演の主旨を語り,経験の浅い婦長と受験に失敗した青年とのつきあいを例にあげ,絵画療法を取り入れることによって,青年の攻撃性が抑制され転帰したことから,「創造すること」のすばらしさを強調した。その一方で,「創造は救いになるのか」と,絵画療法が即成功にはつながらなかった例も紹介。その後,俳人である種田山頭火や杉田久女の生きざまを語り,創造とおとし穴について,「芸術療法は心を癒すものとして確信するが,治療者として“おとし穴”がないかを検証することも大切」と述べた。

芸術療法を熱く語る

 シンポジウムは,(1)「音楽療法」松井紀和氏(日本臨床心理研究所),(2)「絵画療法」高江洲義英氏(いずみ病院),(3)「ダンス療法」町田章一氏(大妻女子大),(4)「詩歌療法」飯森眞喜雄氏(東医大)の4名が,それぞれの立場からこれまでの同学会の軌跡を踏まえて将来を語るという主旨で開かれた。
 この中で,飯森氏は,「芸術療法における技術は飽和状態になっているのではないか。学会は30年を迎え,テクニックは進歩したが,何らかの風穴を空ける必要性を感じる。これから飛躍することを目的に,芸術療法で表現する意義をもう1度考えたい」として,「芸術療法は非言語的治療なのか言語的療法なのか」などを問題提起。総合討論の場では,フロアを交えたシンポジスト間でホットな論争となった。