医学界新聞

第3回慶應医学賞決定

御子柴克彦氏とM.J.Folkman氏に


 第3回慶應医学賞の受賞者が,御子柴克彦氏(東大医科研教授,理化学研究所脳科学研究センター発生・分化研究グループディレクター)とMoses Judah Folkman氏(ハーバード大学小児外科,ボストン小児病院外科教授)に決定した。
 同賞は,医学・生命科学の領域において顕著かつ創造的な業績をあげ,人類の平和と反映著しく貢献した研究者を顕彰し,広く医学の振興に寄与するために慶應義塾(鳥居泰彦塾長)が一昨年に創設した賞。
 ちなみに第1回は,「プリオンの発見とプリオン病の解明」に対して,1997年度ノーベル医学・生理学賞の受賞者でもあるStanley B. Prusiner氏(カリフォルニア大サンフランシスコ校)と,「グルタミン酸受容体分子の構造と機能に関する研究」に対して中西重忠氏(京大)に,また昨年の第2回は,「原がん遺伝子,がん抑制遺伝子とがん」に対して,Robert A. Weinberg氏(ホワイトヘッド生物医学研究所,MIT大)と,「サイトカインの構造と機能に関する分子生物学的研究」に対して,谷口維紹氏(東大)に贈られている。

哺乳類脳神経系の発生分化の分子メカニズムの解析

 御子柴氏の受賞研究テーマは,「哺乳類脳神経系の発生分化の分子メカニズムの解析」。
 脳発育障害ミュータントを用いたユニークな研究展開により,まず世界に先駆けてIP3受容体の1次構造決定に成功した。これによって細胞内のCa2+波やCa2+振動を起こす小胞体のCa2+チャネルとして,IP3受容体が初期発生のみならず,脳の発生・分化や高次機能に必須な役割をしているなど多くの新しいコンセプトを確立した。
 さらに神経の誘導・分化に関わる機能分子やニューロンの脳内位置を決定する分子を次々に発見し,世界をリードしている。
 これらの研究は従来のコンセプトを変えるとともに,脳の発生・分化の理解,脳障害発現のメカニズムの解明に大きく貢献した。

血管新生の分子生物学的解析

 一方,M.J.Folkman氏の受賞研究テーマは,「血管新生の分子生物学的解析」。
 細胞が増殖するに際して,自ら血管新生因子を分泌してその周囲に血管を発達させ,同時に血管抑制因子も分泌して他の細胞の増殖を抑えることがある。これはがん細胞などに著しい。
 Folkman氏は長年にわたり血管新生の基礎研究を続け,単一の内皮細胞の培養から管状血管様構造を得ることに成功し,続いて最初に確立された血管新生因子であるbasic fibroblast growth factor(bFGF)の分離同定,さらには血管新生因子(angiostatinなど)の存在を予見し,これらを発見するなど,血管新生に関する近年の生物学,分子生物学に多大な貢献をした。最近では,これらの業績に基づく臨床応用を開始し,その成果が期待されている。