医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


大腸がん検診に関心のある人の必読の書

大腸がん検診 その考え方と実際 多田正大,樋渡信夫 編集

《書 評》市川平三郎(国立がんセンター名誉院長,早期胃癌検診協会理事長)

自由闊達な議論をする際の指標に

 がんの研究が近来著しく進歩したことは認識しているが,それでもなお,がん死を救うのに最も効率がよいのは早期発見,つまり検診しかないことは明白である。
 最近,「がん検診無用論」という暴論をはじめとして,なんとなく検診に対して逆風が吹き,嘆かわしいところであったが,さらに,厚生省は突如として,がん検診を老健法から除外するという方針を発表して,冷水を浴びせた。国民も動揺しているようだが,検診従事者の中にも,本当のところどうなんだ,と戸惑っている向きもあるやに聞いている。
 こういう時期にあって,本当に見事な本が出版されたものである。内容は,大腸がんの検診についてのみではあるが,その歴史から基本的考え方,検診の実際から細かい注意事項に至るまで,手順をあまねくして述べてあり,序文にも述べられているように,本書が自由闊達な議論をする際の指標となることは間違いない。

検診の有効性の評価に触れる

 本書の執筆者は,すべてこの方面での豊かな経験の持ち主ばかりであり,一貫して流れている思想は,編者である多田正大博士,樋渡信夫博士らの高所からみた考え方である。のみならず,検診の現場における苦心,経験談は,永年にわたって熱心にとり組んで来られた,岩手県,山口県,東京都大田区の指導者等をはじめとして,技師,保健婦などによって詳細に述べられている。さらに,住民,職場,ドック等によって,その対応が違うところなども浮き彫りにされている。また,問題の多い精検についても親切な記述で将来の参考になる。大腸がん検診に関心のある人の必読の書といってよいだろう。
 大所,高所に言えば,受診間隔に対する考え方,精検処理能力,また,精検をすれば必ず行き当たるポリペクトミーの実際,その適応と死亡率減少への効果に至るまで,洩らすところはない。それらのデータを踏まえた上で,検診の有効性の評価についても触れてある。大腸がんの検診は,世界中どこでもその有効性を認めてはいるが,それは旧式の化学的便潜血反応を用いた場合の評価であり,日本では,わが国の誇りとも言える免疫的便潜血法の高効率性が加味されているのであるから,さらに有効なことがよくわかる。

世界に冠たる日本の大腸がん検診

本書のよいところばかりが目につくが,あえて注文を書くとすれば,「集団検診」と「検診」との相違をもう少し区別してほしかったと言えるかもしれない。また,さまざまな数値を裏づけている検査の「質」の問題にも,もう少し切り込んでほしかった,というと欲が深いのかもしれない。同じ精検といっても,施設や人によって,残念ながら格差があり過ぎるのも問題点の1つと思うからである。
 ともあれ,この1冊があれば,大腸がん検診についての,世界に冠たるわが国の現在のレベルや問題点がよくわかる。ぜひとも一読して,座右に置いてもらいたいものである。
B5・頁192 定価(本体4,000円+税) 医学書院


循環器診療に携わるすべての人の必携書

心臓インターベンションハンドブック
モートン・J・カーン,ウベイダラ・デリゴナル 編著/芹澤剛 監訳

《書 評》諸岡成徳(獨協医大越谷病院教授・循環器内科学)

冠動脈インターベンション治療の詳細を網羅した書

 本書は『心臓カテーテルハンドブック』(芹澤剛監訳)の姉妹編で,『The interventional cardiac catheterization handbook』(1996年,Mosby-Year Book社刊)の翻訳である。翻訳発刊は1998年9月10日,医学書院MYW,芹澤剛監訳で,訳者は東大医学部第2内科の心臓カテーテルグループの現在第一線で,この領域で活躍中の専門医が中心となっている。
 内容は冠動脈疾患インターベンション治療,特に適応,用具,方法について,詳細に書かれている。最初にPTCAとこれに必要な血管造影の適応,手技,合併症と薬物の使用法について具体的に書かれている。次にステントについて,実施方法を詳細かつ簡潔に説明し,標準型より最新型までこの手引き書で実施できるほどに60頁にわたって述べ,比較している。アテレクトミー,ロータブレータ,TECについては,用具の構造,手技,適応,禁忌,報告結果を箇条書きにあげている。
 さらにPTCAの実施で困難な場合や,高リスクな場合の対処の仕方が,かなり詳しく,具体的な場合についてよく書かれている。最後に本書の主題とは少しはなれて,IVUS,PTMC,心嚢切開術,レーザ血管形成術についての説明がある。

よく整理された「ハンドブック」

 本書はA5変型の小さいサイズで,514頁,厚さは約2.3cm,装丁もしっかりしており,携帯し,随時に目を通すのに便利な書である。
 また,本書の特徴は見出し,小見出しが多数に分けられ,よく整理され,ハンドブックとして必要な項目をすぐ見つけることができる点にある。また記載は短く,多くは箇条書きや表にまとめられており,これに実例を多数つけてあるので理解しやすい。用具,手技については最新の事項を網羅し,具体的に診療上の注意点をわかりやすく書いている。
 翻訳は平易な言葉になっており,読みやすい。翻訳を正確に行なうと科学書では多少文章の流暢さがなくなることが多いが,本書ではあまり感じない。ただし一般にインターベンション治療の領域では,現在専門用語が多く,しかもこれが略語となって多く使われ,循環器専門医でさえわかりにくいことがある。このため,この領域の情報交換に支障しかねない状態かとも思われる。本書の翻訳に際してもこの点の困難があったと推察する。これに対して本書ではいろいろな工夫がされている。専門用語の日本語訳,カタカナ表示,英語フルスペルの添付が見られるが,全体にカタカナ表示が多い印象を持つ。読後の印象として,この点については専門用語の一覧表を付録の中にでも付けていただけたらよかったかもしれない。
 冠動脈造影やインターベンション治療は実際にカテーテルをとり,自分で操作しない限り,その技術を修得することは難しい。しかし実施にあたっては,事前にこの手技の基本を十分に把握し,術中指導者の指示に即時対応ができなければならない。本書はこれに対する十分な内容を持った良書であり,この領域に入る循環器医の必携の書と思われる。また,用具,処置,基本原理もわかりやすく書かれているので,ナースやコメディカルの方にも参考書として有用な書である。
A5変・頁514 定価(本体8,700円+税) 医学書院 MYW


肝細胞移植の発展に大きく寄与

Hepatocyte Transplantation Michio Mito, Masayuki Sawa 編集

《書 評》小玉正智(滋賀医大教授・外科学)

 肝移植は,急性および慢性肝不全の有効な治療法として定着しつつある。しかし,肝移植適応患者の増加とともに深刻なドナー不足に直面し,米国では肝移植待機中の死亡患者が年間数百例にものぼり,このため種々の肝補助療法が試みられている。その中で肝細胞移植は,患者の残存肝細胞の機能回復および再生が予想され,移植する肝細胞数が少なくても効果が期待でき,分子細胞生物学の進歩とともに今後臨床応用への展開が望まれている。

肝不全に対する参考書として不可欠

 さて,このたび水戸廸郎先生(旭川医大名誉教授)と澤雅之先生(旭川医大第2外科)の編集により英文書の『Hepatocyte Transplantation』(Karger Landes System)が上梓された。編者のお1人である水戸先生は,私の最も敬愛する先生で,早くから人工肝臓と肝細胞移植の研究に情熱を注ぎ,ライフワークとされ,多くの輝かしい業績をあげられた。また,臨床では肝臓外科の大家でもある。先生の友人であるBrunner教授(ハノーバー大学内科学)が,1990年に西独のセルで,肝不全に対する肝補助療法の国際会議を開催された。その折,水戸先生をはじめ数名の日本の先生とともに私も招待された。その後1992年Brunner教授と水戸先生の共編で出版された『Artificial Liver Support』(Springer-Verlag)は,今回の本書と合わせて,肝不全に対する参考書として最初の知識を得るために必要かつ欠くことのできないものと思う。

肝細胞移植の現状と問題点を整理

 「肝細胞移植」を扱った本書の内容を具体的にみると,この方面の全世界の研究者からの原稿で最新のデータと文献が網羅されており,肝細胞移植の研究の現状と今後の問題点がわかりやすく整理されている。
 第1章は肝細胞の移植の歴史,第2章は肝細胞の分離と保存(肝細胞のマイクロカプセル化),第3章は肝細胞移植のルートと移植臓器(脾,肺,または肝),第4章は移植後の細胞の長期生存,第5章は移植肝細胞の増殖,第6章は肝疾患での肝細胞移植の適応,第7章は免疫の諸問題,第8章は遺伝子導入,第9章はヒトを含んだ大動物での肝細胞移植など,重要な肝細胞移植に関するすべての研究分野を含んでいる。
 本書は,時宜を得た出版であり,肝細胞移植や,人工肝補助装置の開発に携わっている研究者にとって“座右の書”となり,今後の肝細胞移植の発展に大きく寄与するものと期待している。
B5・348頁 定価(本体20,800円+税) Karger, 1997


がん転移研究が直面する課題の整理に

がんの浸潤・転移 基礎研究の臨床応用 北島政樹 編集

《書 評》清木元治(東大医科研教授・癌細胞学研究部)

がん転移研究会の総力を結集した書

 がん治療法の進歩によってがんの治癒率は着実に向上しているが,依然として国民の死因のトップの座を保ったままである。その原因のほとんどが転移するがんに対する有効な治療法が確立されていないことによる。すなわち,診断の時点で既に転移が成立しているかどうかが,治療効果を決定する大きな要因とならざるを得ない現状である。
 がん遺伝子やがん抑制遺伝子の発見によってわれわれのがんに対する理解は飛躍的に高まった。また最近では,がんの浸潤・転移に寄与する分子の同定も進み,基礎研究レベルでは実験的な転移を制御することも可能になりつつある。そして,これらの研究成果が,実際のがん治療にどのように応用できるかに,大きな関心が集まっている。このような状況において,慶應大学の北島政樹教授の編集による『がんの浸潤・転移―基礎研究の臨床応用』が出版されたことは,臨床応用の立場から基礎研究を捉え直す意味でまことに時宜を得ているといえる。
 本書はまた,わが国のがん転移研究会の総力を結集した成果でもある。がん転移研究会は「転移を制するものはがんを制す」の目標に向かって1991年に設立された。本書の序にも書かれているように,第6回研究会会長の田原榮一教授(広島大)は,基礎と臨床研究をインテグレートし,21世紀の転移研究の方向性を示すべく研究推進活動部会を組織し,部会長として編者の北島教授が任命された。本書は,その部会活動の集大成でもある。

基礎研究をいかに臨床応用できるか

 本書は,基礎研究の成果がどのようにしたら臨床応用できるだろうかという,臨床家の視点から一貫して編集されており,従来の書籍が基礎研究の紹介に重点を置き,臨床応用を従属的に取り扱っているのとは大きく異なっている。その分だけ,転移制圧に向けた臨床現場の研究者の強い意志を感じさせる内容となっている。
 3部から構成される本書は,第1部の「ヒトがん転移の実態」で,食道がん,胃がん,大腸がん,膵臓がん,乳がん,肺がんを取り上げて,各がんに特徴的な転移様式と治療成績を紹介し,最後に転移実験モデルとの接点と矛盾点を論じる。第2部が基礎編に相当するが,遺伝子異常,糖鎖抗原,増殖因子,間質と分解酵素,接着分子,運動の各章の冒頭をそれぞれの分野を代表する基礎研究者が総論として概説し,臨床研究者がさらに臨床サイドから見た知見を紹介する構成で,臨床的な視点から基礎研究を見るための一貫した工夫が凝らされている。第3部は「がん転移に対する治療の現況」として,肝動注治療,ミサイル療法,転移予知と予防,血管新生制御,転移阻害薬開発の現況を紹介している。特に,血管新生制御と転移阻害薬の開発は転移研究成果のがん治療への応用の最前線としてトピックス性の高い話題である一方で,これらの臨床開発が欧米で先行しているのに対して,わが国での対応が制度的な問題も含めて遅れていることに対する問題提起ともなっている。がん研究者にとって,転移研究が直面する当面の課題を整理するために最適の1冊である。
B5・頁352 定価(本体10,000円+税) 医学書院


循環器内科医にも有用なCABG手術書

CABGテクニック 南淵明宏 著

《書 評》堀江俊伸(埼玉県立循環器・呼吸器センター病院長)

 近年,虚血性心疾患に対する治療としてPTCAをはじめとするカテーテルインターベンションは本邦でも広く行なわれ,良好な結果を得ている。一方,冠動脈バイパス手術の臨床成績も非常に良好である。ことに動脈グラフトを用いた冠動脈バイパス手術は長期にわたるバイパスの開存が確認されるようになり,すべてのグラフトを動脈のみで使用する傾向になってきた。また心拍動下CABGならびに低侵襲CABG(midCABG)などの手術法が脚光を浴び,その適応症例も拡がっている。
 この時期にタイミングよく南淵明宏先生による『CABGテクニック』が出版された。

術中写真を詳細に記録

 本書の特徴はカラー写真やカラーイラストが多く掲載されており,手術所見などが非常にわかりやすく説明されていることである。心臓の手術は執刀すること自体非常にたいへんなことであるが,これらの術中写真が詳細に記録され,几帳面に整理されている。これはよほど手術手技にも余裕がなければできるものではない。著者の卓越した能力とたゆまぬ努力の証であり,読者にもその意気込みが伝わってくる。
 本書は若手の心臓外科医を対象として記載されているが,循環器内科医にとっても非常に有用である。多数の冠動脈バイパス手術を経験している施設においても循環器内科医師は手術中にみられる問題点,例えばグラフトの採取時間,止血の問題,手術中のグラフトの攣縮など腑に落ちないこと,時には十分理解できない点がある。これらの問題点についても詳細に記述されている点は読者にとっても非常に有益である。ことに最近話題になっている低侵襲CABG(midCABG)の項については特に興味深い。また,CABGと脳血管障害について触れ,一般的対処法,手術時の工夫などについて記載されているが,これはむしろ循環器内科医師が術前に十分な検索を行なうべきであるとの警告とも読み取ることができる。
 いずれにしても,本邦ではこれまでにない非常に要領を得た冠動脈バイパス手術書といえる。若手の心臓外科医師はもちろんのこと,広く循環器内科医師にもお薦めしたい。
B5・頁160 定価(本体9,000円+税) 医学書院


随所に手術に対する「小越イズム」を紹介

イラスト外科セミナー 手術のポイントと記録の書き方 第2版 小越章平 著

《書 評》青木照明(慈恵医大教授・外科学)

「記録」の意味

 自然科学の研究手法には3つのステップがある。「観察」「記録」,そして「分析・検討」の3段階である。医学も自然科学の1分野である。ただし,臨床医学においては,「観察」の段階において対象が人間であり,単に観察対象として物理的に存在するのみならず,対象の能動的な情報提供がある点が他の自然科学とは異なる。すなわち生活歴や病歴などが現在の物理的存在体の観察に洞察力による解釈を与える。
 さて,自然科学における研究手法の第2のステップの「記録」であるが,現在では精巧な写真やビデオによる記録,身体の内部の画像の記録法は大きな進歩を遂げている。このような時代にあって自分の手を使ってイラストレーションする記録の仕方にどのような意義があるか?私も学生には画像診断の画像,摘出標本の写真などを一度自分でスケッチさせる。記録の重要性を認識させる第一歩である。人間が物体を観察して存在する様態を明らかにする時,その形状,色,動きなどは一度観察者の脳のフィルターにかかり,そして理解される。観察の第一歩である。すなわち「心ここにあらざれば見れども見えず聞けども聞こえず」であり,そこに表現される対象の様態は記録者の理解で変わってくる。漫然と撮られた写真1枚は場合によってはまったく意味をなさない。それに対し観察者が描いたスケッチはその観察者が何を見,何を理解したかを的確に表現する。
 このように記録をイラストで表現するということの意味は,単に記録を残すための記録としてではなく,学習者が「観察」対象をどのように理解したかを確認する意味がきわめて重要である。手術記録を書いていくことで,自分が本当に何を患者に対して実施したのかを認識する。記録することによって分析と検討が始まる。

手術室で手取り足取り先輩に教わる以上のもの

 小越章平氏著の『イラスト外科セミナー』は単に記録の書き方を示すのみならず,随所に手術に対する「小越イズム」が紹介されていて,手術室でニューカマーが手取り足取り先輩に教えてもらえる以上のものを提供している。しかもそのスタンダードはきわめて高く,大変親しみやすい。例えば,Lesson11「胃腸吻合術」の91頁をみると「縫合のリズム」という項があり,ゴルフに例えアドレス,テイクバック,インパクト,フォロースルー,“きちんと収まるべきところに収める”,これはゴルフを1度でも経験したことのある人であればなるほどとすぐに理解できる。このような手術に対する姿勢が還暦になってシングルゴルファーになる小越流手術の基盤を支えていることが理解できる。人間味溢れる外科医としての気配りと同時に細部に至る一挙手一投足が「why-なぜ」という観点から検討されており,漫然とした動きや意味のない挙動はなく,しかもそれがイラストの上でもまさに1本2本の線に表現されている。楽しく読みながら本当に手術記録の持つ意味をこれ以上余すところなく表現している著書は類例をみない。
 この素晴らしい著書に対し満腔の讃辞を送ると同時に読者諸兄姉に推薦する。
AB判・頁296 定価(本体6,500円+税) 医学書院