医学界新聞

「地域ケア新時代」をテーマに

第36回日本病院管理学会開催


 第36回日本病院管理学会が,さる10月22-23日の両日,大道久会長(日大教授)のもと,「地域ケア新時代-医療と介護の評価と実践」をメインテーマに,東京・板橋区の板橋区立文化会館で開催された(関連記事掲載。なお2316号にも続報を掲載)。

看護職から数多くの発表

 急速に進む高齢化を背景に,保健・医療・福祉に関連する諸制度の基本的なあり方の見直しが行なわれている。また,公的介護保険の導入(2000年4月)に向けた介護支援専門員資格試験が実施され,モデル事業もスタートした。
 このような中,本学会ではメインテーマに沿った企画として,特別講演「介護保険で安心できる老後を送るために」(東京家政大 樋口恵子氏)をはじめ,招待講演「福祉と経済-コミュニティケア改革の経験から」(英ケント大教授 ブレディン・デービス氏),シンポジウム「介護保険制度の運用に向けた課題」(司会=国際医療福祉大学部長 紀伊國献三氏),パネルディスカッション「病院機能評価の可能性と限界」(司会=日医大常任理事 岩崎榮氏)が行なわれたが,これらの企画は学会としてはめずらしく,一般区民も医療の利用者であるとの立場から板橋区民公開とされた。
 また,一般演題発表も討論時間に配慮をしたポスターによる発表を重視したセッションとし,口演を含め124題が発表されたが,看護部門の発表としては,「SL(Situational Leadership)理論に基づく管理スタイルの検証」などの(1)看護人事管理,「二交替勤務」などの(2)看護勤務体制,「看護補助者の活用」などの(3)看護業務分担,(4)患者満足度,「熟達を支持された看護婦の特徴と集団の臨床能力」などの(5)看護における能力開発,(6)訪問看護の分野の他,高齢者介護,クリティカルパス法,ケアマネジメントの分野での発表も行なわれた。
 さらに「クリニカルインディケーターの開発に関する研究」などの専門領域別指定・応募課題研究8題も,ポスターとして発表されたが,看護研究課題としては上泉和子氏(兵庫県立看護大)らが「看護管理教育における基準カリキュラムの開発」を発表。これは,同学会「看護管理教育開発研究会」の3年間の活動報告としてまとめたもので,カリキュラムの概念枠組み,教育目標および教育内容の試案が公表されたが,今後に向けては「教育理念,教授方法を明らかにすること。教育機関や臨床への導入戦略について検討したい」と述べた。

イギリスの高齢者ケア改革

 招待講演「福祉と経済-コミュニティケア改革の経験から」を行なったデービス氏は,ケント大で社会政策学の教授を務める傍ら,対人社会サービス研究所長も兼ねている。氏は,「10年かけたイギリスのコミュニティケア改革は,まだ改善の余地があるものの大きな成果があった。日本がこれから取り組むシステムについて,イギリスの例から共通点を学ぶことができよう」と自国の高齢者ケアをめぐる制度改革の特徴や改革による影響などを解説。「イギリスの経済力,資源の低下も改革の1要因」として,長期入院患者をそのままにしておいたこと,医療費の高騰も要因であるが,慢性的な不況からの産物であること,急進的で広範囲な改革であったことを述べた。
 また,地方自治体が行なう高齢者福祉サービスとしては,(1)対象者個々のニーズ評価に基づいたケアサービスの立案と確実な実施,(2)保健医療サービスや関連機関のさまざまな計画と整合させたケアサービスの実施を指摘。支援の目標と手段に関しては,「優先順位を明確にし,合意を形成すること。柔軟なサービスパッケージを用意すること」などをあげた。
 さらにデービス氏は,「コミュニティケアの改革は,若者や女性の就職率向上につながった」と労働力や経済効果についても述べ,「家族の介護力に頼らない」イギリスの文化が,労働市場にも影響を与えたことを解説した。
 なお,同学会の現在の会員数は1362名。次回は明年10月14-15日の両日,池上直己会長(慶大教授)のもと,「医療政策の新しい枠組み」をテーマに開催される。