医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ICDに関する本邦初の成書

植込み型除細動器の臨床
日本心臓ペーシング・電気生理学会 植込み型除細動器調査委員会 編集

《書 評》川田志明(慶大教授・外科学)

 日本心臓ペーシング・電気生理学会の委員会の1つである植込み型除細動器調査委員会は早くから公開セミナーなどを行なって活動してきたが,その委員会がまとめた本書は,植込み型除細動器(ICD)に関するまとまった成書としては,おそらくわが国において初めてのものと思われる。わが国では心室細動(VF),心室頻拍(VT)など,放置すると突然死に至る,いわゆる致死性不整脈によって,年間5-10万人の方々が死亡している。従来,致死性不整脈に対する治療法は,抗不整脈薬による薬物治療が主流であった。ところが近年,欧米におけるICDによる治療成績が,薬物治療の成績と比較して有意にすぐれているとの報告が相次ぎ,過去数年間にICD植込み症例数が急激に増加した。わが国でも1996年4月からICD植込み術の保険償還が厚生省によって承認されて以来,症例数は増加しつつある。

豊富な臨床経験をもとに解説

 しかしながら,これまでわが国においてはICDに関する専門書はほとんど見当たらず,多くの循環器医から専門書の出版が待ち望まれていた。本書の執筆者はICD植込み術に関しては第一人者であり,豊富な臨床経験をもとに各章を具体的にかつわかりやすく解説しており,初心者にも理解しやすい。高度先進医療の保険導入の一環としてICD植込み術の適応は,本装置が高価であることから,保険償還には厳格な適応条件を満たす必要がある。これまでのICDの適応の変遷を述べた後,適応決定における思考過程を解説し,インフォームドコンセントの重要性,他の治療法との比較などを具体的に説明している。ICD植込み術の手技に関しては,術前管理,術中管理に加え,麻酔法についても記述している。手術手技は開胸法,経静脈的植込み法の両手技を丁寧に図解しておりわかりやすい。

最先端の知識まで理解できる

 ICDの条件設定は術後管理上,最も重要な項目である。それには不整脈の基本的概念とともに,各種装置の機能を十分に理解することが必須条件である。いずれも豊富な臨床経験をもとに具体的に初心者にわかりやすく説明している。術後合併症は以前に比して減少しているものの,依然として皆無とは言えない。術後不整脈,ポンプ失調,感染症,誤作動,リードトラブルなど,予防と対策について詳しく述べてある。現在,わが国で用いられている機種は米国メドトロニック社製と,CPI製のものに限られている。したがって両社製の装置に関しては最新のものに限らず,以前に植込まれたものも含めて記載されており,術後管理の際便利であろう。
 このように本書はICDに関する成書としては,特に臨床面での重要事項をもれなく解説しており,これからICD植込み術を始めようと思っている初心者はもとより,すでにある程度の経験のある方にもその基本を理解するうえで大変便利な参考書となりえよう。いずれ開発されるであろう新しい次世代のICDを取扱う場合でも,開発初期から現在までの約15年の歴史とともに最先端の知識をも理解しうる,わが国では初めての成書として推奨されるものである。
B5・頁186 定価(本体4,000円+税) 医学書院


適切なエビデンスに基づいた薬剤選択を

P-drugマニュアル WHOのすすめる医薬品適正使用
T.P.G.M. de Vries,他 著/津谷喜一郎,他 訳

《書 評》黒川 清(東海大医学部長)

パーソナルドラッグとは

 日常的に医師は,個々の患者の適正な診断と治療方針に基づいて,薬の処方をする。数限りなく思われる多くの薬がそれぞれのカテゴリーの病態,症候,疾患にあるとしても,日常的に使う薬の数はそれほど多くないはずである。例えば降圧剤であれば,カルシウム拮抗薬,アンギオテンシン阻害薬などいろいろなカテゴリーのものがあるが,それぞれのカテゴリーから使う薬を,自分がどういう理由で普段選んで使っているのかと根拠を改めて考えることは,意外と少ないのではないだろうか。しかもある薬を使っている時に,その使いやすさの根拠や,個々の患者にどういう理由で処方しているのかを,そのつど考えることは,現在の保険医療制度の忙しい診療の中でどれだけあるだろうかという問題もある。そういう時,1人ひとりの医師は,意外とある一定のパターンに基づいて処方していることが多い。厳密には科学的とはいえないかもしれないが,個々の患者の病態に特徴的な処方になるわけで,パーソナルドラッグ(P-drug)といわれるもの,いわゆる「自家薬籠中の薬」を使うことが多いであろう。このような薬を選ぶ理由はそれぞれの国によっても,また医師によっても違うが,それは薬が手近に入手可能かどうかということだけではなく,それぞれの医師が受けた教育,研修,あるいは文化的な背景,個々の情報の選択,その解釈など,多くの要素があることはいうまでもない。

それぞれのP-drugをマスターする

 そこで,この本はいったい何を考えさせるか,という点で大変興味深い。本書はWHOのAction Programme on Essential Drugs(Geneva)の作成による『Guide to Good Prescribing : A practical manual』である。WHO前事務総長・中島宏先生の日本語版への序や訳者のまえがきを読んでみると,この辺の経緯がわかるようになっている。さらに,内容は4部からなっているが,なぜ適正治療の手順ができてくるのか,なぜP-drugの選択がなされ,またそれが必要なのかが書いてあり,実際のいくつかの具体的なケースをあげながら,何が問題なのかを考えさせるような形式になっている。そういう意味ではこれは日常的に臨床にかかわっている医師に非常に役に立つ本ではあるが,学生,研修医のレベルでもこのようなことを十分に理解し,それぞれのP-drugをマスターしていきながら,さらに臨床家として臨床薬理学の理解を広げていくことが,大切なのではなかろうか。
 さらに実際に薬を使う前の,患者の問題の定義とそのプロセス,治療目標の設定,それぞれのP-drugの適応性の確認,またどのように処方箋を書くかなどまで,細部にわたって非常に具体的に,しかも簡潔に書かれており,さらに処方での情報指示,注意のポイント,治療のモニター,情報の最新化をどのように自分のものにしていくか,誠に懇切丁寧に解説されているガイドブックである。さらにおもしろいのは,付録に収載されている剤形の使用説明,注射の使用などの具体的なチェックリストである。これらは若いうちから習慣をつけるべき大事なポイントであり,この小さなサイズの本に入れてあるのは大変ありがたいことである。
 訳者のあとがきにあるように,このような本がもっと早く日本でも出版されてもよかったのかもしれないが,現時点で対応できたのは,まさに津谷喜一郎先生のおかげである。そして,協力者である別府宏圀,佐久間昭両先生にも深く感謝したいすばらしい本だといえる。また,いろいろな方々のアドバイスをいただいたようだが,津谷先生の人脈を示すように,なるほどと思わせるようなお名前が何人も見えるところも,この本を読むうえでなかなか楽しいポイントの1つではないだろうか。

薬剤師の臨床教育に

 臨床の現場では,その専門にかかわらず,薬を使うことは,現代の医療には必須の部分である。この点からいっても,医師が薬を選ぶ際に適切なエビデンスに基づいて選んでいくという習慣と,それらの薬を自家薬籠中のものにすることの大切さを書いた大変実際的で教育効果の高い本であり,学生の臨床教育,研修の際に,あるいはその指導にあたる方々には,ぜひ1度目を通していただきたい本であろう。さらに最近は薬剤師の臨床教育がさかんにいわれているが,薬学部,薬剤部の教育,指導にも別の意味で役立つと思う。
 同じ頃にやはり医学書院より出版されたもう1つのおもしろい本が参考になる。実際の診療にかかわっていると1人の医師が日常的に使う薬の数はそれほど多いものではないと思われるが,北原光夫,上野文昭両先生による『内科医の薬100-Minimun Requirement 第2版』が,初版より4年半ぶりに出版されている。これを見てみると,やはりMinimun Requirement内科分野で100程度ということになるが,この100の薬の選択もさすがと思われるものがあって興味深く,またこのうちのいくつが各医師のP-drugになっているだろうかと考えるのも,おもしろい。
A5・頁176 定価(本体2,000円+税) 医学書院


自然にMRIの基本的知識を獲得

頭部MRI診断ブレイクスルー 蓮尾金博 著

《書 評》宮坂和男(北大教授・放射線科学)

医学生・研修医を対象に

 本書は,著者の頭部MRIに関する豊かな学問的知識と臨床放射線の経験をもとに,医学生や研修医を対象として書かれた。内容は基礎編と診断編から構成されている。基礎編は画像の基礎的解説と正常解剖からなる。理論的記述を必要最小限に留め,正常解剖に多くの頁を割いている。診断編は形態および信号強度の異常と,主な疾患のMRI所見からなる。前段ではMR画像における脳および脳脊髄液腔の形態の異常からいかに病変の局在診断を行なうか,さらに病変の信号強度の異常をもとにいかに病変の質的診断を行なうか,が簡潔にまとめられている。後段では虚血性病変,出血性病変,血管病変,脳腫瘍,脳奇形・神経皮膚症候群,炎症・脱髄・変性病変,眼窩内および副鼻腔病変など,日常遭遇する機会の多い疾患が多数呈示されている。
 本書を一読すると,著者が誠心を込め,最大限注意を払ったであろう幾つかの特徴に気づく。第1は,基本に忠実だが細かな論理に走らない点である。画像診断のリフレッシャーコースを行なう時,「正常解剖をまず」,あるいは「正常と異常の違いを教えてほしい」との要望をしばしば受ける。本書は全214頁であるが,その約1/3を解剖の記述に充てている。大脳から脳幹に至るまでのMR画像を細大漏らさず配置し,その1つひとつにコメントやメモが付記されている。MRIは脳の解剖をあたかも剖検脳のように具現するのである。第2は冗長さを避け簡潔明瞭に記述している点である。散文的な説明を極力避け,本質のみの記述に留め,適宜補修・メモ欄を挿入している。補修やメモ欄の中に,MRIの基本的な原理,拡散画像等の新しい技法,より詳しい解剖学や画像の解釈のポイントが簡略に述べられている。このような補修やメモの記述は,かえって記憶に残るであろう。第3は画像を前景に記述は後にである。これほどまでに誌上を画像が占める書もめずらしい。巻頭から巻末まで,ほとんどのページが2/3以上はMR画像で,残りが補足的な説明文章である。通常,臨床像・検査データ・画像から診断に至るので,疾患名からの教科書的記述ではなく,画像から見た臨床診断が要求される。その点で,まさしくシャウカステン的テキストである。第4は画像所見のキーポイントは何かがわかりやすい。画像所見の説明に対応して,キー所見の部位を色刷りで強調している。ポイントが一目瞭然である。

手軽に持ち運べるサイズ

 「習うより覚えろ」というが,わが国の卒前・卒後教育システムでは,実技を基礎的なことから覚える環境は必ずしも整っていない。本書は著者の言葉を借りると,「まったく初めてMRIに接する読者が抵抗なく頭部のMR画像に親しみ,自然にMRIの基本的知識を獲得できるよう意図して」書かれた。事実その通りである。しかも本書は約200頁で手軽に持ち運びできるサイズのペーパーブックである。医学生や若手研修医は,本書を手に,基本解剖や代表的疾患から頭部MR診断の基本を覚えることができるであろう。
B5・頁214 定価(本体4,700円+税) 医学書院


初心者にも魅力のあるビデオ作りができる

マックでビデオ 医師のためのデスクトップビデオ編集〈入門編〉
長内孝之 著

《書 評》伊藤昌徳(都保健医療公社東部地域病院部長・脳神経外科)

 最近,学会発表にはビデオセッションが増えています。顕微鏡手術,内視鏡手術などのビデオ記録をしている方でビデオセッションで発表したいと考えている方は多いと思います。しかし,最近の学会発表ビデオは画面がページめくりで次の画面に変わったり,説明の文字が動いたり,ズームアップしてきたり,ピクチャーインピクチャーが出てきたり,ずいぶんお金がかかるのではないかと後込みしてしまう方も少なくないのではないでしょうか。また,学会の器械展示に足を運んだり,ランチョンセミナーに出席してみると,各メーカーのビデオコンピュータ編集システムが紹介されるようになっています。しかし,これらの編集システムは高価すぎてとてもうちの医局,うちの病院では買ってくれそうもないことに気づき,あきらめの気持ちになってしまいます。ましてや,ビデオ編集を業者に依頼しようものなら数十万円かかってしまいます。

お金をかけずに思い通りのビデオ作成

 このたび,東京医科歯科大学第2外科の長内孝之先生が『マックでビデオ-医師のためのデスクトップビデオ編集〈入門編〉』という解説書を出版されました。医師の間で最も普及しているパソコンであるマッキントッシュを使用して,ビデオのノンリニア編集が平易に解説されています。まず,手持ちのマックにビデオキャプチャーボードをインストールし,ハードディスクの容量を増やせば準備OKですが,どんなビデオキャプチャーボードを購入すればよいかも本書に書かれています。従来のアナログ編集機を使用してきた方はビデオ編集の最後の部分にさしかかると制限時間を越えそうになり,尻つぼみ編集に陥ってしまったことを経験されていると思います。編集が終了してから,この部分を縮小して,この部分を長くしたい,画面をスピンさせて画面が変わるのを強調したいなどと思っても不可能です。「アドビプレミア」という市販のソフトを使用すれば,画面の切り取り,短縮,並べ替えは自由自在ですし,画面が変わる時にページめくり,回転,カーテンなどの効果を挿入することもいとも簡単にできます。また,画面に説明文を書いたり,ピクチャーインピクチャーで説明のシェーマを挿入させたりも自由自在です。この本は初心者にもそうお金をかけずに魅力のあるビデオ作成ができるように,そのシステムの組み方からソフトの使い方までわかりやすく解説されています。

デジタルビデオで録画した映像も

 最後の章で,最近はやりのデジタルビデオで録画された映像をノンリニア編集できるRadius Fire Wire/Moto DVを用いたシステムも紹介されています。実際に長内先生の医局ではあまりお金をかけずにビデオ作成システムを導入し,数々のビデオ発表を行なっておられ,このことは杉原健一教授(東医歯大)が巻頭言で述べておられます。私も長内先生の手ほどきを受け,相当数のビデオ発表をさせてもらいましたが,学会場で「先生はどんなソフトを使ってビデオ編集をしているのですか」という質問をよく受けます。そんな時には本書を推薦することにしています。
B5・頁152 定価(本体4,500円+税) 医学書院


産科麻酔のすべてを1冊に

産科麻酔ハンドブック サンジェイ・ダッタ 著/奥富俊之 訳

《書 評》鈴木健治(けいゆう病院長)

 第2次世界大戦後の約半世紀の間,わが国における医療の多くは,欧米,特に米国医学の影響を大きく受けてきた。特に,最近の情報・通信技術の進歩は,きわめて短期間の国際化を可能にしている。しかしながら,こと産科麻酔に関しては未だに彼我に大きな差異が残る。このことは,妊娠・分娩をとらえる文化的背景が大きく関与するとともに,慢性的麻酔医不足や産婦人科医の関心の薄さにも起因するであろう。しかし最近は,手術室,ICU,ペインクリニックから分娩室へと活動の分野を広げる麻酔医も次第に増える傾向にあり,技術的進歩とあいまって,産科の実地臨床の場に変化の兆しがうかがえるようになった。このような状況の中で,産科患者を扱う上の基礎的概念と最新の技術を習得するためのガイドブックとして本書が刊行された意義は大きい。
 著者のサンジェイ・ダッタ(Sanjay Datta)は米国産科麻酔の第一人者であり,ハーバード大学医学部麻酔学教授としてボストン市の産科医療のメッカであるBrigham and Women's Hospital(BWH)の産科麻酔の長を務め,わが国からも多くの麻酔医がスタッフやレジデントとして彼の教示を受けている。

妊産婦に麻酔をかける時の必須事項

 本書は,妊娠,分娩,産後の母体の生理的変化に始まり,臨床薬理学的知見や陣痛に対する薬物生理学的考察などの妊産婦に麻酔をかける上に必須の基礎的な事項につき,簡潔で要を得た記述がある。特に,昼夜を分けず行なわれる正常分娩の麻酔管理については,0.125%ブピバカインと2μg/mlフェンタニールを8-10 ml/時間の速度で注入する持続硬膜外麻酔を標準的方法とし,その手技ならびに注意すべき合併症につき詳細な記述がなされている。この陣痛の緩和法については,薬物によらない精神予防法に始まり,鎮静薬,鎮痛薬の全身投与法,吸入麻酔法などと多岐にわたるが,著者は所属するBWHで実際に行なわれている方法についてのみ言及し,その他は,採用されない理由をあげ,あくまで現場に即した立場が守られている点が特徴であり,初歩的入門のためのガイドブックとしての価値を高めている。このことは,帝王切開やハイリスク妊娠の麻酔についても一貫しており,ただちに実地で役立つ明解さの要因となっている。
 各章には,それぞれの概要が述べられており,そこから個々の事項に入る構成は,学習の円滑な思考過程に沿ったものといえる。さらに,各章末の豊富な参考文献はより専門的知識の習得を助けている。産科サイドからみれば,子宮胎盤血流,新生児神経行動学的検査,胎児モニターなどの基礎的知識を備えた麻酔医と協調できれば,産科診療の飛躍的向上が期待できるであろうし,日々の症例につき,常に麻酔医と討論ができる環境が必要である。これにより,初めて高い安全性,無痛性,満足度を備えた産科麻酔が実現するのであろう。

産科医必携のガイドブック

 訳者は,産科的基礎知識を持つわが国の産科麻酔医の第一人者でもあり,訳語も正確で統一され,図表も読みやすく改変されている。単に麻酔医のみならず,産科医必携のガイドブックとしても推奨したい。
A5変・248頁 定価(本体5,000円+税) 医学書院MYW