医学界新聞

「第36回日本癌治療学会」より


集学医療の重要性を強調

 「21世紀の癌治療-集学医療の役割」と題して特別講演を行なった平野稔氏(久留米大)は,専門である頭頸部癌の手術に採り入れた集学医療の実績を紹介した上で,21世紀の癌治療における集学医療の重要性を強調。「集学医療とは,各科の医師が順々に患者を診ていくのではなく,チーム全体で1人の患者を一緒に診て,一緒に手術し,一緒にフォローアップする体制である」とし,「チームのレベルを上げるには構成員全体のレベルを上げる必要がある」と語った。
 また,集学医療センターや緩和ケアセンター,先端癌治療研究センターの設置によるハード面の充実と,“癌集学医療研究会”の設立によるソフト面の向上が図られた久留米大学医学部を例にあげ,(1)必要な分野の一流の専門家,(2)良いチームワーク(情報共有,意見交換,相互理解),(3)インフォームドコンセント,(4)チームのまとめ役,(5)治療法選択の基本原則の確立と個別化,(6)臨機応変な対応などが,これからの集学医療に必要だとし,「癌に対する医療ではなく,癌患者に対する医療を常に心掛けなくてはならない」と訴えた。

市民の声を反映
公開講座「癌治療の最前線」開催

 最終日の市民公開講座は,「癌治療の最前線-患者の立場に立つ最適な治療を目指して」をテーマに2部構成で行なわれ,第1部では,岐阜大附属病院長の佐治重豊氏と,故逸見政孝氏夫人の逸見晴恵氏がそれぞれ口演した。
 医療サイドの立場として登壇した佐治氏は,参加者を患者に見立て,「今から皆さんにインフォームドコンセントをするつもりでお話しします」と述べてから口演を始め,癌治療を戦争に例え,「外科療法が空軍による爆撃,放射線療法が戦車や潜水艦,化学療法が歩兵で,免疫療法がゲリラ,静脈栄養や経管栄養は食料補給で,精神看護や疼痛対策が激励や適当な刺激にあたる。これらを駆使して治療するのが集学的治療」と説明。いずれの治療法も技術的にはかなり向上しており,21世紀に向けて,個性化への対応と,心理的な問題が重要になってくることを語った上で,「完全切除による根治に勝るQOLはない」と,外科医としての主張を述べて口演を締めくくった。
 一方逸見氏は,夫政孝氏と過ごした苦悩の日々を語り,インフォームドコンセントと告知の必要性を訴えるとともに,「インフォームドコンセントが徹底していない現在においては,セカンドオピニオンやサードオピニオンを聞くことが大切だ」と主張した。
 第2部のパネルディスカッション(司会=薬師寺道明氏,朝日新聞社 稲垣忠氏)では,5人のパネリスト(佐治重豊氏,逸見晴恵氏,昭和大附属豊洲病院長 栗原稔氏,福岡県副知事 稗田慶子氏,大阪府立看護大学長 小島操子氏)を迎え,(1)癌をどのように捉えたらよいか,(2)インフォームドコンセント・告知・カルテ開示について,(3)理想の医師・看護婦像,(4)卒後教育,(5)病院の環境問題,(6)癌検診の効果,といったテーマに沿って各パネリストからの率直な意見が交わされた。これらのテーマは事前に市民からアンケートを取って作られたものであったが,3時間半にわたる公開講座で,フロアからの質疑応答のために費やされた時間は十分とは言いがたく,会場に若干の不満の声が残った。