医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


気管支鏡の標準的テキスト

気管支鏡 臨床医のためのテクニックと画像診断 日本気管支学会 編集

《書 評》阿部庄作(札幌医大教授・内科学)

 近年の大気汚染物質や居住環境の変化,人口の高齢化に伴って各種呼吸器疾患の増加が著しい。また,各種呼吸器疾患の臨床病態解析の進歩は著しく,多くの新しい病態や疾患概念が提唱され,一定の見解が得られてきている。このような呼吸器疾患の病態解析の進歩の一翼を担ってきたのが気管支鏡である。当初,気管支鏡は主に肺癌の診断機器として用いられていたが,気管支肺胞洗浄法の開発により,各種びまん性肺疾患の病態解析,診断が著しく進歩した。最近はレーザー治療,腔内照射,ステント留置などの治療にも用いられてきている。いまや呼吸器疾患の臨床に必須の医療機器であり,気管支鏡を自由に扱えない医師は呼吸器疾患の臨床にかかわれないといっても過言でない。

気管支鏡を修める医師の座右の書

 従来より気管支鏡に関する標準的な単行本が望まれていた。このたび,医学書院より日本気管支学会の編集による気管支鏡のすべてとも言える『気管支鏡―臨床医のためのテクニックと画像診断』が刊行された。編集責任者の古瀬清行先生,土屋了介先生が序論で述べているように,日本気管支学会としてコンセンサスに近い形でまとめたとされている。
 内容は第I章で機器の解説,消毒を含めた取り扱い方を述べている。II章では適応と禁忌が解説されているが,相対的禁忌の順守の重要性が指摘されている。III章では基本手技が詳細に述べられている。施行にあたり十分なinformed consentも忘れてはならない。IV章は気道の解剖と正常の内視鏡所見で,鮮明なカラー写真でわかりやすく論述されている。V章は診断方法について解説されている。病的所見については肺癌取扱い規約,改訂第4版(日本肺癌学会編)の気管支鏡所見分類を基準としている。内視鏡写真も鮮明で特徴的所見を示しており,図表もわかりやすい[文中にも記載されているが,所見の後ろの(見出し記号)が所見の前の見出し記号と似ていることもあり,やや混乱しそうである。本書は気管支鏡を修める医師の座右の書ともなることより,コンセンサスの確立が急がれる]。VI章は治療方法について,Brochial Toiletから最新のBrachytherapyまで丁寧に解説されている。VII章は日常遭遇する疾患から稀な疾患までの気管支鏡所見が,特徴をとらえた鮮明な写真で記載されており,非常に参考となる。VIII章は気管支鏡施行時の合併症とその予防対策が述べられている。気管支鏡を行なう医師は熟知していなければならない事項が詳細に解説されている。IX章は硬性気管支鏡について概説されている。近年の気管支鏡による治療法の開発により硬性気管支鏡が再評価されており,参考となる。
 今後,気管支鏡の機器の改良,新開発も進むであろうし,施行方法や目的も拡がると思われるが,本書は気管支鏡を施行する医師にとって,非常に参考となる標準的テキストであると言える。
B5・頁232 定価(本体10,000円+税) 医学書院


プライマリ・ケアの現場における精神科マニュアル

DSM-IV-PCプライマリ・ケアのための精神疾患の診断・統計マニュアル
ICD-10コード対応

The American Psychiatric Associantion著/武市昌士,佐藤武 訳

《書 評》野村総一郎(防衛医大教授・精神科学)

 プライマリ・ケア医は現場で多くの精神医学的問題に直面する。身体疾患に伴う心の問題,心身症,いわゆる不定愁訴症候群の診療,さらには軽い精神疾患の治療や地域のメンタルヘルス相談を持ち込まれたりする。これらは本来専門家である精神科医の役割だが,患者の側から言えば身近な存在であり,身体的な問題と合わせて治療してくれるという安心感などからプライマリ・ケア医への期待が大きいのである。これは世界各国に共通した事情であって,プライマリ・ケアの担当者が精神科の知識をある程度身につけ,専門医と連携して共同作業を行なうことの必要性が叫ばれてきた。
 本書はまさにそれに答える形で出版された待望の書である。米国精神医学会ではすでに精神科医の間の診断概念を一致させる目的で,膨大なデータと長年にわたる多くの専門家の討論を経て,DSM-IV(日本語版は「DSM-IV 精神疾患の診断統計マニュアル」高橋三郎,他訳により,1996年に医学書院より出版されている)を完成させ,これが米国内ばかりか日本を含む世界各国の標準的な診断基準として用いられるようになっている。ただこれは本来的に専門医を主要な対象としたもので,プライマリ・ケアの現場では使いづらいという批判があった。本書ではその批判を受けて,あくまでプライマリ・ケアでの使用に目的を特化して再編されたものである。しかし,その内容は決してDSM-IVの簡略版ではない。あくまで非専門家が現場で実際に簡単に使えるにはどうあるべきか,という慎重な検討と工夫の上に作られている。一読してそのような努力がひしひしと伝わる形式となっている。

アルゴリズム導入

 最大の特徴はDSM-IVの分類をそのまま用いながら,診断にかなり割り切ったアルゴリズムを導入した点であろう。つまり,アルゴリズムをたどっていけば,そのままDSM-IV診断に行き着けるようになっている。しかも,まずどのアルゴリズムを選べばよいのかを決めるための一般アルゴリズム,大まかに流れを知るためのクイックアルゴリズム,症状から検索のできる症状索引,とあの手この手と繰り出して診断が可能になっており,まさに至れり尽くせりという感じである。ただアルゴリズムによる誤解も生じやすい。つまり,疾患名が階層的に配列されているので,アルゴリズムの質問にしたがって進む途中である診断に行き着くと,それ以上先に進まなくてもよいのだ,というふうに忙しい現場では勘違いしてしまうかもしれない。その場合,2つ以上の疾患を持っている患者で一部の診断が抜け落ちる可能性が生まれる。ただし診断法や症例呈示の中で,重複診断が可能なこともちゃんと書いてあるのだが,よほど注意して読まないと気づかれないであろう。
 本書のもう1つの特色は,心理社会的問題をコード番号をつけて評定可能としたことであろう。これは精神科医には当たり前でも身体医には新鮮な感覚ではなかろうか。そして,使ってみて必ずその治療上の有用性を発見することであろう。この点は実は最も本書の評価できる点ではないかと感じられる。
 翻訳は慎重に検討されたのがよくわかる。もちろん本書の性質上寝転がって気楽に読む,というものではないが,ケースに直面しながら手早いマニュアル的な利用が可能な日本語となっている。本書は本来のねらいであるプライマリ・ケア現場での利用の他,非常にコンパクトにまとまった臨床情報を含めて,医学生や精神科研修医の勉学にも有用であるとも思われる。
B5・頁304 定価(本体4,200円+税) 医学書院


発生学の基本を短時間で学べる教科書

サンドラ発生学コアコンセプト A.Sandra, W. J.Coons 著/山内昭雄 訳

《書 評》安田峯生(広大教授・解剖学)

人体発生学の重要事項を提示

 本書の「コアコンセプト」という書名はまさに「名は体を表わす」の諺のとおりと言える。発生についての基本事項を,初期発生で受精から原腸形成まで6項目,体形の成立で神経ヒダの形成から多胎まで14項目,器官系の発達で筋・骨格系6項目,体腔2項目,頭頸部11項目,心血管系12項目,消化・呼吸器系11項目,尿生殖器系11項目,神経系8項目,総計75項目にまとめ,各項目について見開きの左頁に解説,右頁に図を入れた構成は,心にくいばかりに見事である。著者が序文に記しているように,人体発生学の基本的な重要事項を提示しており,発生学入門書,試験準備のための復習書として役立つものであることは,疑いない。
 解説は1項目平均800字程度で,簡潔に重要な概念が記されている。解説頁には1/2から1/3頁程度の余白が残され,学習者が記述を追加するのに便利であろう。図は白黒のスッキリした線描画で,最近のカラフルな立体的模式図を見慣れた目にはかえって新鮮である。学習者が予習,復習しながら塗り絵のように彩色するのも理解を助けるのに有効と思われる。
 日本語版は,多くの著書の翻訳をされた訳者のものだけに,よくこなれた日本語で書かれており,読みやすい。訳者にうかがったところでは,文章の内容修正や図の輪郭線の修正も数え切れないほど行なわれたということで,原著よりも優れたものになっていると思われる。解説,図ともに,解剖学・発生学用語は日欧両語が併記され,充実した和・欧文索引とともに,欧文学術用語の学習の便が計られているのも,国際化がますます進む時代にふさわしい。発生学用語の日本語訳も適切である。
 もちろん,初版だけに注文をつけたいところもいくつかある。その第1は,コアコンセプトとして,臨床で常用される月経後胎齢と,初期発生の記述でしばしば出てくる受精後胎齢の違いについて,解説を加えてほしいことである。両者には標準的な月経周期の女性で約2週間の差があり,初学者に混乱を起こしやすい。例えば,本書では肢芽の初発は「胎生2か月目のはじめ」と書かれているが,受精後胎齢で満4週頃を意味している。これを月経後胎齢と誤解すると受精後満2週頃となってしまう。もっとも既存の発生学教科書でもこの点には触れていないものが多く,本書のみの問題ではない。第2に,胎齢のいつごろに胚子・胎児がどのような形態をしているかを一目でわかる図と解説があれば,学習者に便利であろう。
 ヘルスケア職種の教育で発生学に割ける時間は一般的にいって短く,中途半端なものになりがちであるが,本書は限られた時間を有効に使うのに適した教科書・参考書といえよう。
A4変・頁184 定価(本体4,300円+税) MEDSi


RA患者の日々の診療に直ちに役立つ手引書

図説 リウマチの物理療法 病院での治療から自宅療法まで 竹内二士夫 編集

《書 評》東 威(聖マリアンナ医大客員教授)

病院から自宅まで病状ごとの物理療法を示す

 慢性関節リウマチ(RA)は,多発性関節炎による痛みと,関節破壊による機能障害により,患者の日常生活動作を著しく阻害する疾患である。その治療には内科的薬物療法,整形外科的手術療法,本書にある物理療法を含むリハビリテーションを,患者の病期,病状に合わせて適切に行なうことが重要である。特に物理療法においては個々の疾患に合わせたオーダーメイドの治療スケジュールが必要で,一律に行なうことはかえって患者の病状を悪化させる恐れがある。そのような意味で病院から自宅まで,病状ごとの物理療法を示した『図説 リウマチの物理療法-病院での治療から自宅療法まで』は,今までにない意図の下に作られたRA治療の解説書である。
 慢性進行性の疾患であるというRAの性質上,治療は継続的に行なわれる必要があり,物理療法も入院中だけ,あるいは病院に行った時だけではなく,自宅で根気よく毎日続けることによって初めてQOLの改善をみることが多い。従来,RA治療においては内科的,整形外科的治療にくらべてリハビリテーション(物理療法)がやや軽く見られてきた背景には,病期,病状に合わせた治療計画の立て方が難しいことと,自宅での継続が困難な点があったと考えられる。患者にはやや専門的な部分もあるので,基礎知識なしに読んだだけで完全に理解できるものではないが,医療チームが本書を使って説明することにより患者の理解が向上し,自宅での物理療法が継続されるようになることが期待される。

コメディカルに恰好のマニュアル

 東大物療内科は,RA患者に内科的治療だけでなく,鍼灸も含めた物理療法を併用している非常にユニークな診療科として有名である。編集の竹内博士はRAを含めた膠原病の基礎的研究の分野で著名な学者であるばかりではなく,診療面でも多くのRA患者を持ち熱心に取り組んでいるリウマチ医である。そして本書には医師である竹内博士のほか,物理療法の療法士,看護婦が共著者として参画している点も1つの特色である。そのために具体的な記述が多く,RA診療に携わる医師はもちろん,チーム医療の担い手であるコメディカルの人々にも利用され得る恰好のマニュアルとなっている。
 内容は解説に始まり,病期ごとのリウマチ体操,病状ごとの自宅での介護と物理療法が続き,効果の評価法,薬物療法,手術の適用,付録として手技の解説,社会保障制度の紹介が付け加えられている。また関係箇所ごとに一口メモとして各療法の解説が入っているが,記述が簡潔でわかりやすく,これらはRA以外の診療分野においても役立つものと思う。
 疾患の性質上,また医学的知識のない患者にわかりやすくするためにはやむを得ないことかもしれないが,あえて希望を述べれば,体操の図などに繰り返しが多い点はもう少し工夫されてもよかったかと思われる。この点を差し引いても,本書はRA患者の日々の診療に直ちに役立つ手引書として推薦されよう。
B5・頁128 定価(本体3,500円+税) 医学書院


様々な角度から解説した頭部MRI入門書

頭部MRI診断 ブレイクスルー 蓮尾金博 著

《書 評》片山 仁(順大学長)

 頭部MRI診断は,速いスピードで普遍化しつつある。X線CTの出現は,神経放射線診断を専門家の手から一般の手元にブレイクスルーしたが,その後発展したMRIも解像力のよさと,MRAなど幅広い応用範囲から,今や神経放射線診断にはなくてはならぬ存在となってきた。X線CTは神経放射線診断を一挙に一般医の手元に引き寄せたが,MRIはどうであろうか。MRIがさらに神経放射線診断を一般医の手元に引き寄せたであろうか。私の答は“No"である。なぜならば,MRIはX線CTとまったく異なった原理に基づいて画像が作られているし,MRIの新しい可能性はCTの段ではないからである。ある意味ではMRIの原理が新しいものであるだけに,MRIで見えるものが予想を越えて大きいものであるだけに,いったんX線CTで手元に近づいた神経放射線診断も,少し距離のある存在に回帰したのではないかと思っている。したがって新しいブレイクスルーが必要となったわけであろう。本書『頭部MRI診断ブレイクスルー』の期待はまさにこんな所にある。

脳の画像解剖的ランドマーク

 本書をひもといてみてまず気がつくのは,必ずしもやさしくないMRIの原理を思い切って割愛してあることである。原理については多くの成書で取り扱っているので,これでよいと思う。一般に医師は物理学や数学にアレルギーがあることを多分知ってのことと思うが,最初からMR像を出して画像解剖のランドマークを色刷りでわかりやすくしてあるのがよい。脳の画像解剖学的ランドマークは言葉では聞いたことがあっても,画像の上で正しく指摘できる人は少ないので,このように色でもってわかりやすくしてあることは大変助かる。画像診断の始まりは肉眼所見との対比であり,オーソドックスな手法で記載してある本書は実践で非常に使いやすい。近未来的にはミクロとの対比,さらに機能との対比が付加的に議論されるであろうが,そのベースラインとしても本書は大変役に立つと思う。
 蓮尾金博先生は1997年10月に,九大放射線科より国立国際医療センターの放射線科医長として赴任されたが,蓮尾先生の人生の大きな区切りの記念としても本書の発行は意義深いものがある。蓮尾先生は九州から東京に出てくることに,それほど抵抗はなかったものと推察するが,本書が蓮尾先生の東京での活躍のブレイクスルーになればと願っている。
 画像診断は機器やソフトの発達のおかげで,非専門医にもかなりわかるようになったといえるが,専門領域は奥が深く,なまやさしいものではない。蓮尾先生が自分の専門領域で秘伝を守るがごとき態度ではなく,あえて他人のために,自ら殻を破って自分の専門性を犠牲にしても本書を世に出されたことは本当に偉いと思う。本書は自分の専門性を守ろうとする態度,あるいは自分が苦労して勝ち取ったものであるから,皆も同じ苦労をすべきだといった日本の教育のやり方をブレイクスルーするような本であると思う。われわれは蓮尾先生の今までの苦労に思いを馳せながら,便利な本書で脳のMRI診断を勉強させてもらうことにしよう。蓮尾先生の今後のますますの活躍を期待したい。
B5・頁214 定価(本体4,700円+税) 医学書院


眼科医に手離せないハンディな辞典

英和・和英 眼科辞典 大鹿哲郎 著

《書 評》小口芳久(慶大教授・眼科学)

 今回医学書院から発刊された『英和・和英眼科辞典』を手にとって見て,本辞典が大鹿哲郎先生お1人で書かれたことに驚いた。日常多忙な臨床・研究・教育を担当している先生が,と誰でもそう思うに相違ない。しかし序に記載されているとおり,本辞典は大鹿先生が眼科学独自の英和・和英辞典を作成することを数年来の懸案としておられ,その結果先生ご自身で作成された辞典である。
 本辞典には英和,和英の両方が掲載されているが,英和では単語の和訳とその意味や説明がつけられており便利である。しかも非常に簡潔で読みやすい。また眼科臨床で頻回に用いるAACG,POAGなどの略語も記載されている。編纂された用語は日本眼科学会用語集の日本語訳を基本としているが,そこにない用語も多数あり,この種の用語に関しては成書に記載されている訳も付している。また正式な和訳がない単語も少なからずあり,これに対しては著者が新規に和訳を付している。今回編纂された辞典の参考資料が載っているが,この資料を読むだけでも大変であろうと想像するが,これをアルファベット順に抜き出し整理整頓され,しかも解説まで加えられたことは大変な努力と時間を必要としたのではないかと思われる。このような業績に対して心から敬意を表したい。

コメディカルにも便利な1冊

 本辞典を最初から数頁読み出したら,これだけ読んでもなかなか興味のある読みものに思えてきたのが不思議である。おそらく大鹿先生のこの辞典編纂の思いがこの辞典の中に宿っているものと思われる。多分本辞典は眼科医が常にそばに置いて離すことのできないものとなるに相違ない。そして眼科医のみならず,眼科関係の看護婦,視能訓練士などのコメディカルの人たちや眼科に関連ある各診療科の医師にもぜひ利用していただきたい優れた辞典である。この種の辞典は序にもあるように誤記,重複などもあると思うが,責任感の強い大鹿先生のこと,すぐにでも訂正された改訂版が作られることと考える。サイズもハンディであり,利用しやすい辞典である。
B6・頁700 定価(本体6,000円+税) 医学書院