医学界新聞

第19回日本炎症学会開催

「抗炎症戦略の新機軸」をテーマに


 さる9月3-4日,東京・新宿の京王プラザホテルにおいて,第19回日本炎症学会が室田誠逸会長(東医歯大・院 細胞機能制御学)のもと開催された。会長講演で室田氏は,「可視化手法を用いた細胞機能の解析」をテーマに口演した他,本学会初めての試みであるサテライトシンポジウムでは,海外から演者を招待し,「COX2阻害剤による炎症治療の新展望」をテーマに行なわれるなど,多くの参加者を集めた。
 また,今年4月より本格施行が義務づけられた新GCP下における治験をめぐって,パネルディスカッション「日本における治験の空洞化とその防止策」(司会=聖マリアンナ医大 水島裕氏,シミック 中村和男氏)が企画された。医師,行政(厚生省),CRO(開発受託機関),製薬企業とそれぞれの立場から話題を提供,多面的なアプローチが試みられた。

ノックアウトマウスを用いた炎症研究の現状

 2日目にはシンポジウム「ノックアウトマウスを用いた炎症の解析」(司会=東大清水孝雄氏,東大医科研 高津清志氏)が企画され,多彩な研究成果が報告された。
 最初に牛首文隆氏(京大)が,プロスタノイドの発熱,免疫,ストレスへにおける役割を検討。発熱反応へ関与が知られるプロスタグランディン(PGE)脳室内投与と,内因性発熱因子IL-1β投与では,EP3受容体欠損マウスにのみ発熱が認められなかったことから,「EP3受容体は,発熱に関与する最終のメディエーター」と述べた。またトロンボキサン受容体欠損マウスでは実験モデルから,免疫反応の亢進,高齢(30週齢)でのリンパ節,脾臓,胸腺等でリンパ球増殖などが認められ,トロンボキサン受容体が免疫細胞の増殖に重要な役割を果たすことを示した。
 続いて,魚住尚紀氏(東大)が,血小板活性化因子PAFの産生に重要な役割を果たす細胞質型ホスホリパーゼA2(cPLA2)の欠損マウスの作成過程を解説し,このマウスを用いて,cPLA2の臓器レベルでの役割を検討。cPLA2欠損マウスが気管支喘息の特徴的な病態である気道過敏性の誘発を抑制したことを証明した。またPAF受容体欠損マウスも同様の実験で気道抵抗が減少したことから,気道過敏性反応に対して血小板活性化因子やエイコサノイドが大きく関わる可能性を示唆した。

炎症の分子機構解明へのアプローチ

 稲垣直樹氏(岐阜薬大)は,IL-4とIL-5の気道炎症における役割について,能動的に感作したマウスに抗原吸入させ,アセチルコリンに対しての気道反応性と,気管支肺胞洗浄液(BALF)中の炎症性細胞の浸潤を検討,アトピー性喘息に類似した所見が得られた。気道炎症や気道反応性亢進にはIL-4,IL-5それぞれ重要な役割を果たすが,後天的に両者の作用を単独で制御しても,これらの病態を抑制するのは困難なことを示した。しかし,両抗体の作用を同時に制御することで,アレルギー性気道炎症を抑制できる可能性を示した。
 リンパ球組織に発現する細胞内アダプター蛋白質であるLnkは,T細胞のシグナル伝達への関与が注目されているが,高木智氏(東大医科研)は,Lnk欠損マウスを作成,そのシグナル伝達における役割を検討。Lnk欠損マウスにおいて脾臓で脾腫,B細胞が蓄積・増加し,血清IgM濃度上昇する原因を検討し,この欠損マウスではB前駆細胞の異常(増殖亢進)が考えられることから,「LnkはB前駆細胞増殖を負に制御し,B細胞の総産生量を決定する何らかのシグナル伝達に関与している物質と考えられる」とした。さらに,Lnkと相当性を持つアダプター蛋白質群は,細胞の増殖・分化を負に制御して,生体内のホメオスタシスを維持する因子である可能性を示した。
 最後に瀧伸介氏(東大)は,インターフェロン(IFN)制御因子(IRF)が,生体防御系の中でどのような役割を果たすかを検討。IRF-2欠損マウスが生後7-8週後に人の尋常性乾癬様の炎症性皮膚疾患が自然発症することが認められたが,IFNα/βシグナル伝達分子p48とIRF-2の二重欠損マウスでは症状が見られないことから,皮膚炎症におけるIFNの関連を示唆した。氏は「通常状態でもIFNは微量に産生されており,それがシグナル伝達因子を介して亢進され炎症を起こしてしまう。IRF-2は弱いIFN刺激をキャンセルすることで,発症を抑制しているのでは」とし,また皮膚炎症発症にはCD8T細胞活性が大きく関与していることを明らかにした。