医学界新聞

第46回日本心臓病学会学術集会開催


 第46回日本心臓病学会学術集会が,山口徹会長(東邦大教授・第3内科)のもと,さる9月9-11日の3日間,東京の国際フォーラムにおいて開催された。「臨床心音図研究会」として発足した同学会は,「臨床心臓図学会」を経て1986年に「日本心臓学会」へと発展したが,山口会長は今学会のキーワードを「臨床」と「教育」とし,心臓病の臨床に立脚した研究発表・討論の場と同時に,広くコメディカルスタッフをも含めた教育研修の場を提供することを目的とした。
 同学会は,上述した設立の経緯からややもすると診断学の領域の研究発表が多かったが,山口会長はバランスの採れた学会をめざして今回は特に“治療学”に重点を置き,「再狭窄に対する放射線療法」(エモリー大 S.B.King氏),「心血管疾患に対する遺伝子治療」(タフツ大 J.M.Isner氏),「末期心不全に対するBatista手術,人工心臓と心臓移植」(クリーブランド・クリニック財団 P.M.McCarthy氏)の3題の招請講演の他,シンポジウム4題,パネルディスカッション5題,ビジュアルワークショップ2題,一般演題822題が企画された。


「冠動脈インターベンションの進歩と功罪」

POBAの限界とステントによるその克服

 会長講演「冠動脈インターベンションの進歩と功罪」において山口氏は,その歴史を次の3期に分けて分析した。
(1)POBA期('84.11-'93.12:Plain Old Balloon Angioplastyを主体とする)
(2)ステント前期('94.1-'96.6:ステント保険適用後,ワーファリンによる抗凝固療法)
(3)ステント後期('96.7-'98.7:ステント保険適用後,チクロピジンにおる抗血小板療法)
 山口氏は,まずPOBAを含めたPTCA(経皮的冠動脈形成術)の限界として,
(1)急性期合併症を確実に回避できない
(2)POBAで良好拡張が得られない病変群がある
(3)慢性期再狭窄を防げない
ことを指摘した。
 そして,それに対応させて,ステントによるPOBAの限界克服として,
(1)急性冠閉塞を回避できる-緊急CABG(冠動脈バイパス術)の著減
(2)複雑な病変形態でも一部は良好に拡張できる-適応拡大 
(3)再狭窄率を減少させた―再治療率の減少
どをあげた。

ステントの登場による冠動脈インターベンションの進歩

 また山口氏は,「ステントの登場によって冠動脈インターベンションは本当に進歩したのか?」と問いかけ,自施設におけるデータを基に,(1)臨床背景,(2)治療成績,(3)医療費の側面から分析。
 山口氏によればその結果,臨床背景としては,(1)高齢者,有合併症例の増加,(2)多枝病変例,複雑病変形態(type B/C),低左心機能例,CABG後例の増加,また治療成績として,(1)初期成功率の増加,(2)急性期合併症の減少,(3)慢性期再狭窄率,再治療率の減少,などが上げられる。
 さらに山口氏は,「ステント時代の明らかでない点」として,
(1)ステントがPOBAに勝る病変形態は何か-ステントの濫用(stent mania)
(2)POBAによる良好拡張(stent-like)はステント留置と同等か-provisional stentingの妥当性
(3)ステント再狭窄はPOBA後再狭窄と同じか-再治療の必要性
(4)ステントの長期予後はPOBAと同じか
(5)ステントはどこまで進歩するのか
の諸点をあげた。
 そして,POBAとCABGの臨床比較試験((1)長期生存率には差がない,(2)再治療率はPOBAが明らかに高率,(3)症状改善度に差がない,(4)医療費はPOBAが僅かに少ない)を紹介した後,「(1)冠動脈インターベンションの主役がステントになったことにより,短期的および長期的な医療成績が向上した。(2)ステントテクノロジーやステント留置術(抗血小板療法,IVUS〔血管内エコー〕など)はさらに進歩する可能性がある。(3)ステント治療と薬物治療,CABGと選択に関する十分なevidenceはないので,ステントの濫用を排する視点が必要である」と強調して山口氏は会長講演を締めくくった。

coronary interventionの歴史

1977年:GruuntzigがPTCAの第1例を実施
1979年:PTCAの登録を米国の国立心肺血液研究所(NHLBI)が開始,多くの知見が発表され,PTCAの普及が適応決定に貢献した
1981年:PTCA器材の改良,Simpson,RobertはPTCAカテーテル内を可動性の柔軟なガイドワイヤが通るように改良し,より複雑な病変,末梢病変を選択できるようになった
1985年:SigwartがWallステントを使用
1993年:GR(Gianturco-Roubin)ステントを,PTCA後のbail-out用にFDAが認可.
 わが国ではPalmaz-Schatzステント,Wiktorステントが認可された
1995年:minimally invasive CABG開始される
1996年:わが国でGRステントが認可
1997年:わが国でCordisステントであるRotablatorが認可

(野々木宏他編『Coronary Interventionの臨床と病理』〔医学書院刊〕より抜粋)