医学界新聞

“開かれた癌学会”をめざして

第57回日本癌学会総会開催


 第57回日本癌学会総会が,さる9月30日-10月2日の3日間,阿部薫会長(国立がんセンター総長)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。今学会では,「基礎から臨床へ,臨床から基礎へ」をテーマに演題総数2811題がプログラム編成され,「キュリー夫妻ラジウム発見100年周年記念シンポジウム」を含むシンポジウム15題,ワークショップ15題などが企画された。また,最新の癌医療情報を普及させる目的で,国立がんセンターとリアルタイムで直結(インターネットによる遠隔カンファレンスを中継)する情報コーナーを設置し,多数の参加者の注目を集めた。
 さらに今学会の特徴として,癌研究の将来を担う若手研究者向けに,最新の情報を整理し,その道の権威がわかりやすく説明するサンライズ・サンセットセッション13題も企画。また,日本対ガン協会と共催の一般市民を対象とした市民公開講座「がんの診断・治療の現場から」が最終プログラムとして行なわれた(関連記事を掲載)。


遺伝子治療・1次2次予防

 シンポジウム(1)遺伝子治療-現状と展望(司会=名大 吉田純氏,国立がんセンター研 吉田輝彦氏)では,濱田洋文氏(癌研)が,p53異常を標的とした遺伝子医療に関し,ミュータントアデノウイルスベクターを用いることで遺伝子導入の特異性や効率が高められることを証明。また,斎藤泉氏(東大医科研)も「組換えアデノウイルスは癌の遺伝子治療に向け有用なベクターの1つ」としながら,Cre/loxP系酵素を用いた組換えアデノウイルスの作製法について, in vitroでの検討結果などを報告した。さらに司会の両氏もそれぞれ「膵癌の遺伝子治療」(吉田輝彦氏),「脳腫瘍の遺伝子治療」(吉田純氏)を発表。さる10月5日に東大医科研で国内初の「腎臓癌の遺伝子治療」が行なわれたが,同研究所の浅野茂隆氏は「癌遺伝子治療の現状と展望」をテーマに,欧米諸国に遅れることのない日本における遺伝子治療の促進を訴えた。
 また,シンポジウム(2)がんの1次予防2次予防(司会=癌研 北川知行氏,国立がんセンター研 若林敬二氏)では,緑茶や豆乳に癌予防の効果があること,今後の肺癌検診にはヘリカルCTの導入が有用であり,診断支援システムや確定診断方法の確立が必要と指摘。さらに北川氏は,「さしたる苦痛もなく,ヒトを死に導く“超”高齢者の癌を“天寿がん”と呼び,“天寿がん”なら癌で死ぬのも悪くないとの考え」を提唱する「天寿がん思想」の解説を行なった。

抗癌剤の開発と有効性

 一方,シンポジウム(4)新しい抗癌剤(司会=金沢大 佐々木琢磨氏,国立がんセンター東病院 佐々木康綱氏)は,「QOLを向上させる抗癌剤が求められているが,新しい癌の薬剤開発に関する情報に関し,基礎から臨床(外科)まで結びつける討論をしたい」との主旨で開かれた。
 基礎からは,松田彰氏(北大薬)が「QOLを主とした膵癌の治療薬」として,DNA合成阻害剤DMDC,PCNDAC,ECydを取りあげ概説。また小澤陽一氏(エーザイ研)は,「G1期を標的とする新規スルホンアミド系抗癌剤E7070」を発表。E7070に関し,cyclinEの発現による作用,p53およびp21に対する作用,アポトーシスの誘導などを検討。その結果,「既存の抗癌剤と異なる抗腫瘍効果が認められた」と報告。現在欧米において臨床試験が進行中であることを明らかにした。さらに宇津木照洋氏(大鵬薬品)は,「トポイソメラーゼIおよびII酵素を標的として新規キノリン誘導体」であるTAS-103がシカゴ大で第1相試験を実施,効果を表していることを発表。橋本佑一氏(東大)は,アメリカで第1,2相試験が施行されている合成レチノイドによる発癌予防の可能性について,リスク効果が認められることから,「新合成レチノイド薬剤を開発中」と報告した。
 臨床からは,田村友秀氏(国立がんセンター中央病院)が,新規抗癌剤であるUCN-01を取りあげ,同センターの中央・東病院の2施設で行なったヒト,イヌ,ラット,マウスからのデータを公表。副作用の毒性などの臨床データを基礎研究に戻し,検討を進めていることを述べ,「臨床と基礎間のフィードバックがきわめて重要」と強調した。最後に登壇した大津智子氏(国立がんセンター東病院)は,抗腫瘍剤として開発が進められているFDA(米食品薬物管理局)認可の2種の毒性の低いモノクロームヒトキメラ抗体の臨床試験に関して報告。B細胞性悪性リンパ腫の治療薬として開発された抗CD20から,B細胞性悪性リンパ腫での腫瘍縮小,再発患者への有効性が認められた。また,癌遺伝子産物HER2蛋白質ヒト化モノクローム抗体は,「予後不良と思われる乳癌および腺癌に有効」とのデータを示し,「新しい薬剤としての国内開発が急務」と指摘した。
 総合討論の場では,「癌治療における標的がはっきりしてきた」との指摘がなされ,今後はより強力な基礎と臨床のインターフェイスの必要性とともに,抗癌剤の開発により癌の特性に応じた「オーダーメイド」の治療が可能になることが示唆された。