医学界新聞

「心の世紀」に向けて-会長講演より


看護と看護教育における変革と創造

 小島操子氏は会長講演で,「間近に迫った21世紀がどのような世紀になるのか,何を期待したらよいのかを見極めるためには,20世紀を振り返る必要があろう。20世紀の前半は,全世界を戦争に巻き込んで破壊が行なわれ,多大な生命を奪った『戦争の世紀』。しかしその後は,東西対話などが行なわれるなど『平和を希求する世紀』へ移ったと言える」と述べるとともに,科学,技術,医学の進展の世紀であったことに言及し,日常の生活やヘルスケアにおいても変革をもたらしたが,同時に環境汚染を引き起こしたことなどを指摘した。
 また,「21世紀は引き続き平和を希求する時代となるだろう。そして,これからも続く科学技術の発展においては,自然と人類の調和をどうするかが問われる『心の世紀』になる」と述べた。さらに,看護の本質を明確に提示する時代となることから,看護や看護教育に変革と改革が行なわれる必要があることを示唆した。

21世紀の日本における看護の変革と創造

 小島氏は,21世紀の日本における看護の変革と創造について,(1)社会の変革,(2)医学の変革,(3)看護・看護教育の変革の側面から現状を述べるとともに将来を展望。
 (1)に関しては,人口の高齢化,QOL,一般教育水準の向上,女性の就業率の向上,情報化などの要因を指摘。これらは,「健康面のニーズ,価値観を複雑とし,多面的な看護が必要になることを意味している。また,高レベルでの生活維持が求められることが,『女性が介護をする』という概念喪失につながった」と解説。
 (2)については,高度医療技術,チームアプローチ,ヘルスケアシステム,患者の権利をあげ,これらは救命,延命を可能にするとともに専門化が進む一方で,管理と理念の複雑さを増したこと。高齢者の増加とともに医療機器の発達が慢性疾患患者の増加につながったこと。それに加え,保険制度の変革対応が求められる一方での権利意識,インフォームドコンセントのあり方,情報開示から,依然として残る医師の父権主義的発想への対応の必要性をあげた。
 さらに(3)では,複雑化する看護実践の場,看護ニーズの複雑化,患者権利擁護,国際化する看護教育,教育の高度化などを指摘。急激な高齢者の増加がもたらした弊害は改革を余儀なくされていることや,患者が権利意識を持ちはじめたことから,看護者に対して擁護者であることを望むようになったこと。また,社会通念上から看護者が身体面だけでなく,心理・社会的にもケアをすることが求められるようになったことなどをあげ,看護教育の大学化などの高度化した看護学からは,日本学術会議に「看護学専門委員会」が誕生したことも報告した。

看護の改革と創造における看護職の役割

 これらのことから,「21世紀には,看護の質の向上が求められるが,患者が自分で健康を管理すること,病気との共生,高いQOLの維持などの医療への参加支援をすることが新たな役割になる」と語った。
 さらに小島氏は,改革における基盤として,患者の権利としての意思決定,倫理の問題,擁護などをあげ,医療における患者・医師関係の変容の重要性を指摘。「看護の専門性は,患者の擁護に貢献してきた」と述べる一方で,21世紀の創造と変革に向けた看護職の役割として,「(1)生活様式や行動の改善をもとにした健康増進,疾病(生活習慣病)予防の手法,(2)癌患者に対する教育・支援,(3)患者の擁護と倫理的な問題の調節ができる看護職の教育育成の必要性,(4)看護学の発達を担い,医療費の削減につながる看護スペシャリスト(CNS)の育成と受け入れ条件の整備,(5)独立在宅ケア」をあげた。
 また最後に,看護教育における改革に期待されることとして,(1)看護教育における高度なプログラム,(2)教育戦略の強化,(3)看護倫理に対する協調,(4)修士課程における看護スペシャリストへの教育を指摘し,講演を終えた。