医学界新聞

実践の中から家族看護を問う

第5回日本家族看護学会が開催される


 さる9月12-13日の両日,第5回日本家族看護学会が,森秀子会長(北里大教授)のもと,神奈川県・相模原市の北里大学で開催された。「実践の中から家族看護を問う」をメインテーマに掲げた今学会では,会長講演をはじめ,海外からの特別講演「カルガリーモデル-家族看護学の実践・研究の課題」(カルガリー大 ジャニス・M・ベル氏)や,シンポジウム「家族看護学,その専門性とは-CNSの立場から」が企画された。また,育児と家族支援,慢性疾患患者と家族などのセッションに分かれた一般演題は,両日で58題が発表された。
 特別講演は牧本清子氏(金沢大)が逐次通訳の任を務め,ベル氏はカルガリーのファミリーアセスメントを紹介するとともに,同大学の家族看護学の提唱者であるライト氏によるインタビューの実践例をビデオ映写し,解説を加えた。ベル氏は,「家族インタビューでは,家族を認め称賛することが重要」など,カルガリーモデルにおける家族インタビューの技術を論じた。


家族看護CNSをめぐって

 家族看護学における専門性について,CNS(クリニカルナーススペシャリスト:専門看護師)の業務・活動から探ることを目的に開かれたシンポジウムでは,がん看護,リエゾン精神看護,在宅(地域)看護,老人看護の分野から4人のシンポジストが登壇。それぞれの分野における現状と課題,および家族看護について考えを述べた。
 最初に登壇した近藤まゆみ氏(北里大病院・がん看護CNS)は,がん看護領域における家族援助に関し,患者と家族に分けてケアしている現状を報告。「患者はすべてを知らせてはいけない人であり,病気の恐怖から守ってあげるべき人。家族はすべてを知らされ,予後の厳しさをわかってもらわなければならない人」と分析し,伝えられる情報の量や質の違い,立場の違いによる死のとらえ方などを論じた。また,46歳で死亡した女性中学教師と夫の例を紹介。妻が死を迎えることを受け止められない夫であったが,CNSの関与から,何でも語り合えることができ,互いが支え合う夫婦の関係へと変化したことを述べ,「患者が孤立しないようなサポートシステム」の必要性を訴えた。
 野末聖香氏(横浜市民病院・リエゾン精神CNS)は,病院看護部長直属のスタッフとして,(1)患者・家族の直接ケア,(2)コンサルテーション,(3)看護婦のメンタルヘルス支援,(4)新たな看護サービスの開発などを役割として活動をしている現状を報告。またCNSのアプローチの方法について(1)患者,(2)家族,(3)医療スタッフ,(4)患者-家族関係,(5)家族-医療スタッフ,(6)患者-家族-医療スタッフ関係の側面から解説を行ない,(4)について「相互理解の促進,コミュニケーション改善,病気・死の受容,プロセス支援」などを指摘した。さらに野末氏は,家族ケアにおける課題として,(1)サポートシステムとしての家族機能の低下や家族を持たない・絶縁状態にある患者の増加からの,家族のありようの変化。(2)患者の病気を機に顕在化する家族内の葛藤。(3)貧弱な家族システムから,どのような家族にどのようなケアが必要なのかなどの多様な家族ケアシステムの必要性。(4)家族ケアにおけるコストの問題をあげた。

家族看護実践のコツ

 一方,地域看護CNSの馬庭恭子氏(広島キリスト教青年会YMCA訪問看護ステーション・ピース)が,在宅看護の分野から問題提起。「在宅看護で対象となるのは多岐にわたる疾患を持つ人であり,年齢も0歳から100歳までと広範囲だが,特に後期高齢者が多く,現場では社会資源などの在宅ケアに向けた行政からのシステム構築が望まれている」と指摘した。その上で,「痴呆という健康問題の発生により顕在化した嫁・姑の確執のある家族,ペットとの生活を生きがいとする難病患者,夫婦関係の修復ができた在宅酸素療法患者」など,さまざまな実例を紹介。まとめにあたっては,実践の中からの家族看護,家族看護学への期待として,(1)「介護」をめぐる社会の変容の加速化,(2)現任教育における家族看護の効果的な展開,(3)公的介護保険の中での家族ケアに対する経済的評価,(4)他学問領域との知識交流を指摘した。
 最後に森山美知子氏(前山口県立大・米老人看護CNS)は,「家族看護学は,家族社会学,システム理論,セルフケア理論等の積み上げにより構築されている」と解説。「家族アセスメントは一方的になりがちだが,家族のダイナミクスをどうみるかなど,相互作用でのフィードバックが必要」などと指摘し,家族看護学における構造化,理論化の構築の必要性を説いた。
 また,「看護者は,患者・家族が抱える問題に対して新たな均衡を見出す役割を持つ専門家。家族の変化のプロセスを恐れないこと」と述べ,家族と看護職の構造的融合が家族変化の要因であると指摘した。
 さらに,家族看護の実践を成功させるコツとして,「婦長・主任を巻き込むこと,医師をチームに巻き込むこと,患者の変化を医師に伝えること,観念的・精神的援助だけでなく必要なサービス資源を整えること」などをあげた。
 その後,家族看護学への期待について指定発言を行なった野島佐由美氏(高知女子大)は,看護系大学協議会で「家族看護CNS」カリキュラムが検討され,高知大,滋賀大に育成コースが設置されることを明らかにした。
 また総合ディスカッションでは,「家族看護CNS」の誕生に伴い,「患者・家族が相談をしたいと思った時に,1病院に種々のCNSがいた場合,どのCNSに要請していいのか混乱を招くことにならないだろうか」という疑問も提示された。これについては,「各々の分野での特徴を明確に示す必要があるだろう」との方向性も議論された。