医学界新聞

 Nurse's Essay

 老いた猫を慈しむように

 宮子あずさ


 独身時代から,暮らしのよき相棒だったメス猫「ミルク」も推定年齢15歳。病気知らずだった彼女も,寄る年波には勝てません。歯肉炎を繰り返して,獣医通いをするうちに歯無しのおばあさん猫となってしまったのです。
 大好きだったドライフードも今ではかみ砕けず,缶詰のえさが中心。こちらがいろいろ気遣っているのが通じてか,一気にわがままもつのり,今では日々,缶詰の種類を変えてやらないと飽きて食べない始末です。
 それでも私たち夫婦は,手をかけてやればやるほどえさを食べ,毛づやがよくなる彼女を見ているとうれしくて仕方がありません。2人で休みの日には,腕4本がもぎれそうなほどたくさんキャットフードをまとめ買い。ミキサーにかけたドライフードを混ぜたり,かみにくい素材のえさはみじん切りにしたりと,猫に仕える日々を送っています。
 ペットフードの改善や獣医学の進歩から,猫の平均寿命は年々延び,現在では飼い猫の寿命は約14歳。それに照らして考えれば,彼女はその年齢をすでに超えているわけで,この先一緒に彼女といられる日々は,天から与えられた幸運と,感謝したいと思うのです。
 そんな折り,父の肝臓がんが2度目の再発をしました。前回の治療からの期間は約3か月。治療の間隔は短くなり,数も少しずつ増えています。わかっていた経過とはいえ,娘としてはかなりのショックでした。
 それでも,エコーでSOLが見つかり,精査を繰り返すようになってからは約5年。肝臓がんの5年生存率が約3割ということを考えれば,今元気で「快適に生きてるよ」と父が言ってくれること。これもまた,天から与えられた幸運と考えるべきでしょう。
 平均寿命とか,5年生存率とか,そんな数字は意味のないものとこれまで思ってきました。今も,そうした数字では計り知れない価値や割り切れない思いがたくさんあると思っています。しかしその反面,それをクリアすることが自分をなだめる材料にもなるのが不思議です。
 元気で手間いらずだった猫もかわいかったけれど,手をかけながら一緒に猫と暮らす日々もまた,趣き深いもの。猫と父親を一緒にしたら叱られるかもしれませんが,父親を気遣う日々もまた,似たような趣きです。
 老いた猫を大切にするような気持ちで,これからの父との日々を過ごしたいと思っています。ただ,父にとっての「キャットフード」が未だ「酒」なのが困りものなのですが……。