医学界新聞

初期臨床研修Q&A

大西弘高(佐賀医大総合診療部)


 本紙第2301号(8月17日付)では国内での初期臨床研修について,また第2305号(9月14日付)では,総合診療医になるための研修について述べました。これらの記事に対して全国から多くの質問を頂戴し,紙面を借りて感謝の意を伝えたいと思います。また,質問については個別に回答しましたが,それらの中には多くの方に参考になると思われるものがあり,ここにその一部を紹介します。医学生,研修医の進路選択,決定に役立てていただければ幸いです。

初期臨床研修全般について

Q1.臨床研修病院ガイドブックはどのように活用すればよいのですか?

A1.毎年夏頃に,「臨床研修病院ガイドブック」(日本醫事新報社)が発行されます。これは,臨床研修研究会によって編集されているもので,臨床研修病院の情報が網羅されている貴重な資料です。ただし,臨床研修病院には,研修医を広く公募している病院と,関連している大学医局からの派遣を原則とする病院があります。それを調べるためには,研修医の出身大学の欄がありますので,その病院には様々な大学の出身者がいるのか,地元大学からの出身者が中心であるのかを見れば傾向がわかると思います。その他,病院の規模,研修プログラムの概要,給与,募集人数など役立つ情報が満載されていますので,是非一度目を通してください。ただし,病床数が300床未満など臨床研修病院の指定基準を満たさない病院の情報はありません。

Q2.その他に臨床研修病院の活動性を知ることができるような情報源はありますか?

A2.初期臨床研修においては,内科の基本知識の習得が重要な位置を占めます。臨床研修指定病院の多くはその意味で日本内科学会の教育病院の指定も受けています。「日本内科学会認定医制度教育病院年報」は毎年日本内科学会雑誌に掲載され,内科を中心とした情報が満載されています。例えば病床数,退院患者数,在院日数,指導医数などから患者の回転状況などがわかりますし,学会や論文発表数,定期カンファレンスの数からアカデミックな活動の状況も知ることができます。確実な診断を行なう上で重要性の高い剖検数,病理医や臨床検査有資格者の数も記載されています。1997年のデータは日本内科学会雑誌87巻6号1202-1219に掲載されていますので,これも必読でしょう。

Q3.大学病院での研修と,大学以外の臨床研修病院での研修の違いはどこにありますか?

A3.いくつかのポイントがあげられます。
(1)症例経験:一般的に大学のほうが経験症例数が少なくなる傾向があります。それは,単に病床数に対しての研修医の数の割合によると考えるのが妥当でしょう。また,在院日数が少ない病院は患者の回転が早いので,経験症例数が増えます。ただし,数をこなさないと学べないこともありますが,1つの症例について深く考察しなければ学べないこともあるので一長一短でしょう。
(2)研修システム:大学以外の臨床研修病院のほうが自由度が高くなります。最近は総合診療(スーパーローテート)方式を採っている病院が増えてきました。ただし,多くの科をこま切れでローテートする形では,ゆっくりと1人ひとりの患者を診療することが難しいという問題点も指摘されています。大学病院でもローテート研修の方式を採っているところが最近増えているようですが,総合診療方式の導入は難しいようです。なお,研修システムの定義については,研修目標達成のための研修方式の種類と特徴(JIM 6巻7号590-591)を参照してください。
(3)指導医の専門性:一般的に大学のほうが指導医の専門性が高くなり,初期研修で学ぶべき内容を逸脱しがちになるという問題点が指摘されています。また,大学のほうが学会や論文発表を行なうようにという指導が厳しいことが多いでしょう。仕事に余裕があればアカデミックな活動を垣間みることも大変よいと思いますが,あくまでも余裕を持って研修ができていることが前提です。
(4)研修医の仕事の範囲:大学以外の臨床研修病院のほうが,コメディカル・スタッフの仕事の範囲が広くなり,研修医が患者のケアに直接関係した仕事をする時間が持てる傾向があるようです。例えば,大学病院では点滴は研修医の仕事であり,外の病院では看護婦の仕事であるというようなことです。理由として,大学病院はコメディカル・スタッフの割に医師の数が多いため,研修医の仕事の範囲が大きくなっていることが考えられます。また看護婦を比較すると,大学病院のほうが管理や理論といった部分にかなりの時間を割いているのに対し,大学以外の病院ではベッドサイドのケアに時間をより割いているということかもしれません。
(5)収入とアルバイト:大学病院での研修医の給与は,普通に生活することすら困難であるような額であることが少なくありません。そのためアルバイト(いわゆるネーベン)をすることが日常的です。しかし,大学病院で診療している受け持ち患者から離れること,時間外というただでさえ難しい判断を迫られることの多い時間帯にアルバイト先の病院で働くことの二重の危険を冒して仕事をしているということを忘れてはいけません。臨床研修病院ではアルバイトをしなくても生活ができる程度の収入が得られる場合が多く,アルバイトをしなければその病院での診療に集中することが可能です。

Q4.臨床研修病院のうち,大学医局からの派遣を原則とする病院とそうでない病院での研修の違いはどこですか?

A4.Q1の回答の中に記載されている見分け方でこれらを分類することができますが,大学医局との関連のない病院のほうが独自の研修システムを持っているということで有名なところが多いようです。独自の研修システムを持ち公募という形を採ることができることが,大学医局からの独立を果たしたことの裏返しなのかもしれません。その結果,研修医を選考すれば熱意があって優秀な人が集まるので自然と研修システムにも活気が生まれますし,ある程度研修システムに歴史のある病院ではそのシステムの下で研修したOB,OGが次世代の指導医となっていくようです。

Q5.大学医局からの派遣を原則としない臨床研修病院に卒後すぐに進み,研修を受けた後大学に戻ることは可能でしょうか?

A5.将来大学医局に戻るという可能性を考慮している人は,大学医局からの派遣を原則としない臨床研修病院に卒後すぐに進む際に,医局と先に相談しておくべきでしょう。医局によってはそのような研修を認めないというところもあります。また,2年間の研修が終わった後でも医局では1年目医師と同列に扱うというところもあります。まったく大学と縁が切れた状態になった後にどこかの大学に入るということは,ある程度コネクションがなければ難しいでしょう。

Q6.超音波や内視鏡などの技術を2年の初期研修で身につけることは可能でしょうか?

A6.最も重要な能力は,患者が持つ様々な問題点を解決していくことです。超音波や内視鏡といった検査を形通り施行するということは習得にさほど時間を要することではないでしょうが,問題となる所見がないと断言することの難しさや,所見があった時に正確に診断することの難しさを知るためにはかなりの知識が要求されます。ですから,まずは病歴や身体診察,血液検査,心電図,単純X線写真からどのような病態が予測され,どのような疾患を除外あるいは確認するために次の検査に進むかということを考える能力を育てることが重要です。特に超音波については,「エコーは聴診器も同様」という意見も時々聞かれますが,聴診器もエコーも中途半端にしか使えないという医師になってしまう危険性が高いようにも思えます。

総合診療医になるための研修について

Q1.総合診療医には認定医制度はあるのでしょうか?

A1.現在のところ総合診療研究会には認定医制度はありません。認定内科専門医は内科を全般的かつ専門的に診ることができる医師という立場ですが,内科以外の科については特に問題にしていません。プライマリ・ケア学会も認定医制度を持っており,全人的包括的医療や家庭・地域医療を視野に含めているという点で,現状では総合診療医に最も近いのかもしれません。

Q2.麻酔科や病理の先生が「われわれも総合的な視点で医学を捉えている」と言いますが,総合診療医との違いはどこでしょうか?

A2.総合診療医の中核は,患者を人間として捉え,主治医として様々な問題に関わっていくということで,全人的包括的医療と呼ばれることもあります。そのために,まず患者とコミュニケーションを持つことが最初に要求される(2301号表1参照)のですが,麻酔科や病理の先生は(ペイン外来を除く)主治医として患者に関わることはありません。その意味では総合診療医とはかなり違った視点を持っていると思われます。

Q3.家庭医と総合診療医は異なる概念でしょうか?

A3.日本では家庭医というのはあまり一般的な概念ではありませんが,家庭医療学研究会では1つの専門領域として捉えています。それに比べて,総合診療医という言葉は対象とする領域が広く,市街地で医療を行なう家庭医,へき地医療を行なう医師,大病院で総合診療を行なう医師など様々な概念を含んでいます。臨床疫学や医療倫理学などを専門に行なう医師は,総合診療医の中から生まれた1つの専門分野の医師ですが,臨床に日常的に接していない場合は総合診療医とは言い難いかもしれません。

Q4.総合診療医になることを前提とした初期研修についてのよい資料はありますか?

A4.『初期プライマリケア研修』(医学書院,1994)が全体的によくまとまっていると思われます。その他,JIM6巻7号の特集「卒後臨床研修へのアドバイス-総合診療を指向する」も興味ある記事が多く掲載されています。総合診療の全体像を把握するためには,「総合診療」(中山書店,1998)や,プライマリ・ケア誌20巻2号の特集「総合診療」,医学教育(篠原出版)28巻6号の特集「総合診療の教育」など。

最後に

 最近は,医学生が様々な病院見学をすることがかなり一般的になってきているようです。これは,よりよい初期研修を受けたいという期待の表れであると思われます。そして,総合診療という言葉がかなり頻繁に使われるようになり,初期研修における総合診療的視点の重要性も理解されるようになってきています。
 初期研修を行なう病院の選択は,一生を左右する大きな問題です。よって,十分に情報を収集し,後悔のない選択をしてほしいと思います。引き続き,初期研修に関する質問や相談があればお答えする予定です。以下まで連絡をいただければ,ご返事致します。
 〒849-8501 佐賀市鍋島5-1-1 佐賀医科大学総合診療部
 E-mail:oonishih@smsnet.saga-med.ac.jp