医学界新聞

第41回全国医学生ゼミナール in 浜松を終えて

森川直人(浜松医大4年・現地実行委員長)


21世紀を見すえて,展望を探る-10年ぶりに浜松医大で開催

 今年8月8日から11日にかけて,浜松医科大学において第41回全国医学生ゼミナールが開催され,昨年より170余名上回る920人の参加を得て,大成功を収めた。
 今回の医ゼミは,浜松医大としては1988年以来ちょうど10年ぶりで,前回が90年代の医療を展望したものであったのに対し,今回の医ゼミは,広く21世紀を見すえて,その展望を探るものであった。
 21世紀を目前に控え,医療の分野でも多くの団体や政府機関がそれぞれのめざす21世紀像を提示している。しかしその中に,多くの国民・患者や医学生が希望を持ち得るようなものは決して多くはない。
 今年の浜松医ゼミは,真に国民・患者の立場に立った時に,医学・医療がめざすべき方向がどこにあるのかを明らかにすることに,意欲的に取り組んだ医ゼミでもあった。今回のメインテーマの「21世紀の医学・医療をともに切り開いていこう」には,“私たちこそが21世紀の医学・医療の主体者である”ということと,“多くの仲間と力を合わせて一歩ずつ進めていく”という点が打ち出され,これには開催前からも全国の多くの学生から共感と期待の声が寄せられた。

現在の医学・医療を取り巻くさまざまな問題の本質に迫る

 初日と4日目のメイン企画では,過去の医学・医療の発展の歴史に学びながら,現在の医学・医療を取り巻くさまざまな問題の本質に迫り,その解決の方向を探った。また,記念講演の都留重人元一橋大学長は講演「21世紀の医学・医療を展望して」の中でも,現在の医学・医療の抱える問題の全体像と,解決の指針について語られた。
 また医師養成企画では,国民・患者から求められる医師像と,今現在の医師養成のギャップをどう克服するかを具体的に検討。さらに,平和企画では核兵器と新ガイドラインの2つを日本の将来を左右する問題として捉え,医療者・医学者として平和の問題にどう取り組むかを深めた。
 文化祭典は,“楽器の町・浜松”らしいジャズバンドの演奏もあり,また,アルフォンス・デーケン上智大教授(「生と死を考える会」会長)の講演「より豊かに生きること~生と死とユーモア」では,死を恐れずに見つめ,よりよく生きることの大切さがユーモアを交えて語られた。
 各大学・地域から持ち寄られた約50の分科会のテーマは,環境ホルモン,手話,チーム医療,医療と平和,看護婦養成,脳死・臓器移植,国際医療協力など多岐に及び,学生の自主的な学術文化祭典にふさわしい盛り上がりを見せた。

メインテーマを踏まえ,医学・医療の担い手の視点を貫く

 今年の医ゼミで特徴的だったことは,分科会を含めた各企画の中で,メインテーマを踏まえて,「21世紀に向けて医学・医療の担い手としてさまざまな問題を捉える」という視点が貫かれていた点である。例年にも増して多くの参加者がメインテーマを共有し,会期中の多くの場面でそれが浸透された。また,学生のそのような姿勢に対して,お呼びした講師の先生の少なくない方が,「学生がこのような視点で学び,交流しているのを見て,これからの医学・医療に期待が持てた」とおっしゃってくださったことも印象的だった。

継続性のある活動を

 医ゼミは,いわゆる「イベント」ではなく,また少数の限られた人を対象とした「サークル」でもない。全学生を対象として,41回を数える歴史のある取り組みであり,年間を通じて行なわれる学習と議論の積み重ねの中から,多くの国民や患者さんの望む医師へと成長していくための企画である。4日目の閉会式では,来年の医ゼミ開催に向けて,東京と岐阜が立候補し,また,「2,3年後には,ぜひ地元で医ゼミを開催したい」という声も多く聞かれた。医ゼミが単に1回きりのイベントではなく,それをきっかけに学び,成長できると多くの学生が捉えていることの何よりの証拠である。
 医学・医療がさまざまな矛盾を抱え,今後のあり方を問われている中で,医学生も医学教育や卒後研修などの深刻な課題に直面している。このような情勢の中でこそ,“医ゼミが多くの学生から求められ,また,その輝きを増している”ことを確信した。