医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


優れた心臓弁膜症の外科書

心臓弁膜症の外科 新井達太 編集

《書 評》松浦雄一郎(広島大教授・外科学)

 日ごろ敬愛する埼玉県立小原循環器病センター名誉総長・新井達太先生編集による『心臓弁膜症の外科』が出版されました。書評を書かせていただくことを,私は光栄に存じています。

変貌しつつある手術手技

 さて,編者が序において書いておられるように,近年弁膜症の疾患様態およびそれに対する外科は変貌しつつあります。すなわち,僧帽弁閉鎖不全はリウマチ性病変から退行性病変に変わり,大動脈弁病変を含め,手術手技が大きく変わりつつあります。その第1は自己弁の温存術式です。そのため,僧帽弁閉鎖不全では弁尖の切除縫合,人工腱索,リング弁輪再建による僧帽弁形成術が標準手術となりつつあります。
 さらに僧帽弁狭窄症では,電気ヤスリを利用してのrasping法や,篩骨洞鉗子を用いてのpealing法などが手術手技として登場してきました。自己肺動脈弁を用いてのRoss法のroot replacement,冷凍保存homograft,stentless aortic bioprosthesisの臨床応用が普及しつつあります。人工弁はball valve, tilting disc弁から二葉弁へ改良されました。

低侵襲心臓外科手術の流れ

 また,最近話題となっているminimally invasive cardiac surgeryといった低侵襲心臓外科手術手技も発展しつつあります。そうした状況を上手に捉え,編者新井先生ならではの,従来の手術書とは趣を異にし,工夫を凝らした編集がなされています。
 まず手術に必要な弁膜とその周辺の解剖を,次いで今第一線でご活躍中の諸家をうまく引き出され,大動脈疾患,僧帽弁疾患,三尖弁疾患,冠状動脈疾患を伴う弁膜症,感染性心内膜炎,連合弁膜症,再手術という項目について,それぞれの方々の豊富な経験をもとに,病因,手術適応,手術のタイミング,手術手技,術後管理の要点,遠隔成績に分けて解説する様式がとられています。
 最後の第12章では,編者のライフワークである人工弁に関し,人工弁の歴史,人工弁,生体弁の分類,機械弁にすべきか生体弁にすべきかという順で詳述されています。また,全体を通してきわめて多数のわかりやすい図,写真を挿入し,解説が容易に理解できるよう配慮されています。
 このようなわかりやすさをモットーに編集および執筆がなされている本書は,弁膜症についての総説書としてはもとより,弁膜症に関わる疑問点に対する百科事典としても,また弁膜症手術の際に容易に応用できる解説書としても,利用価値がきわめて高いと思われます。
 本書は,循環器内科医,循環器外科医,コメディカル,医学生の座右に置けばきっと役立ちます。近年まれにみる優れた心臓弁膜症の外科書と言えると思いますので,推薦する次第です。
B5・頁480 定価(本体25,000円+税) 医学書院


リウマチとのつきあい方すべてがわかる本

図説 リウマチの物理療法 病院での治療から自宅療法まで 竹内二士夫 編集

《書 評》西條一止(筑波技術短大教授・鍼灸学科)

 物理療法は,物理的エネルギーを治療に用いる療法です。その効果は2つに分けて考えられます。1つは物理的エネルギーの直接的効果で,温めて血液循環をよくし筋の過緊張を緩めることや関節を動かして関節機能を維持するなどです。他の1つは,体全体の働きを高める効果です。その人の体が,本来持っている治癒力,適応力などと呼ばれる力をよりよく発揮できる状態にすることです。体の内側から改善の可能性を大きくしようということです。慢性関節リウマチは,未だ治療法が解決していません。患者さんの生活全体を通じて改善の可能性を大きくすることが大切です。その点で本書はリウマチ治療の大きな力になります。

本書の特色

(1)読者対象:リウマチ治療は患者の生活全体を通じた治療計画が大切で,患者を中心としたチーム医療が効果を高めます。本書はその目的に添って,患者,その家族,リウマチ専門医や実地医家はもとより,リウマチ患者の診療に関わることの多い理学療法士,作業療法士,看護婦,ソーシャルワーカー,鍼灸・マッサージ師,保健婦など関係者すべてを視野に置きそれぞれに配慮した内容で書かれています。
(2)内容の特色:
・患者さんにも理解していただけるよう,わかりやすく,具体的,実践的です。リウマチは,病院における治療だけでなく,自宅にいる時も含めた生活全体の良好な管理が大切です。そういう意味で,患者そしてその家族が専門的なことを十分に理解できることの意味は大きいのです。
・医師,鍼灸・マッサージ師,看護婦など,それぞれの実務者が執筆しておられます。
 物理療法をしてはいけない症状や状態には,「汗や水に濡れた皮膚部に超短波療法や極超短波療法をすると熱傷を起こすおそれがあるので注意が必要である」など19項目が書かれています。また,RA(慢性関節リウマチ)の病期別治療計画では,早期の患者の手の治療として「筋力低下が過緊張筋の拮抗筋にあれば筋力増強」など記載は具体的です。
 もう30年も前ですが,RAの患者の灸療法をしていた時に,膝や足関節のお灸は夜行なうのがよいと患者に教えられました。午前中に行なうと足の調子がよいのでつい動き過ぎてしまい,後で悪くなると言われるのです。物理療法は,実際に行なう中でわかることが多いのです。物理療法を受けておられる患者の声もあったらさらによかったのではないでしょうか。

治療者と患者間の総合理解に

 このように本書は,その内容が具体的,実践的です。リウマチ体操もグループ分けし番号で整理され,一貫しており,カルテの記載,治療者,患者間などでの共通理解を進める力になると思います。実際に治療を行なう場で必要な書として,主な重要事項は,見やすいようにもう少し大きな活字で書かれていると使いやすさがさらによかったと思います。
 治療効果の評価法,RA患者に対する社会保障制度などもきちんと書かれています。タイトルに見合った完成度の高い本です。
B5・頁128 定価(本体3,500円+税) 医学書院


魅力的な解剖生理学テキスト

カラーで学ぶ解剖生理学
ゲーリー・A・ティボドー,ケビン・T・パットン 著
コメディカルサポート研究会 訳

《書 評》坂井建雄(順大教授・解剖学)

 コメディカルの基礎医学教育に関しては,欧米は日本よりも相当進んでいる。あるいは逆に,日本がかなり遅れているようだ。人体の構造と機能を総合的に扱った解剖生理学のすぐれた教科書が,欧米ではいくつも出版されている。最近,その翻訳がいくつか出版され,日本のコメディカルの基礎医学教育にも,大きな影響を与えるのではないかと期待する。

コメディカルの学習に最適

 医学書院MYWから出された『カラーで学ぶ解剖生理学』は,原著の表題は“Structure & Function of the Body”といい,初版が1960年に出版され,今回の翻訳の元となった第10版は1997年に出版されている。さすがに改訂を重ねているだけあって,いくつか翻訳出版されたこの種の解剖生理学の教科書の中でも,最もオーソドックスでバランスのとれた,そして十分に魅力的なものだと思う。
 全体の構成は,器官系統別に整理されている。序論としての3章(人体の構造と機能について,細胞と組織,人体の器官系)に続いて,動物的機能を扱う3章(外皮系と人体を構成する膜,骨格系,骨格筋系),生体情報を扱う3章(神経系,感覚,内分泌系),血液と循環を扱う3章(血液,循環器系,リンパ系と免疫),植物的機能を扱う6章(呼吸器系,消化器系,栄養と代謝,泌尿器系,体液と電解質の平衡,酸塩基平衡),生殖と発生に関する2章(生殖器系,人体の発生と成長)からなっている。巻末には,化学の基礎論や用語集が添えられている。

人体の構造と機能を楽しく学習する

 全体の章構成を見ても,とくに難も癖もない,地味なものに思えるかも知れない。人体とはこのようなものだよ,という強烈な主張や個性的なメッセージがあるわけでもない。そんな自己主張のための本ではなく,禁欲的な教科書である。ただし誤解を取り除くために言っておくが,その禁欲はあくまでも著者の自己主張の禁欲であって,読者に禁欲を押しつけるものではない。
 むしろ内容を見てもわかるように,これはコメディカルの学習者が,人体の構造と機能を楽しく学習できるようにと書かれた,実によくできた教科書である。その意図は,読者の学習意欲をかき立てる数々の配慮によって,十分に実現されている。カラーを多用した図版と,診断法や疾患などを紹介する数多くのコラムによって,この教科書はきわめて魅力あるものになっている。
B5変・頁524 定価(本体5,600円+税) 医学書院MYW


ビデオ・プレゼンテーションに便利な1冊

マックでビデオ 医師のためのデスクトップビデオ編集(入門編) 長内孝之 著

《書 評》柵山年和(慈恵医大青戸病院・外科)

 ここに紹介する新刊は,現在東京医科歯科大学第2外科で第一線の外科医として活躍している長内孝之博士著の『マックでビデオ』です。最近,学会や研究会では,ビデオによるプレゼンテーションが増えてきており,特に外科系の国際学会などでは,ビデオセッションがメインになっていることが多く,手術手技などをわかりやすく説明するにも適切であると思われます。
 私自身も動画による情報量の多さに魅力を感じ,10数年前より,はじめは16mmムービーの編集,次にはアナログビデオ編集などを行なってきました。しかし,編集のためにかなりの時間がかかること,編集機器の操作が繁雑なこともあり思うように作成することはできませんでした。それが最近になって,マックでコンピュータ編集が可能であることを紹介され導入しました。しかし,適当なテキストがなく,コンピュータ知識も十分でないため,試行錯誤を繰り返しやっとのことでの編集でした。

Qualityを持ったビデオムービーの作成も可能

 今回,この入門編を読んで付属のCD-ROMを試してみると,テキスト通りに作業は進み,1時間程度でサンプルムービーの編集を終了することが可能でした。もっと早くテキストが発刊されていれば,私も短時間に編集操作を覚えることができたと思いました。諸先生方には,日々の診療の多忙の中,ビデオ編集のためにラボに出向いて編集作業をする時間を十分にとることも難しいと思われます。マックによる編集であれば,教室においても可能であり,かつ短時間で,ある程度のqualityを持ったビデオムービーを作成することができます。
 今回は,入門編であり,テロップの挿入や静止画の取り込みなどを利用した簡単な編集を紹介してあり,また編集時間を区切ることにより無理なく編集作業ができるように配慮されています。ぜひこの本を一読されムービー作成を試してみて,次はオリジナルムービー作成に挑戦するのはいかがでしょうか。
 また,本書はビデオ編集に慣れることに主眼が置かれていますが,本書を読み,ビデオ編集を楽しんだ読者の中には,もっと手の込んだビデオ作成を望む方も多いと思われます。ぜひ,続編として応用編などの刊行に期待したいと思います。
B5・頁152 CD-ROM付 定価(本体4,500円+税) 医学書院


日常の外来診療に本当に役立つ薬100

内科医の薬100  Minimum Requirement 第2版 北原光夫,上野文昭 編集

《書 評》野口善令(京大・総合診療部)

 『内科医の薬100-Minimum Requirement 第2版』が上梓された。「新しい診療よりもよい診療を」の哲学に基づいて,常用する薬剤の種類を制限し,評価の確立した薬のみを使用するという初版の編集方針は第2版でも貫かれている。
 わが国では伝統的に,“医療者=くすし,薬を調合,処方するもの”というイメージが強く,医療者の側にも,多くの薬,それも,新薬,秘薬を他人に先駆けて使うのが名医という風潮があった。この習俗的伝統と保健行政策があいまってわが国の薬剤処方量は世界でも例外的に多い。本書は,この風潮を「誤解」と一刀両断にしており,その挑戦精神には拍手を送りたい。

なぜ使用薬剤は少ないほうがよいか

 なぜ,使用薬剤は少ないほうが望ましいのか,新薬にはすぐに飛びつかないほうがよいのか,本書の序文で示された理由に加えて,筆者の見解を述べてみる。薬剤の有効性の評価のためには臨床試験が行なわれるが,時間,費用などからの制約で症例数を極端に大きくすることはできないので,頻度が低い副作用のチェックは難しい。さらに,他剤との併用による相互干渉はほとんどチェックできないと言ってよい。臨床の現場で,他剤を併用するほど,相互干渉は複雑になり,その予想は難しくなる。頻度が低い副作用とはいえ,リスクは小さい方がよい。特に,有効性の評価の確立した薬剤がすでに存在するのにあえて新薬を使用するというのでは,金を払って臨床試験をやらされているようなもので,無意味なリスクを冒すのに等しい。また,古典的な薬は,相互作用,副作用についての情報量の蓄積が新薬に比べて桁違いであるから,不幸にして医療障害に出くわしてしまった場合にも,何が起こっているのか推測しやすく有利である。実際に,世界の臨床医学をリードする北米の卒後教育では,多種の新薬を使用することなく,少数の基本的な薬の作用,副作用,相互作用を熟知することに重点が置かれている。
 では,本書の100という数字は,少ないであろうか。筆者は,大学ならびに外来診療所での一般内科の診療に従事している。個人的興味もあって,実際にどれくらいの種類の薬剤を使用しているか数えてみたところ,前医からの踏襲を除けば50種類以下であり,本書が扱った範囲でほぼ網羅されていた。100種類は,実用上,十分な種類数であるといえる。さらに,1つひとつの薬剤については,かなり掘り下げて詳述されており,reviewとしても通読できる。惜しむらくは,評価の根拠となる文献が示されていない薬があり,全項目に参考文献をつけていただければ,さらにすばらしい本になったと思われる。
B6・頁254 定価(本体3,800円+税) 医学書院


レーザー治療のヴィジュアルな教科書

多色クリプトンレーザー光凝固 Book& Video 米谷新 編集

《書 評》上野聰樹(聖マリアンナ医大教授・眼科学)

最低限の侵襲で最大の効果を

 著者が序文の中で記述しているように,今日のレーザーの眼科学領域への応用は検査法に注目が集まり,治療である光凝固はレーザー応用の中では,どちらかといえば古典になりつつあるといってもよい。すでにレーザー光凝固は大きな施設でのみ行なわれる特別なものではなくなり,多くの施設で頻繁に行なわれる,かなり日常的な眼科治療法になっている。
 ただしその急激な普及のあまり,治療スタイルがあまりにも多様化,つまりは自己流になってしまっているのではないかという危険性は否めない。確かに手技的には簡単で,スイッチさえ押せば凝固は行なわれるが,例えば網膜においては視細胞をはじめとする神経細胞や網膜色素上皮細胞の破壊を意味し,その他の組織においても,どこかしら細胞や組織破壊・変性する操作であることは間違いない。その意味で著者らがめざす最低限の侵襲で最大の効果を狙う,つまり「綺麗な凝固」というものについては,今一度基礎領域から考え直してみるによい総合的に記載された教科書である。

実際の症例ごとに凝固のコツやポイントを解説

 本書はまず総論である基礎領域から解説し,各論ではよく遭遇する疾患に対する効果的な凝固方法について,著者が得意にしているフルオレッセイン蛍光眼底造影およびICG造影といった写真をふんだんに掲載した上で,それらに基づいた合目的的な凝固法について述べられている。本書をさらに特徴づけているのは,ビデオにおいてもそれら症例に対応する形で,実際的・具体的な方法についてまで言及している点であるといってよいだろう。しかも実際の症例ごとに凝固のコツやポイントが解説され,かなり実際の臨床上役立つよう構成されている。この点は手術あるいはレーザー凝固のような治療法の解説書としてはきわめて重要である。どうしても文章や写真という静止像のみではわかりにくい,連続的な細かい動きまで理解しなければならないためである。
 このようなヴィジュアルな教科書は,これからレーザー治療を始めようとする若い先生方の参考になることは間違いない。もちろん日常深く考えることなくスイッチを押しているわれわれにとっても,もう1度レーザー凝固治療の目的や意味を考え直すのによい機会を与えてくれるものと思われる。
 本書が触れているのが多色クリプトンレーザーによる凝固であるため仕方ないのではあるが,現在眼科領域へ導入されているレーザーの種類は多岐にわたる。それらの詳細まですべて網羅することは困難であるとしても,例えばある場合には多色クリプトンレーザーとNd;YaGレーザーを併用するほうが容易であるといった場合もあるだろうし,他の種類のレーザーとの比較や併用の効果はどうかという疑問も残る。そういった点での意見や将来的な提言をも記載していただければ,さらに役立ったのかもしれないというのはいささか贅沢な要望であろうか。
B5・頁72 定価(本体12,000円+税) 医学書院