医学界新聞

 連載
 ものの見方・考え方と看護実践(5)

 コンプリメンタリーセラピーとは何か

 手島 恵 
  医療法人東札幌病院看護部
  ミネソタ大学大学院博士課程


新しいものの見方の影響

 これまでの連載の中でアメリカにおけるものの見方・考え方の変化がどのように理論に影響を及ぼしているかについて述べてきた。今回は,それが実践にどのように影響しているかについて解説してみたい。
 日本でも最近,「代替医療」,「コンプリメンタリーセラピー」,「癒しの療法」などの言葉が看護に関連する記事や文献の中にみられるようになってきた。アメリカでは1993年にアイゼンバーグがNew England Journal of Medicineに,患者の約70%は主治医に話さないで民間療法にかかっており,この自己負担の費用は年間137億ドルにものぼることを報告1)し,それが大きな衝撃となって医療の中にこのような療法を検証しながら積極的に取り入れるようになってきた。
 このような背景から,現在アメリカの多くの病院でコンプリメンタリー療法の部門がもうけられ,また看護学部や医学部のカリキュラムの中にもこのような療法に関する授業が取り入れられたり,修士課程で独立したコースが開設されたりするようになってきている。

「新しい」?

 1992年にアメリカの保健省(NIH)に代替医療局(Office of Alternative Medicine)ができたが,alternativeという言葉の意味が近代西洋医学に代表される伝統的な療法に「代わる」新しい療法という意味になるため,現在ではむしろcomplimentary therapy(相補療法),つまり伝統的療法を補う新しい療法という表現が一般的になってきた。
 早くからこの領域に着目し,著書が日本語にも翻訳されているアリゾナ大学医学部のワイル博士は,卒後研修のプログラムを作り,伝統的療法or新しい療法という表現ではなく,それらを合わせて使うという意味の統合医療(Integrated Medicine)という表現をそのプログラムの名称として用いている。1996年にアリゾナで開かれた第3回意識の科学学会の講演で,ワイル博士はアメリカの人々が伝統的療法に対して「新しい療法」と呼んでいる鍼,灸,マッサージ,瞑想,気功,薬草というような療法の多くは,実は東洋では数千年に及ぶ長い歴史を持つものなのでそれを新しい療法と呼ぶには抵抗があると話された。

看護におけるコンプリメンタリーセラピー

 このような療法は最近になって医療の中で脚光をあびた感があるが,第2-3回の連載で述べてきたように全体性に焦点をあてた理論,すなわちものの見方が看護学の中には歴史的にみられるし,その理論を支えとしたリラクゼーション,瞑想法,イメージ療法,セラピューティックタッチ,音楽療法などの実践が,例えば手術患者,がん患者,心臓疾患のある患者の不安や痛みにどのような効果があるかがこれまで多数検証され研究として報告されてきている。
 ジョンソンは看護学のパラダイムを見極めるために1966-1987年の文献をMEDLINEで検索し分析したところ,全体性を基盤とした健康のとらえかたが看護学の中心をなすパラダイムで,いわゆる科学的な医学モデルからのシフトが生じていることを報告している2)。管理,教育,研究,専門開発,専門的実践,一般実践の6つに分けられた分類の中で,全体性のパラダイムに関連する文献・記事の増加率は,一般看護実践と専門的看護実践に1978年から著しい増加をみせ,それを追うように研究や管理でも明らかな増加がみられている。
 この全体性のパラダイムに基づく実践の特徴は,(1)心とからだの統合,調和,バランスを整え,(2)自己治癒の過程にある人の全体に焦点をあて,(3)疾病の経験を自己発見の機会ととらえ,(4)患者と看護婦の関係はひとつの相互作用としてとらえお互いに益する自己発見,成長の機会と考えられている3)

〔主な参考文献〕
1)Eisenberg, D.:Unconventional medicine in the United States. Prevalence, costs and patients of use; New England Journal of Medicine, 328(4),246-252, 1993.
2)Johnson, M. B.:The holistic paradigm in nursing. The diffusion of an innovation; Research in Nursing & Health, 13, 129-139, 1990.
3)Post-White, J. C., & Johnson, M.:Complementary nursing therapies in clinical oncology practice. Relaxation and imagery; Dimensions in Oncology Nursing, 5(2),15-20, 1991.

※9月から日本に戻り,臨床の中でこのような実践を探求しようとしています。ご質問やご意見等ありましたら下記へどうぞご連絡ください。
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