医学界新聞

リハビリテーション医療に看護は不要なのか
―平成10年度診療報酬改定施行を前に

野々村典子 茨城県立医療大学教授・同附属病院看護部長

何のためのリハビリテーション医療か

 私どもの病院は全紹介制のリハビリテーション(以下リハ)専門病院で,看護体系は新看護3対1A加算(看護補助6対1)をとっている。この10月の診療報酬改定では,3.5対1で努力しても看護料は年間数千万円の減収となる。さらに,病棟の看護要員全員が看護婦免許を所持しているにもかかわらず,看護補助要員として算定しなければならないことや,45床に3人夜勤の体制をとっていながら,1人当たりの夜勤時間がわずかに超過してしまうため夜勤勤務等看護加算を請求できないことなど,10月の改定のための届け出の書類を確認しながら,今さらながら大きな矛盾を感じている。

本年度診療報酬改定の衝撃

 リハ医療は,患者の自立をめざしている。専門病院に紹介されるすべての人が重度の重複障害者で,当然自立度が低い。日常の生活行為の自立のためのリハの効果を上げるためには,看護においても質の高い専門的ケアを必要とする。また,日数もかかる。約2年前の開院から入院期間をおおむね3か月を目安としてベッドの効率利用を図ってきたが,重度の障害者を前にしてその目標の達成に苦慮していた。加えてこのたびの診療報酬改定(平成10年4月)である。リハ専門病院にとっては,この厳しく非現実的ともいえる平均入院日数の規制に新看護3対1は,地雷にでも触れたようにあっという間に吹き飛んでしまった。
 リハ専門病院の平均入院日数が120日前後(日本リハ病院協会調査)であること。また,本院の入院日数が100日に迫っていたことから,看護部より病院の幹部会議に3.5対1の維持にも危機感を持っていることを報告し,できる限り入院日数の削減に努力するよう各部門に要請した。合わせて3対1の維持の可能性の検討がなされた。病院の特性および使命からみて日数に治療を合わせるというのは現実的ではないという意見が大勢を占めた。しかし,看護料の変更は看護に対する評価とも言える。同じ看護をしていて突然ある日から看護料が下がるというのは,リハにおける看護の立場を軽視された思いを現場に抱かせ,ひいては意欲を低下させる懸念もある。
 入院患者の現況より入院期間を90日以内とするにも相当の努力が必要であると予想された。ともあれ,6月から各部門で患者1人ひとりに対して再点検を行ない,入院日数短縮の可能性の有無を全院的に探ることとした。一定の成果を得たものの,やはり頸損,失語症を含む高次脳機能障害,嚥下障害者など実際に日数を必要とする重複障害患者が多く,看護婦,PT,OT,STなどを含むリハビリテーションチームの現場の総意として,やみくもに短縮を図ることはスタッフの仕事に対する不全感を残す恐れが指摘された。

要介護者を増やす恐れも

 7月には厚生省健康政策局の「21世紀に向けての入院医療の在り方に関する検討会」の報告が公表された。これによる病床区分は,一般病床が亜急性期を含む急性期病床と慢性期病床となった。しかも,病床区分は平均入院日数が基準として設定される。その前提を受けて,人員配置基準,構造設備基準,新区分に相応する必要病床数等が医療審議会で論議されると聞く。
 リハビリテーションを必要とする患者は,検討会によると慢性期病床(病状が安定し,疾病と障害とを抱えている患者に対し長期間の医療を提供する病床)の区分と考えられ,日数の制限はゆるやかなものの,看護配置基準を著しく低く押さえられる傾向にある。しかし,これらの患者は先に述べたように急性期を過ぎても看護ケア度が高く,また自立のためには急性期以後も数か月にわたって総合的,集中的なリハを必要とする人が多い。これらの人々に対しサービスが中途半端に終わることは,本人のADL,QOLを低く押さえてしまうばかりでなく,不作為により要介護者を増やすという誹りをも免れない。

リハビリテーション専門病床群の創設を

リハ専門病院存続の危機

 このような理由から,リハ医療の充実を図るためには一般病床区分の急性期医療,慢性期医療とは別に,一定の入院期間と看護要員を保証したリハ専門病床群(仮称)が設置される必要があり,医療審議会においてそのような方向での議論がなされることを期待する。
 もし,このままの診療報酬体系が維持されると,リハ専門病院の存続は危うくなり,結果的には一般病院は軽症の患者を入院させベッド回転を早くするか,重度の障害を持つ人を入院させても放置し何もせずに退院させるというモラルハザードを生む恐れがある。高齢脳卒中患者の実数が増加の傾向にあることなどを考えると,良質のリハ医療がなされなければ要介護者を増やすだけで,わずかの医療費を惜しむ結果,介護保険を破綻させるという事態も考えられる。その意味からもリハ医療にインセンティブが働くような施策および診療報酬の改定を強く要求したい。

表,図の説明
 リハ専門病院は平均して入院日数が120日前後である。これを90日以内とするのは難しいといわれる。しかも一般的には2.5対1の看護配置をしているが,入院日数の関係で3対1の請求をしているところが多い。それが,4対1になると経営的には不可能ということになる。また看護婦配置70%以上のA加算とB加算の推移をみると,3対1を境に急激に加算点数の減少がみられ,AとBの差がなくなる。入院期間の長い者には看護婦は少なくてよいということで,長期入院を要するリハ適応患者への看護が軽視されている