医学界新聞

「難病ケアの体系とケアマネジメント」をテーマに

第3回日本難病看護学会が開かれる


 1996年に,これまでの研究会から学会へと転身した「日本難病看護学会」の第3回学術集会が,さる8月21-22日の両日,川村佐和子会長(都立保健科学大)のもと,東京・足立区の東京都立保健科学大学講堂において開催された。
 「難病者が直面する課題とケアコーディネーション」(第1回),「在宅難病者を支える看護と介護の協働」(第2回)に続いて今回掲げられたメインテーマは,「難病ケアシステムとケアマネジメント」。本学会では,このテーマを受けて行なわれた会長講演「難病ケアの体系とケアマネジメント」(川村佐和子氏)の他,シンポジウムA「難病ケア研究の課題と方法」(司会=田原福祉専門学校 西三郎氏),シンポジウムB「個と地域を対象とした難病ケア」(司会=川村佐和子氏,八王子保健所 近藤紀子氏)および一般演題18題の発表が行なわれた。また,初日には夕刻より(1)「難病ケア研究のまとめ方」,(2)「難病をもって生活する人々と語る」,(3)「難病看護技術を深める」,(4)「退院調整看護について」の4グループに分かれての自由集会が企画され,多くの参加者により限られた時間枠の中で熱心な討議が進められた。


難病患者への対策はどう進められたか

 川村会長は,日本における難病施策の変遷について,(1)調査研究の推進,(2)医療施設の整備,(3)医療費の自己負担の解消,(4)地域における保健医療福祉の充実と連携,(5)その他の保健活動,(6)QOLの向上をめざした福祉施策の推進に分けて概説。(4)に関して,「難病患者地域保健医療推進事業は,保健所を中心として行なわれる」とし,「1989年から医療相談が開始され,1990年には保健所を中心とした訪問診療が開始された。また,在宅で人工呼吸器を使用するALS患者などの特定疾患患者の緊急入院事業は1994年度から実施。その翌年(1995年)からは短期間の宿泊を通じて日常生活指導などを行なう患者・家族教室が開催されるようになり,難病情報センターの設置へと結びついた」と,ALS患者の一時入院を可能にしてきた過程を省みた。
 さらに,「1996年からは,(6)の福祉施策の推進が各地域で実施されるようになり,ホームヘルプサービス,ショートステイ,日常生活用具の給付(便器,特殊マット,特殊寝台,特殊尿器,体位変換器,入浴補助具の6品目),ホームヘルパーの研修事業などが展開されるようになった」と述べるとともに,2000年から実施される公的介護保険下でもこれらの事業が拡大継続されることに期待を寄せた。
 一方で,地域サービスの現状と課題に関しては,公衆衛生審議会および専門委員会の見解であるとしながら,「在宅患者の療養環境整備は,受け入れ施設の充実と在宅支援体制の充実が必要。地域に根ざした在宅療養支援対策として,都道府県事業および市区町村事業,訪問看護サービスの絶対的な供給量が十分でないのみならず,患者にとって最適な組み合わせによる提供がなされていない」と紹介。その上で,「(1)全保健所において,地域にある諸サービスを効率的に提供するための調整機能および普及,啓発機能の充実,(2)医療相談および訪問相談の充実や地域人材の開発,育成,患者団体との協力,訪問診療事業の効果的な活用が重要」と指摘した。さらに,厚生白書による「難病疾患要綱の見直し」を紹介しつつ,ケアマネジメント業務については公的介護保険を見据え,「全国各地で同じように社会的支援の実施を充実させること,および利用者にとってそれらのサービスが最適に組み合わされて提供されること」の重要性を当面の課題にあげた。

難病看護の研究をするにあたって

 シンポジウムAでは,牛込三和子氏(都神経研)と長谷川美津子氏(セコム)が登壇した。
 最初に牛込氏は,1995年度の厚生省特定疾患「難病のケアシステム」調査研究班が行なった特定疾患患者療養生活実態調査に関連して,その疫学的調査研究の調査過程および難病のケアニーズの把握と分析方法を紹介。この調査研究は,管轄地域にどのような難病者がいるのか,また難病者はどのような生活をし,困っているのはどういうことなのかなどの調査を行ない,難病者の健康問題を把握し,難病者に必要な療養環境などのニーズ分析を目的として実施されたが,牛込氏は「これらの結果は難病施策に反映させることができた」と述べた。
 一方長谷川氏は,実践現場での研究の進め方について,「事象を客観的に把握し,そこから導いた事象間の関係を論理的に説明すること」と紹介。看護研究のキーワードに「言語化,数量化,論文化」をあげ,研究者の課題として,(1)疾患・薬剤に関する基礎知識の補充,(2)新たな看護基礎技術の知識や実施方法の修得,(3)客観的に記述するトレーニング,(4)個別の事例に関する関係者との連携とネットワークづくりなどを指摘した。

難病者支援のための事業

 シンポジウムBは,「先進的な事業が各地域でどのように取り組まれているのかを明らかにし,居宅および専門施設でのサービス事業がどのように行なわれ,どう展開するのかを論議したい」(川村氏)との主旨のもとに企画された。
 「保健所における難病相談」を口演した中山節子氏(大阪府吹田保健所)は,「在宅難病患者には,専門家の巡回による訪問相談が重要」と指摘。
 一方,梶原敦子氏(東京都三鷹保健所)は1987年から東京都が東京都医師会に委託して行なっている在宅難病療養者支援事業を紹介。「寝たきり等で受療困難な難病患者に対して,専門医,地域主治医,地域の関係者が診療班を編成して訪問診療を実施し,地域における適切な医療の確保,保険・医療・福祉の連携により,在宅ケア体制の整備,充実を図ること」を目的とする事業について,三鷹市の実践例から分析し,「制度の有効活用により,患者や家族が安心してかかることのできるシステムとして位置づけられる」と述べた。また,同様に東京都が1982年より独自に実施している在宅難病患者緊急一時入院事業,および1992年からの医療機器貸与制度については石黒久江氏(東京都狛江調布保健所)が紹介。この事業は,「介護困難に陥った在宅難病患者を委託病院に緊急一時入院(原則1か月,延長3か月まで)させることにより,安定した療養生活の確保を図ること」を目的としており,現在12病院12床に委託されている。また,貸代制度は「吸引器(中度,重度,最重度)および吸入器の貸し出しと専門研修を行なった委託看護婦による週1回の訪問看護を行ない,患者・家族の経済的負担の軽減と在宅療養環境整備を図ること」を目的としているが,石黒氏は「今後は移動時の携帯型吸引器の貸与や滅菌材料の提供などが検討されていくだろう」と期待を述べた。
 最後に入部久子氏(久留米大)は,「専門医療機関と地域をつなぐ看護サービス」を口演し,外来患者の問題とケアの実際を紹介した。また,在宅ケアサポートシステムと外来看護婦の役割および直接訪問を行なっている保健婦の役割について述べ,今後の課題として「医療ニーズの高い患者への教育指導」の必要性をあげた。
 総合ディスカッションの場では,東京都の先行事業が話題となった他,中山氏からは,「介護保険の具体的内容が厚生省の審議会で検討されているが,これらの内容に保健婦はどう対応していくのかを,この時期に考えなければならないのではないか」と発言。それを受けて司会を務めた川村会長は,明年1月に介護保険導入を踏まえた難病研究班によるシンポジウムの開催が予定されていることを明らかにした。

今後の転換に期待

 なお,学会の一般演題発表の中には患者への思い入れが強く,研究論文というよりは感情論となっているものが数題みられた。研究会から通算20回を数え,学会へと移行して3年。同学会が,学際的な学会として位置づけられるために,また学会そのものを意義あるものとするためには,応募演題の査読審査のあり方,発表の仕方に工夫がみられてもよいのではないかとの印象を持った。研究者だけではなく,患者,支援者らも参加ができる同学会には,難病患者が抱える問題などを明確にする自由集会などユニークな企画が立てられている。その一方での研究発表のあり方には,今後何らかの転換を期待したい。また,現在審議が行なわれている介護保険下において,難病患者への施策がどう進められるのかなど,その動向を見守るとともに提言を図っていくことも,これからの学会としての課題となるのではないだろうか。次回(会長=北里大 中田まゆみ氏)は,神奈川県相模原市の北里大学で明年開催される。