医学界新聞

未来医学シンポジウム'98 開催

-遺伝子治療とクローン技術の展望


 さる7月2日,東京の東京女子医科大学弥生記念講堂において,未来医学研究会(会長=東女医大教授 桜井靖久氏)主催による,未来医学シンポジウム'98が開催され,遺伝子治療とクローン技術に関して4人の演者による口演が行なわれた。

遺伝子治療の発達

 最初に,DNA言語学を紹介し,癌に対する遺伝子治療の方法論を概説した大野典也氏(慈恵医大DNA医学研所長)は,「放射性同位元素を活用することで,より安全な遺伝子治療が可能になる」という研究結果を発表。また,VEGF(vascular endothelial growth factor)遺伝子の導入による血管の再生法を,冠動脈疾患などの血管の病気の治療に応用することの可能性について報告した。
 続いて登壇した横山尚彦氏(東女医大)は,内部臓器の左右非対称性に着目。「臓器が遺伝的に決定されるという仮定のもと,内臓逆位を示すマウスの遺伝的変異体を利用して,左右非対称性を決定する遺伝子を発見した」と述べた。

クローン技術の可能性

 内臓逆位の問題とも関連して,臓器移植とクローン技術について発言を行なった澤田登起彦氏(東女医大)は,臓器の異種移植の必要性を主張。「異種移植の大きな妨げになる超急性拒絶反応には,この反応を引き起こす抗原と抗体がある。これらをクローン技術によって除去すれば異種移植も可能である」と語った。
 最後に登壇した毛利秀雄氏(岡崎国立共同研究機構基礎生物学研所長)は,これまでのクローン技術の発達過程を解説。動物工場としてのクローン動物の果たす役割にも言及した上で,今後の問題点として,(1)子孫の生殖能力の低下,(2)ゲノムインプリンティング,(3)ミトコンドリアの適合性,(4)テロメアの問題,(5)体細胞突然変異,(6)遺伝的多様性の喪失,(7)倫理的・社会的諸問題があると述べた。
 遺伝子治療とクローン技術は今後さらに密接に関わっていくと思われるが,クローン技術の発達は医学的な効用を大きくすると同時に,倫理的な諸問題とも抵触せざるを得ない。適切な倫理規定の下で,研究を進める必要があるだろう。