医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


環境看護学の緒端を拓く好書

ベッドまわりの環境学 川口孝泰 著

《書 評》早川和生(阪大教授・保健学)

 環境の問題は,現在広い意味でますます社会的関心が高まってきています。看護学の領域においても,ナイチンゲール以来,環境問題には非常に重きが置かれてきました。ただナイチンゲールの没後は大きな展開がみられず,看護学の発展にとって残念な感じが否めませんでした。現在のように環境に対する社会的関心が国民全体に高まり,環境を抜きにして人間の健康を議論できないような時代にあって,いわゆる健康関連の専門職の中で最大の看護職が,この領域においても積極的な貢献をするのは社会的責務といえましょう。
 特に環境は,さまざまな方向から入りうる領域で,看護学研究者にとっては宝の山と考えられます。看護職の臨床現場においても環境を主題とした解決すべき課題がたくさんあります。

臨床看護の現場に不可欠な環境学の視点示す

 本書『ベッドまわりの環境学』は,看護の臨床現場において忘れてはならない環境学の視点が実に明快に書かれています。第1章「病者の心の理解」では療養生活のストレスと環境の重要性について,第2章「療養空間の調整」では病室内のプライバシーとテリトリー,ベッドまわりの快適性,治療・看護のための空間について,第3章「日常生活の支援」では,食べる,眠る,排泄する,清潔にする,といった看護の基本的側面から環境について,そして終章の「環境調整の治療的な役割」では,看護理論に基づいた環境看護学の構築に向けた新しい視座が展開されています。
 本書は看護学の学問的発展にとって重要な,臨床現場と患者の視点から環境看護学の構築と開拓を試みており,近年にない新鮮な内容を満載した好書といえます。
 また,臨床の看護職にとって格好の体系書であるとともに,看護学生にとっては教科書の副読本として,向学心を刺激する上で強く推挙できる学術性の高い本になっています。
B5・頁158 定価(本体2,800円+税) 医学書院


看護の質の向上をめざして

看護ケースマネジメント クリティカルパスウェイと実践の評価
エレイン・L・コーエン,トニ・G・セスタ 編著/矢野正子,菅田勝也 監訳

《書 評》山崎 絆(東京都済生会中央病院副院長)

 東京都済生会中央病院では,看護の質の向上をめざして1995年からクリティカル・パス(クリティカルパスウェイ)の取り組みをはじめた。当時は,クリティカル・パスに関する文献が少なく,アメリカから文献を取り寄せてパス法の導入を進めてきた。それから3年を経た現在では,クリティカル・パスに関する文献は,国内外のものを問わず多くなってきている。
 クリティカル・パス法による医療プロセスの標準化は,わが国の経済不況,少子高齢社会の実状を踏まえ,医療の見直しとして取り組まれつつある。その目的は,国民皆保険制度の存続,医療施設形態の整備,医療の質の保証にあるといえる。
 国の医療行政は,医療制度改革の一環として医療費の定額制が検討されてきている。このような動きに対して,各病院は生き残りをかけて在院日数の短縮,資源の効率的な活用などに懸命である。このことに正面から向き合う1つの方法としては,クリティカル・パス法による業務改善と質の向上およびチーム医療の強化がある。
 この3年余の期間にクリティカル・パスの概要についての理解はかなり普及したと考えるが,各種医療機関においてクリティカル・パス法を使用しているところは,まだ少数である。とはいうものの,クリティカル・パス法を取り入れようとしている病院が増えているのも事実である。
 そこで,次のステップとして,クリティカル・パスのアウトカムとアウトカムの評価,ケースマネジメントにどのように取り組むかが課題となってきている。ちょうどこの時期に,タイミングよく出版されたのが本書である。

クリティカル・パスの導入・活用の手引書

 本書は,ケースマネジメントを広い視点で述べているだけでなく,豊富な実例に基づく研究を踏まえた内容がまとめられ,まさにEBM(エビデンス・ベースト・メディシン)となっている。したがって,今後,クリティカル・パスの導入や活用の際の手引書として大いにその役を発揮できるものと思われる。
 本書の訳者はクリティカル・パスに十分に精通している。読者は実践において訳者らと医療改革の方向性を共有し,よりよい医療の提供へ向けての貴重な示唆を得るのではないだろうか。
B5・頁364 定価(本体4,800円+税) 医学書院MYW


人間関係を良好に保つための手引き

こころの看護 武藤清栄 編集

《書 評》森脇美登里(聖マリアンナ医大病院看護部長)

 1千人を超える入院患者さんと2千人を超える外来患者さん,その方たちのケアにあたる千人近くの看護職員に囲まれて仕事をしていると,毎日,さまざまな人間関係に関する問題を突き付けられているといっても過言ではありません。
 つい先日も,慢性疾患で内科病棟に入院中の患者さんに退院指導をしようとした看護婦が,患者さんの反発を買ってしまって,その日のうちに退院されてしまうという事件が発生しました。看護婦であれば,一方的に教えたり,指導するのではなく,相手をサポートすることが最も必要なことなのだと,頭ではわかっているはずです。しかし,「ねばならない」思いの強い看護婦は,相手の患者さんの感情や状況を深く考えないまま対応してしまうことが多いのでしょう。

患者への対応の転換が求められる時代の看護職

 本書では,患者さん自身の治療意欲が問題となる慢性疾患が増え,患者さんの権利を尊重しようとする動きが高まる中で,看護職がどのように患者さんへの関わりを変化させていかねばならないか,そして実際にどのように関わっていくのが望ましいか,わかりやすく具体的に述べられています。
 例えば,私たちは,患者さんを受容しなければならない,相手をあるがままに受け入れなければならないと思っています。しかし,現実に患者さんと相対した時,自分自身が具体的にどうすればいいのかというレベルでは理解していないことが多いのではないでしょうか。この点について,本書では次のように述べています。
 (1)相手を理解しようとする時に,さまざまな枠組みにとらわれない,また,患者に質問をする時に患者が「はい」か「いいえ」でしか答えられないような,閉じた質問をしない。
 (2)次に,価値判断について考えると,英語やフランス語を母国語とする人たちと違って,「日本語」を母国語とするわれわれは,互いに「日本人同士」であることに慣れていて,自分と他者とが同じであることを当然だと思い,異なることに抵抗を感じることが多い。そこで自分と異なる相手を受け入れ,ともにある関係を築くためには,意識的に努力する必要がある。
 つまり,特別な枠組みをはじめから押しつけず,価値判断もわきに置き,自分自身を空にした状態で相手に耳を傾けると,今までと違う相手が見えてくる,といっています。これらのことは,これまでにもいろいろの機会に聞いたり,読んだりしたことですが,本書を読むと,なるほどと納得させられるものがあります。
 また,「看護の現場は忙しい。だから,患者さんのことばに耳を傾ける時間が十分に取れないのだ」と言う人がいます。そのことに対して,本書では,短い時間で深く聴く「ブリーフリスニング」という方法を紹介しています。具体的な場面を提示して展開されていますので,理解しやすく,いろいろな場面で利用できそうです。

示唆に富む豊富な事例

 医療現場や,在宅ケアの場,職域の現場で,あるいは保育や教育の場で,実際に起こり得るさまざまな事例を提示し,それらの対応について述べているのも本書の特徴です。例えば「癌を疑う患者への対応」では,告知をしていない卵巣癌の患者が苦痛と不安から離院しようとした後で,婦長が対応するという場を設定しています。私たち看護婦が,日常避けては通れない対応の難しい場面での行動や対話に関して,具体的なサジェスションを得ることができるでしょう。
 さらに,精神的,身体的ストレスの多い看護の職場でのメンタルヘルスの問題についても言及されています。この部分では,ストレス対処行動,ソーシャルサポート,職場環境と無力感等に関して,日本の看護職員の調査データも含めて述べられています。また,燃えつき症状や意欲減退の尺度が掲載されていますので,自分の状態をチェックしてみるのもいいでしょう。さらに,職場のコミュニケーションや人間関係を円滑にするための対処方法では,理論だけではなく,実際の職場で問題とされることの多い「職場での困った人たち」への対応に関して具体的に述べられています。これらを読むことによって,対応の転換を図ることができるかもしれません。
 最後に,常に「人」と相対している私たち看護職は,自分自身の心を豊かに保つことが何よりも大切なのだということを,改めて感じさせてくれる1冊であるということを強調しておきたいと思います。
A5・頁160 定価(本体2,000円+税) 医学書院