医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医学生,若い医師らのMRI入門の必読書

頭部MRI診断ブレイクスルー 蓮尾金博 著

《書 評》高橋睦正(熊大教授・放射線医学)

 1972年のCTの導入に続いて,1980年頃からMRIが臨床に用いられるようになった。MRIは,当初は,中枢神経疾患の診断に用いられていたが,急速に全身の画像診断でもその有用性が確立されるようになった。今や,MRIの読影ができなければ画像診断を行なうことはできない,とまで言えるようになり,MRIを理解することの重要性は,放射線医学の診療において,強調し過ぎても,過ぎることはないと考える。一方,MRIの最も有用な臓器は中枢神経であり,逆に中枢神経疾患のMRI診断を十分に理解すれば,他の全ての領域の画像を理解することが容易であり,中枢神経のMRIはMRI診療の基礎と言えよう。
 医学生や初心の医師らにMRIの解説をする場合,筆者は,まず,画像を十分に観察することによって勉強すれば,複雑な原理は自然に理解できることを強調している。今回の畏友蓮尾金博博士が執筆された本書は,正に,同じような考えから頭部MRIの画像診断を解説した入門書である。

画像を中心に解説

 本書の特長の第1は,難解なMRIの原理に踏み込まず画像を中心に解説し,ここから初心者のMRIへの導入を図っている。MRIの原理については,「補習」という項目を設け,画像の理解に必要な解説を行なっている。第2の特長は,脳のMRIで描出される解剖学的構造を詳しく,わかりやすく解説している点である。ここでも,画像に親しみ,そこからMRI理解の出発点とすることを試みている。このことは,MRIで描出される正常解剖の解説に本書の1/3以上の紙数をあてている点からも理解できよう。異常所見の解説を行なっている診断編では,まず,総論的に形態と信号強度の異常の捉え方を解説した後,主要な脳疾患のMRI所見を詳述している。解説は,簡潔明瞭で要を得ており,短い文章の中にも,理解しやすい説明を行なっている。また,少し特殊な病的所見や,現象の解説には,「メモ」として囲みの項を作り,本文のいたる所に挿入している。したがって,本書でMRIを勉強するにあたっては,まず,「メモ」や「補習」を除いて通読し,2回目に「メモ」のほうも読んでいけば容易に理解が深まるものと考える。

これからMRIを始める人のために

 本書は,MRIの入門書として,原理よりも画像から入るという哲学が貫かれており,非常にわかりやすい本となっている。本書を,医学生や,これからMRIの勉強を始めようとする若い医師らにMRI入門の必読書として推薦したいと思う。また,医師のみでなく,MRIに関与する放射線技師,看護婦らにも有益な入門書となることを付け加えたい。
B5・頁214 定価(本体4,700円+税) 医学書院


消化管エコー診断の待望の書

消化管エコーの診かた・考えかた 湯浅肇,井出満 著

《書 評》竹内和男(虎の門病院・消化器科部長)

 消化管のエコー検査は,最近,静かなブームである。これまで,体外からのエコー検査はもっぱら肝・胆・膵などの実質臓器が対象であったが,現在では虫垂炎・イレウス・炎症性腸疾患など,消化管疾患の診断にも欠かせない存在となっている。腹痛の患者を前にして,エコーで実質臓器しか診断できないのでは,――以前はそれでも面目が立ったが――,今や不十分であるといえよう。
 消化管疾患の検査では何といっても内視鏡が主役であるが,内視鏡が苦手とする疾患がいくつかある。たとえば胃外発育型粘膜下腫瘍や急性虫垂炎,あるいはイレウスや炎症性腸疾患の急性期などである。これらの疾患の診断はむしろエコーの独壇場であり,大いに威力を発揮する。
 しかしながら,消化管のエコー診断は,実質臓器の診断に比べ,「難しい」,「とっつきにくい」などの声があるのも事実である。
 だが,よく考えてほしい。エコーは消化管のガスを含め生体内を忠実に描写しているのである。日頃からガスをいとわず消化管を見ようとする姿勢があれば,自ずと疾患が見えてくるのである。著者が言うように,“エコーはおなかの聴診器”であり,“痛いときが検査の時,痛いところにエコーを当ててみよう”といったスタンスがきわめて重要なのである。
 もう1つ,消化管エコーが得意となれない理由に,適当な教科書がなかったこともあげられよう。

超音波診断の系統的な教科書

 著者は,現在主流である電子走査装置が爆発的に普及し始めた1970年代後半から,いち早く消化管エコーに目を向け,以来,地道に多くの知見を積み重ねてきており,消化管のエコー診断の分野では第一人者である。
 本書ほど系統的に書かれた消化管エコーの教科書はこれまでになく,超音波診断をきわめようとするものにとっては,本書が待望の書,格好の書であることは間違いない。
 本書では,はじめに「消化管エコーの考えかた」,続いて「診かた・描出のテクニック」,「消化管疾患の診かた・考えかた」,「症状からみたアプローチ」などの順で進み,最後に「症例集」があり,全体として5つの章からなっている。各章には,典型的な超音波写真とそのイラストが豊富に使われ,検査のコツについても図入りで詳しく述べられている。また,随所に,「エコーはパズル」「エコー刑事」「エコーはhead work」といった,著者の深い超音波診療の経験から生まれたちょっとした経験・コツ・注意点などが息抜き(“コーヒーブレイク”)として盛られているのがうれしい。著者の臨床医としての姿勢の一端が垣間みえ,共感を覚えるものである。

消化管エコー診断を始める方に

 本書では,日常診療で遭遇する消化管疾患のほとんどが網羅されている。その超音波診断が微に入り細に入りまとめられ,診断のポイントやノウハウがふんだんに盛り込まれている。エコー室にはぜひ備えておきたい教科書の1つといえる。
 これから消化管のエコー診断を始めようとする方には,まず,頻度的に多い急性虫垂炎,それとの鑑別が重要な大腸憩室炎,比較的診断の容易なイレウス,消化管の進行癌などの項を読まれることをおすすめする。それらの疾患の診断がある程度できるようになれば,間違いなく消化管の超音波診断に興味が湧き,その妙味が味わえるようになろう。その時には,本書がとてつもなく内容の濃い,すばらしいテキストブックであることが実感できると思う。
B5・頁198 定価(本体5,500円+税) 医学書院


病理医を志す医師に有用なテキスト

外科病理標本の見方・切り出し方
R. H. Hruban,他 著/長村義之,安田政美 監訳

《書 評》深山正久(自治医大教授・病理学)

手術検体処理を理解するために

 手術標本の病理診断は,なんといっても,肉眼的観察,固定,切り出しに始まる。この過程は,わが国では各臓器の癌取り扱い規約に個別に取り上げられており,個々の臓器癌に関心の深い病理医の手によって,一定の標準化がなされてきた。しかし,すべての臓器,疾患が対象となる病理検査室・病理診断医という立場から,この重要な過程に焦点をあてたマニュアルは,わが国にはまったくなかったといってよい。『外科病理標本の見方・切り出し方』は,そうした多様な手術検体処理のイメージを具体的に,確実につかむことのできる,ビジュアルなマニュアルである。
 現在日本では,まだまだ病理診断を専門にする病理医が不足している。病理科あるいは病理診断科が,独立な1つの科として機能するようになったこと,とりわけ大学病院・大病院以外の市中病院にひろがったのは,そんなに古いことではない。300床以上の規模で常勤の病理医がいない病院は,全国で300数十はあるといわれている。また,不足しているのは量的な面ばかりではなく,病理医の教育といった点で,従来の大学病理学講座の枠組みの中で十分対応できていない状況もある。このマニュアルは何よりも,そのような状況の中で病理医を志す若き医師にとってきわめて有用である。訳者の1人,東海大学病理学教室長村教授はこれまでも病理診断における標準化・教育に取り組んでこられ,『外科病理マニュアル』という著書もある。今回のマニュアルは訳書という限界はあるが,全臓器を網羅している点で『外科病理マニュアル』の基本編というべき位置を占めている。

ユニークで生気ある多次元的な図で解説

 この本の最も優れた点は,ユニークで生気ある多次元的な図によって,直感的に臓器イメージを捉えることができる点にある。訳文の生硬さがやや気になるが,図は質の高い,配慮の行き届いたものである。わが国で標準とされている癌取り扱い規約との対応がないことは不便であるが,この本を基本にすることによって十分対応可能である。また,実例としてカラー写真がないのが幾分さみしいが,これもマニュアルの1つの限界であろう。実際に自分で活用することにより,自分自身の実例集を作る,そんな楽しみが残されている。
 今後,このマニュアルの視点を取り入れた,わが国独自の肉眼診断・切り出しマニュアルも登場すると思われるが,この本の網羅性,図の簡明さのレベルに到達するには,しばし時間が必要である。『外科病理標本の見方・切り出し方』は病理医ばかりではなく,実際に処理に携わっている病理検査室の技師にも,あるいは外科医にも十分参考になるユニークなマニュアルである。
A4変・頁240 定価(本体4,700円+税) MEDSi


現場を知りつくした救急医の手によるマニュアル

救急レジデントマニュアル 第2版 相川直樹,堀進悟 編集

《書 評》大塚敏文(日本医大理事長・日本救急医学会理事長)

 救急医学,救急医療は今,大きな変革の時を迎えている。救急医療に対する社会のニーズが高まった結果,多くの大学医学部に救急医学講座や救急部の整備が進み,従来,各科診療体系の中で取り扱われていた重症救急患者の診療を専門とする救急医も増加しつつある,また,昨年暮れには厚生省の救急医療体制基本問題検討委員会が,告示制度と補完制度を見直して救急医療体制の一元化を提唱するとともに,大学附属病院は救命救急センターとして機能すべきであることを明らかにした。さらに,医師の卒後臨床研修における救急部門での研修を必修化する件についても,前向きな検討が進められている。

BSL中の医学生のバイブル

 このような背景の中,慶大救急部の相川直樹教授と堀進悟助教授の編集による『救急レジデントマニュアル 第2版』が出版されたことは誠に意義深い。本書はまさしく救急の現場を知りつくした救急医の手によるもので,救急に携わるレジデントのみならず,ベッドサイドラーニング(BSL)の医学生にとってのバイブルになり得るものと確信している。
 本書の特徴は,導入部分で救急医療に携わるレジデントとしての心構え,救急常備薬,常備機器・備品とその使い方について具体的に記述し,次いで米国における救急蘇生法の根幹であるBLS,ACLS,ATLSを最新のバージョンに従って解説していることにある。
 また,ショック,意識障害,胸痛,呼吸困難,腹痛などの救急症候から何を考え,何をなすべきかといった問題解決型の思考過程を重視した記述もきわめて優れている。レジデントは患者の訴える症状や徴候に目をやれば,鑑別診断のプロセスと初期治療のプライオリティ(優先順位)を学ぶことができるので,疾患の見落としや治療の遅れを未然に防ぐことができるであろう。
 さらに,外傷,中毒,環境障害,各科救急についても詳細かつ具体的に述べられていて幅広い救急領域を網羅しており,各科の専門的知識も同時に学べるよう配慮されている。
 その他,救急の現場で必須の救急治療手技が28項目に渡り,シェーマを多用して具体的に解説されており,血液検査,心電図,単純X線,超音波検査,CT,血管造影・IVRなどをどのように評価して緊急開頭,開胸,開腹の適応をいかに判断するかについても明快に述べられている。
 一方,インフォームドコンセント,脳死判定基準,災害医療などのup to dateな話題も網羅されており,患者・親族への対応の仕方や救急医療における法医学的知識などトラブルを未然に防ぐためのノウハウも示されている。

白衣のポケットに

 以上述べたように,本書は救急医療に関するきわめて優れた書物であり,かつハンディタイプのため,白衣のポケットに入れて持ち運べるのが何よりありがたい。本書が救急医療に関わる数多くのレジデントや医学生諸君に用いられ,わが国の救急医療のレベル向上に寄与してくれることを心から願うものである。
B6変・頁496 定価(本体5,800円+税) 医学書院


ART実践のノウハウをすべて網羅した解説書

ARTスタッフマニュアル 体外受精から顕微授精まで 青野敏博 編集

《書 評》香山浩二(兵庫医大教授・産婦人科学)

ARTに携わるすべてのスタッフに

 ART(Assisted Reproductive Technology;補助生殖技術)に携わるすべてのスタッフに役立つ新しい本が出版された。本書は徳島大医学部産婦人科学の青野敏博教授により編集された,不妊治療とりわけARTの実践に関する必読の1冊である。すでにARTに関する日本語版はいくつか刊行されているが,本書はこの方面のパイオニアである徳島大医学部産婦人科学教室のスタッフだけでなく,ARTを用いて実際に不妊治療を実施している多くの医師やエンブリオロジスト,さらには生殖生理学の分野で活躍している第一線の研究者により執筆された,ARTに関するすべての内容を網羅したすばらしい解説書である。
 その内容は臨床的にARTを実践するに際しての登録手続きや倫理問題の解説に始まり,ラボワークの実際では器具の洗浄から培養液の作り方,精子,卵,胚の検査法を解説し,ARTの基本操作ではIVF-ETでの卵巣刺激法,採卵法,受精・胚移植法から,ICSI,GIFT/ZIFT,精子・胚の凍結保存の実施法を示し,合併症対策では卵巣過剰刺激症候群,子宮外妊娠・多胎妊娠などの管理を,そして新しい技術としてMESA,TESE,Embryobiopsyの実際などをもれなく解説している。さらにARTによる不妊治療で患者さんのインフォームドコンセントに必要な基礎知識のみならず,円形精子細胞を用いた不妊治療の問題点などについても踏み込んで解説している。

ARTの最新技術をわかりやすく解説

 この本はARTの最新技術について写真や図表を多く利用して,医師,エンブリオロジスト,検査技師,ナースなどにもわかりやすく解説するだけでなく,「controversy Q&A」において,今まさに学会で議論になっているトピックスを取り上げることで,専門家にも大変興味を引く内容を含み,さらに「Case study」においては日頃臨床で治療に苦慮する症例から新しい治療法の開発など,今後の研究の方向性を示唆する内容を含み,日進月歩の進歩をしているARTに関する専門書として心憎い構成をとっている。したがって,これからARTを始めようとする医師のみならず,エンブリオロジスト,検査技師,ナースなどにとっても,最良の解説書であるだけでなく,すでにARTを実施している専門家にとっても,明日の業務に役立つ内容が納められている必読の1冊である。
B5・頁206 定価(本体7,200円+税) 医学書院


時代の要請に応えた眼科辞典

英和・和英 眼科辞典 大鹿哲郎 著

《書 評》望月 學(久留米大教授・眼科学)

最新の用語まで網羅

 今年4月,福岡市で開催された第102回日本眼科学会総会会場の書籍展示場で,発刊間もない本書を見かけた時,思わず「アッ。これだ」と心に叫び,手にとってみた。まことにハンディかつ簡潔で,きわめて最近の用語まで網羅された「英和・和英眼科辞典」であり,以前からこのようなものがほしいと思っていたその通りの辞典で,その場で早速購入し,ちょくちょく活用している。そんな折,医学書院から本書の書評を依頼され,思わずひとり笑いをした。
 本書の特徴は,なんといってもその思いきった眼科用語の取り上げ方にある。ごく一般的な眼科用語からきわめて新しい用語まで,さらには十分に定説の定まっていないものも積極的に取り入れ,簡潔明瞭な説明が加えられている。まさに著者が序に述べているように「ことばの辞書」と「ことがらの事典」の融合であり,眼科の研究者,臨床医,実地医家,研修医など幅広い人々の要請と興味に応えたものといえる。多くの方々が活用されることを望む。

新進気鋭の眼科医の手による

 最後に,著者の大鹿哲郎氏について触れると,氏はまさに新進気鋭の研究者であり,臨床家であり,ocular surgeonであり,どこに行くにもラップトップコンピュータを常に持ち歩く,フットワーク軽快な新世代の眼科医である。多忙な中でこれだけの辞典を1人でつくるには,コンピュータの助けなくしてはできないことであるが,それにしても驚きである。今後もこのような斬新な企画の著書を多数世に出してくれることを期待する。
B6・頁700 定価(本体6,000円+税) 医学書院