医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


呼吸器疾患の診断にあたるすべての臨床医に

びまん性肺疾患の画像診断指針 日本医学放射線学会胸部放射線研究会 編集

《書 評》野辺地篤郎(聖路加国際病院・放射線科名誉医長)

 昭和49年に日本臨牀社が創業30周年記念として『肺のびまん性・散布性・陰影』という本を出版した。その当時はCTがまだなかったので,もっぱら単純撮影の像についての報告・解説であった。したがって重なり合う影の中から病変の広がりを推測するしかなかったことを懐かしく思い出す。

X線からHRCTまで

 しかしながら今でも,胸部のX線検査は単純撮影から始まる。本書は「びまん性肺疾患診断における単純X線写真とその役割」という第1章から始まる。さらにデジタルX線写真とその応用であるコンピュータによる診断支援についての第2,3章の後に,第4章「びまん性肺疾患におけるCT(HRCT)の意義と適応」,さらに第5章「HRCTの定義,撮像法」があって,CT検査の適応,およびCT特にHRCTの基礎的な技術面について最近の装置を含めた,きわめて具体的な記述がしっかりとなされていることは,さすがに日本医学放射線学会,胸部放射線研究会が編集した本である。
 第6章は正常肺野解剖で他の胸部のCTに関する本と同じような記載になっている。さらに第7章のHRCT像読影法は40頁を超える実に詳細な記述で,病変分布に着目した読影法,および異常陰影パターンに注目した読影法の2つの読影法によるアプローチによって,所見をどのように分析していくかについて述べられている。さらにその後に用語,所見の記載が詳しく述べられており,このあたりにも本書の独特な編集が見られる。
 第8章では代表的なびまん性肺疾患のHRCT像についての記述が見られるが,実は7章での読影法の中で,すでにいろいろな疾患の症例が使われているので,この第8章にたどりつく前に読者はすでに代表的な疾患のCT所見についてはかなりの知識が得られるようになっているところも素晴らしい。
 一番最後の第9章に臨床情報の重要性が述べられていて,病歴の聴取,経過,理学的所見,一般検査所見,肺機能検査,気管支肺胞洗浄,臨床診断および病理組織診断がきわめて手短かに,多くの放射線科医のためにわかりやすく,よくまとめられた解説があり,大変適切な配慮である。

難解なびまん性肺疾患を誠実かつ丁寧に解説

 本書は題名が示すように画像診断のための指針としてまとめられたものである。主な目的は医学放射線学会会員で呼吸器疾患の診断,とくに「びまん性肺疾患」の診断業務の質を向上させたい会員の役に立つようにということであったと考えられる。しかしながら,本書は呼吸器疾患の診断にあたるすべての臨床医に役立つことは間違いない。難解な「びまん性肺疾患」について,これほど誠実かつ丁寧に基礎から臨床までをわずか136頁,厚さ8ミリの中にまとめて書いてある本は他に見られない。さすがに日本医学放射線学会の放射線科専門医の集まりである胸部放射線研究会が編集した本であり,広く推薦したい。
B5・頁136定価(本体4,700円+税) 医学書院


MRIを「楽しく」学ぶためのテキスト

MRIの基本パワーテキスト 基礎理論から高速撮像法まで
レイ H ハシェミ 著 荒木力 監訳

《書 評》井上多門(筑波大教授・物理工学系)

 MRIは20世紀の先端科学の諸成果のシステム化によって誕生した生体計測技術であり,その技術内容の正しい記述のためには医学のみならず数学,物理学,化学等にわたる幅広い学際的な知識を必要とする。本書の2人の著者および日本語版の監訳者は,いずれも医学の専門家であるが,理工学分野の先端的技術にも詳しい研究者であり,正に適任者揃いで著された書ということができる。

基礎知識と臨床応用の2部構成

 著者はその序文の中で「MRIに関する複雑なトピックを基本的な概念を損なうことなく,理解しやすく,さらに楽しいものとしようと努めた」と書いている。MRIが実用化してすでにかなりの時間が経ち,この方面の技術に関する「理解しやすい」成書は多く見られるようになった。しかし,本書のように「楽しく」書かれている場合は非常に稀である。
 本書は理工学分野に属する基礎知識に関する第1部と,臨床利用の場と直接つながった高速撮像法に関する第2部のみから成る特徴ある構成となっている。第1部では特に数学的準備に相当の頁数を割いているが,これはMRI技術の説明のために適切な正しい方法である。例えば,フーリエ変換についての記述など,無理に定性的なたとえ話で簡単に片づけてしまっている書も時々見られる。しかし,抽象的な数学的概念は,本書のように論理的にはっきりと示すことが正しい,そして結果的には最もわかりやすい方法となるものと思われる。また,現在の信号処理技術の基本であるディジタル処理に固有の問題,例えばNyquist周波数や,Aliasing効果などについても同様な著者の姿勢がうかがわれ,大変読みやすいものとなっている。

最近のMRIの話題にも言及

 このようにして第1部を理論的によく消化することのできた読者は,第2部の複雑な高速撮影技術を中心とした最近のMRIの話題にもきわめてスムーズに入ることができる。また,MRIの商品としての性格が関係して,臨床家の間に撮影法に関する用語の使用法に多少の混乱が見られるが,このあたりの説明についても本書はスマートに整理してあり,読者に大変親切である。
 この書は放射線研修医に対する講義が基本となっており,決して理工学の方面の読者のためのテキストとして書かれているわけではない。したがって,逆に理工学方面の研究者,学生が学ぶための教材として厳密な目で見るならば,多くの問題となる記述を指摘することができる。例えば,頁をめくってすぐに出てくるcos関数の形や,虚数に関する説明など,少々驚かされるような所があることも事実である。しかし,これらは著者が本書で示したい事柄の本質ではないので,問題にすることではないであろう。本書では,このような反面教師的な役割の箇所を所々見つけることができるのであるが,これも本書により楽しくMRIを学ぶことのできる1つの理由ではないかとも思われるのである。
B5・頁336 定価(本体6,500円+税) 医学書院MYW


日本の肝臓病学の集大成

肝臓病学 Clinical Science 戸田剛太郎,他 編集

《書 評》谷川久一(久大教授・内科学/日本肝臓学会理事長)

 本邦では他の先進国に比べ,肝疾患が著しく多い。それを反映して多くの方々が肝臓研究のみならず,肝臓病臨床に携さわっている。日本肝臓学会が会員およそ1万人を擁しているのはうなずけることである。しかるに不思議なことに1960年代,本邦にはまとまった肝臓病学の定本があったにもかかわらず,それ以後30年近くもまとまった書籍が出版されていなかった。この30年間は本邦の肝臓病学において著しい進歩の時期であり,肝疾患の原因のあらましが解明されたほか,診断・治療の面でも目をみはる進歩があり,一部の分野では本邦の研究診療が世界をリードしている。したがってこのような著しい発展と急速な進歩のために,まとまった書籍をつくることができなかったのかもしれない。
 しかるに,一応本邦の肝臓の研究や臨床も一段落ついた段階で,今回『肝臓病学 Clinical Science』,『肝臓病学 Basic Science』が出版されたことは,肝臓病学の今までのまとめと今後の発展のためにも時宜を得たものである。
 今回の『肝臓病学』がBasicとClinicalの2つに分けて編集されていることは,私ども肝臓を対象とした仕事をしているものにとっては大変自然なことである。そもそも日本肝臓学会は“肝臓病学会”ではなく設立の時から“肝臓学会”と名づけられてきたように,基礎的肝臓研究に携さわるもの,臨床に携さわるものが協力して問題を解決してきた。したがって臨床に携わる方々にも,ぜひBasic Scienceも併せてお求めいただくことをお薦めしたい。

若手・中堅の医師らによる編集

 さてまず本書『肝臓病学Clinical Science』は戸田剛太郎教授を中心にして,若手・中堅の先生方によって編集されたことにまず敬意を表したい。このことはきわめて重要なことで,実際の現役で活躍しておられる方々の問題意識が反映されるからである。
 『Clinical Science』の目次をみると,まず嬉しいことは,はじめに「症候」という章があるが,その最初に「症候理解のための肝・胆道系の生理・生化学」という項目が設けられていることで,このような臨床的事象を基礎的な知識を基に理解できるように工夫されている。
 「診断」の章では肝・胆道系の画像診断について十分なスペースが割かれているが,最近注目されているMRアンギオグラフィやMRコランギオグラフィについても触れてある。また「全身性疾患と肝」という項目ではAIDSの時にみられる肝の変化にも触れてあるし,さらには肝移植,遺伝子治療についても現況から将来の展望まで触れてあるのは嬉しいことである。

本邦の肝臓病学発展に役立つ

 また本書では胆嚢・胆道疾患も肝疾患とともに記述されている。米国をはじめ諸外国の肝臓学会では,胆道疾患も含めているところが多く,肝内胆管からの連なりであることを考えると,本来的には本邦での肝臓学会も胆道系疾患を含めたほうが望ましいと私個人は思っている。
 振り返ってみると,医学書院から,『肝臓-構造・機能・病態生理』という900頁ほどの大書が1968年に出版された。私もその執筆者の1人として名を連ねているが,その第2版が1972年に,そして1973年には『肝臓病』という姉妹書が発刊されている。いずれも900頁を超えるものであった。そして30年近くたった今日,同じ医学書院から,再び『肝臓病学Basic Science, Clinical Science』の2書が世に出たことは,私自身としても大変嬉しいことで,これから2版,3版と版を重ねて改訂されていくことを期待したい。
 本書が今日の本邦の肝臓病学の発展のために役立つことは間違いないと信じ,皆さんにお薦めする次第である。
B5・頁848 定価(本体25,000円+税) 医学書院


臨床医の基本技能を修得するためのガイド

レジデント臨床基本技能イラストレイテッド 小泉俊三 編集

《書 評》木村琢磨(国立病院東京医療センター研修医)

 われわれ研修医の多くは,研修をスタートする際,点滴や注射はもちろん,病歴や身体所見も満足にとれないのが実状であろう。現在,卒後臨床研修についてさまざまな議論がされており,これまでの専門志向の強いストレート方式から,基本的な臨床能力の修得を目的とした総合診療方式が注目されている。本書の内容は臨床基本技能であり,初期研修において臨床医としての基本的な技術を修得するためのガイドブックとはいえ問診法や診察法が手技に先立って記載されており,ポリシーが感じられる。

指導医による臨場感あふれる記述

 本邦でも有数の研修病院の指導医により執筆された本書は,臨場感にあふれ,豊富なイラストで説明されており,研修医にとって頼もしいオーベンである。先輩医師から,man to manで教わることの多いコツやピットホールも多く記載されており,初めてそれらの手技を行なう際はもちろん,ある程度修得してからも有用である。また手技に伴いトラブルが生じた場合の対処法がtrouble shootingとしてまとめてあり,ベッドサイドで実用的である。とかく手技はその病院に独特なものや,指導医による相違を経験することがあるが,各項の最後には研修ガイダンスとして,他の施設の指導医のコメントがついており興味深い。
 わが国では,総合的な卒後臨床教育を専門とする指導医は不足しており,しばしば高度な近代医学を目前にして,研修医として何を学ぶべきなのか目標を見失ってしまうことがあるが,本書はすぐれたロールモデルとなるであろう。また本書には各技能ごとに修得するべき時期や,必要経験数が提示され,到達目標や重要度が理解でき,研修医にとっての適切な研修プログラムのモデルとなろう。
 本書が多くの研修医に愛読され,読者の経験に基づいて改訂が行なわれ,研修内容の発展や情報交換の場となることを願うものである。そして,わが国に研修医の教育に関する合理的な方法論や体系的なガイドラインができることを期待したい。
B5・頁180 定価(本体4,500円+税) 医学書院


最新の情報を盛り込んだ眼科教科書

標準眼科学 第7版 清水弘一 監修

《書 評》吉村長久(信大教授・眼科学)

 欧米の教科書に比べて,日本語の教科書は定期的な改訂版の出版が迅速に行なわれない傾向がある。そして,次々と新しい教科書が出版されるが,改版を迎えることもなく消えていくものも多い。情報の寿命が短くなるいっぽうの時代にあっては,それも仕方のないことかも知れない。しかし例外もある。

吟味を重ねた編集

 この4月に『標準眼科学』の第7版が上梓された。この教科書は1981年に初版が出版されてから17年間に実に6回も版を重ねている。このことは,吟味を重ねた編集が行なわれていること,記載内容が信用できることを意味するのはもちろんであるが,今回の改訂は,単にこのような目的を達成するためだけに行なわれたものではないようである。もちろん,これまで通り3年に1度の改訂が大方針ではあろう。しかし,最近3年間の眼科学の進歩は大変なものであった。ちゃんと新版を出版する理由があるのである。
 眼科の世界では診断法だけでも,走査レーザー検眼鏡(Scanning laser ophthalmoscope)による眼底の詳細な検討が一般的になり,インドシアニン蛍光眼底検査による脈絡膜循環の新しい知見が蓄積され,OCT(Optical coherence tomography)による網膜・硝子体の界面の詳細な検討も可能となった。また,超音波生体顕微鏡(Ultrasound biomicroscope)のおかげでこれまで見えなかった前眼部の変化が捉えられるようになってきた。

診察机に1冊,医局に1冊

 たった300頁の小ぶりな教科書にこのような最新の進歩がしっかりと盛り込まれているのは驚きである。世界に数ある眼科学の教科書の中でも,これほどコンパクトな器に最新のよく整理された情報がわかりやすく盛り込まれているのは,この『標準眼科学』が一番であろう。美しくわかりやすい写真,図は,旧版同様,今回の改訂版にちゃんと受け継がれている。監修にあたられた清水名誉教授,編集の大野,澤,木下の各教授はじめ15名の錚々たる著者たちの見事な共同作業である。学生でも通読できるし,眼科研修医はもちろん,専門医試験の準備にも十分に使える。診察机の上に1冊,医局に1冊。
 このような教科書が出てしまうと自分が教科書を書く気が起こらない。その気になるまで,学生にはこの教科書を推薦することにしたい。
B5・頁340 定価(本体6,800円+税) 医学書院