医学界新聞

第3回慢性疲労症候群(CFS)研究会開催


 第3回慢性疲労症候群(CFS:Chronic Fatigue Syndrome)研究会が橋本信也会長(慈恵医大教授・第3内科)のもとで,さる6月26-27日の両日,東京の文京女子短期大学仁愛ホールにおいて開催された。
 同研究会は,これまで「慢性疲労症候群公開シンポジウム」として開催してきた学術集会を,本年から「研究会」と改称した。 橋本会長によれば,これは1991年に発足した厚生省特別研究事業の調査研究班(班長:木谷照夫市立堺病院長)が6年の任期を果たしたことによる。つまり,これまで同研究班の研究報告会はセミクローズドであったために,前回まではそれとは別に研究集会を持つことを目的として「公開シンポジウム」と銘打って開かれてきたが,今年からはこの学術集会がCFS研究の唯一の発表の場となったことから上述の改称にいたったものである。
 しかしながらCFSの病因,病態には依然として不明な点が多く,感染性因子,免疫異常,内分泌異常,精神神経学的異常などの面から検討が行なわれている。今回はCFS研究において世界的権威であるA. Komaroff氏(ハーバード大)の講演「Clinical Features of CFS in USA」を含む3題の特別講演の他,一般演題18題,シンポジウム2題が企画された。

 


広範かつ多岐にわたる一般演題,特別講演,シンポジウム

 前述のように,CFSは依然として病因・本態不明の疾患であるが,これは一般演題,特別講演,シンポジウムのテーマおよび内容の多彩さに如実に反映された。
 ちなみに,企画された一般演題は次の18題である。
(1)CFSと神経ホルモン(阪大・山口浩二氏)
(2)CFS患者血清中のTGF-β値(北大・林宏恵氏)
(3)CFSにおけるEBV,HHV-6およびHHV-7感染とTh2サイトカイン産生について(鳥取大・西連寺剛氏)
(4)CFSのCase Control Studyによる疫学的発症要因の検討(名市大・松本美富士氏)
(5)慢性疲労とナチュラルキラー活性(京大・勅使河原計介氏)
(6)日本人の成人CFSにおける特異自己抗体(国立病院東京医療センター・西海正彦氏)
(7)CFSとMCS〔多種化学物質過敏症:multiple chemical sensitivity〕との関連について(慈恵医大・横山徹氏)
(8)断食療法によってPS(Performance Status)の改善を見たCFSの1例(真生会富山医院・平谷和幸氏)
(9)絶食療法にて改善したCFSの1例(鹿児島大・中山孝史氏)
(10)CFSの病因,病態,治療をBUTS(無自覚性両側耳管狭窄)症候群で説明を試みる(高橋耳鼻咽喉科・高橋文夫氏)
(11)ボルナ病ウイルス研究のためのモデル動物の開発(北大・渡辺真紀子氏)
(12)CFSの小児例(熊本大・友田明美氏)
(13)小児自己免疫性CFS患者の免疫遺伝学的背景(日医大・伊藤保彦氏)
(14)CFSに対する漢方治療―補中益気湯と加味逍遥散の併用療法に関する検討(帝京大・合地研吾氏)
(15)POTS(起立性頻脈症候群)とCFSの合併例に対するβ-遮断薬と抗うつ薬(九大・稲光哲明氏)
(16)CFSに対する認知行動療法の可能性(鳴門教育大・井上和臣氏)
(17)低用量(0.5mg)dexamethasone抑制試験:うつ病の重症度とHPA-axis異常との関連(大阪府立病院・松永秀典氏)
(18)CFSの予後について(阪大・岡嶋詳二氏)
 橋本会長によれば,以上の一般演題の中でも特に注目すべき発表は,「(4)CFSのCase Control Studyによる疫学的発症要因の検討」,「(6)日本人の成人CFSにおける特異自己抗体」,「(7)CFSとMCSとの関連ついて」などで,従来にはなかった新しいアプローチが試みられており,今後の研究成果が期待される。
 また,特別講演はKomaroff氏の前記講演の他,「ボルナ病ウイルス感染とCFS」(北大・生田和良氏),「分子と心-ポジトロンCTを用いた検討」(大阪バイオサイエンス研・渡辺恭良氏)の2題。
 シンポジウムは,「精神神経症状をどう考えるか(座長=橋本信也氏,(1)CFSの精神神経症状,(2)感染症後心身症とCFSの臨床的相違について,(3)精神疾患とCFSの類似性について,(4)精神医学からみたCFSのサブタイプとその経過)」,および「CFSの病因・病態・治療はどこまでわかったか」の2題が企画された。


CFSの病因・病態・治療はどこまでわかったか

肺炎クラミジヤ感染症の関与:熊本市における集団発生

 シンポジウム「CFSの病因・病態・治療はどこまでわかったか」(座長=阪大・倉恒弘彦氏)では,古庄巻史氏(市立岸和田市民病院)が自身が体験したCFSの経過を報告した。
 古庄氏の場合,まず氏の奥さんが突然高熱,咳嗽(がいそう),呼吸困難,チアノーゼをきたし,救急車で入院。間質性肺炎を疑われて加療し,数日後には改善したが,全身倦怠,咳嗽,皮膚知覚過敏,虫刺され様発疹は約1か月間持続した。
 間もなく古庄氏自身が発熱,咳嗽,咽頭痛,咽頭違和感,嗄声(させい),軽度の呼吸困難,頭痛をきたした。発症時の検査所見の異常は1か月半後には正常化したが,全身倦怠感が強く,頭痛,睡眠障害,手足の冷感・温感,嗄声,咽頭違和感,寒気,不安,イライラ,微熱,咳嗽が持続し,1週間入院。その後も症状は一進一退で,約2年間続き抗生剤の使用も効果がみられなかった。
 古庄氏によれば,当時(1991年)熊本市で慢性咳嗽,咽頭違和感を伴ったCFSの症状を呈した人が少なくとも12名存在し,これに対して寒冷凝集反応,マイコプラズマ反応,ツベルクリン反応,C.Pn(肺炎クラミジヤ)抗体の検出などを試みたと言う。古庄氏はこれらのことから,「CFSはその初期症状として発熱,咳嗽,咽頭違和感などの上気道炎の症状が慢性的に持続し,その原因としてマイコプラズマ,百日咳,ウイルス,結核,C.Pnなどの感染が上げられる」と指摘し,「われわれの例では家族内発生,集団発生が見られ,CFSにおけるC.Pn感染症の関与を強調したい」と述べた。
 この古庄氏の発表に対して,医療従事者自身の体験という貴重な内容もさることながら,熊本市における集団発生という新しい事実の報告が注目を浴びた。わが国にはこれまでCFSの集団発生例はないとされてきた。厚生省研究班(班長=国立公衆衛生院・蓑輪眞澄疫学部長)が1992年に行なった疫学調査は,1993年12月までの回答を集計分析したものであるが,この時に集団発生例はないとされた。
 しかし,熊本市の集団発生は1991年8月であるから,この全国調査には当然報告されていなければならないはずで,この点に質問が集中したわけである。この問題に関して橋本会長は,「8年前のことではあるが,あらためて調査する必要がある」と発言した。

小児におけるCFS

 また,三池輝久氏(熊本大)は小児におけるCFSについて考察した。
 三池氏によれば,小児の慢性疲労は登校不能となって現われ,その病態はほぼ成人におけるCFSの大クライテリアは満たすが,小クライテイリアは必ずしも十分には満たさない。症状としては,微熱や不定愁訴,睡眠障害,易疲労性,思考の散漫,感覚の鈍麻,言語理解の困難などがある。
 医学生理学的データで共通していることは,深部体温の異常と睡眠障害,メラトニン・コルチゾール・βエンドルフィンなどのホルモン分泌障害,脳血流分布異常,p-300延長,MRAにおけるコリンの蓄積,自律神経機能障害,糖代謝異常など小児においても多彩である。
 三池氏は,「総合的には,体内時計の故障による生活時間のズレが起こっており,脳機能全体に混乱を生じた状態と言える。背景的な生活環境を見ると,毎日が単調で,不安を伴う頑張り,休みのない生活などであり,基本的には慢性睡眠不足があると考えられる」と指摘し,「現代人の夜型生活による慢性的な睡眠不足と持続的なストレス状態が辺縁系を中心とした脳機能の不活化を引き起こし,間脳下垂体,副腎機能の連携の異常が慢性疲労の根底にあるのではないか」という仮説を呈示した。
 同シンポジウムでは他に,「CFSの病態とAdipocytokines,特にLeptinとの関連」(名市大・松本美富士氏),「CFS患者に見られる脳血流シンチ(SPECT)について―特に精神神経症状との関連について」(帝京大・合地研吾氏),「CFS患者におけるrCBF(局所脳血流量)とアセチルカルニチン取り込み異常―ポジトロンCTを用いた解析」(倉恒弘彦氏)が発表された。
 なお,次回の研究会は松本美富士会長のもとで名古屋市において開催される。
 また,前記A.Komaroff氏の特別講演「Clinical Features of CFS in USA」は後日あらためて詳報を報告する。