医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


胃内視鏡の初歩から奥義までを1冊に

胃内視鏡治療 Strip biopsyの実際 多田正弘 著

《書 評》比企能樹(北里大教授・外科学/北里大東病院長)

 「Strip biopsyの実際」という副題の美しい内視鏡写真を表紙に載いた本ができあがり,手もとに送られてきた。

具体的な症例を美麗な写真で

 言うまでもなく,著者多田正弘氏は,日本におけるStrip biopsyの開発者である。この本で多田氏はその開発の歴史から,胃内視鏡の観察法,Strip biopsyの手技に至るまで,具体的な症例を美麗な内視鏡写真とわかりやすい図で示しながら解いている。
 こういう手技書は往々にしてあまりに初心者向けであったり,または学問的すぎて難解なものであるが,さすがたくさんの症例を持ち,確実な技術を持っている著者は,初歩から奥義まで,網羅して1冊の本にまとめられた。そして,何よりも満載された写真が美しいということである。
 著者はこの本で,早期胃癌の診断法から,内視鏡治療の適応,そしてその成績に至るまで,すべて自分自身のデータをもとに記載されている。ことに,癌の見つけかた,内視鏡による観察法を細やかに実例で示している点は,高く評価されて然るべきだと考える。この見事な説得力と一貫性は,自分の経験に基づき,こつこつと集積しないとできない強みであろう。
 同時に内視鏡治療を志す者は,すべからく正確な内視鏡診断の能力と技術を備える必要があることを示している。私は,この点に最も共鳴するものである。
 Strip biopsyというものは,内視鏡学において,今世紀の癌治療を変えた特筆すべき方法であると思っている。その方法を,日本で開発した多田氏の仕事は,世界に誇るべき偉業の1つだと確信する。その技法を着実に行なってきた,臨床家としての多田氏に敬服の念を抱くものである。
 この本の序文として推薦の言葉を,世界消化器病学の雄であられる竹本忠良先生が書かれている。先生は多田氏の師であり,弟子のすべてを知っている方であるが,その竹本先生をして「大樹に育った最高級の消化器内視鏡研究者」と言わしめたことで,著者多田正弘氏がいかに優れた人かがよくわかる。

すべての内視鏡医に

 そして言うまでもないが,その著者が精魂込めて書いた,この『胃内視鏡治療』という本が,優れた本であることは間違いない。すべての内視鏡医にお薦めしたい1書である。
B5・頁162 定価(本体15,000円+税) 医学書院


21世紀「分子医学の時代」の教科書

ヒトの分子遺伝学 T.Strachan, A.P.Read. 著/村松正實 監修

《書 評》新川詔夫(長崎大原医研教授・先天異常)

ヒト分子遺伝学の最新の知見を網羅

 待望の『Human Molecular Genetics』の日本語版が出版された。従来からわが国でも多数の分子生物学・分子遺伝学の教科書が出版されているが,真にヒトの分子遺伝学に関するものは本書が初めてである。従来型の教科書では,基礎的な理論と知見に関する部分は,大腸菌,酵母やショウジョウバエ,線虫などのものであり,大部分の医学関係の読者にとっては不得手な領域であることから,その部分を割愛する傾向があった。原著は,ほぼすべてヒトにおける分子遺伝学知見を解説してあり,日本語版の出版が強く望まれていた。本書は,多くの翻訳本にありがちな「難解な言い回し」や専門家にとって馴染まない「誤訳」はほとんどなく,スムーズに読み続けることができる。これは監訳者自身が本研究領域の第一人者であることと,実際の訳に当たった人たちが第一線の研究者であるためである。本書は,真に最新のヒト分子遺伝学に関する知見が網羅されていて,初心者のみならず,本領域の研究者にとっても全体を俯瞰するのに役立つと思われる。
 本書は20章から成るが,関係の深い数章ずつをセクション(Sec)A―Fとしてまとめ,読者が頭の整理をしやすいように図っている。このセクション分類はそのまま講義用のシラバスに使用できるので,大学教官である筆者は大助かりである。最初にSecAで遺伝現象の基礎となるDNA,染色体およびメンデル遺伝を解説し,以下,SecBでは主としてクローニング,ハイブリダイゼーション,PCRなどのよく用いられる分子遺伝学的技術を解説し,SecCはヒトゲノムの構造やその進化など,SecDでマッピングとヒトゲノムプロジェクト,SecEで遺伝病責任遺伝子の同定とその分子病理,最後のSecFで遺伝子治療へのアプローチなどが解説されている。本領域全体が網羅され,欠落したところがない。各章はすべて分子遺伝学をベースにした解説で,従来の教科書にはみられないものである。図は2色刷りで見やすい。ところどころにピンク色のボックスがあり,重要な知見を詳細に解説している。

医学生から第一線の臨床医まで

 分子遺伝学は,「難しい学問」とよく言われるが,その理由の大部分は「用語」にあると思われる。本書では本文中で各用語を随時解説しているが,加えて最後に「用語解説」がまとめられている。用語解説には日本語版だけの掲載項目もあって,訳者たちの努力がここでもうかがえる。本当によい教科書というのは,このように「どこまで判明しているか」,「どこがわかっていないのか」,「どのようにすれば解決するのか」などが書かれたものだが,本書はその典型である。
 21世紀の医学は分子医学の時代といわれる。したがって本書は,医学部学生の教科書として利用できるほかに,分子医学を志す大学院生,研修医,さらに第一線の臨床医などにも是非勧めたい書である。
A4変・頁664 定価(本体12,000円+税) MEDSi


精神科医 必読・必携の書

向精神薬マニュアル 融道男 著

《書 評》熊代 永(福島医大名誉教授,白河厚生総合病院)

 本書は,第1章「抗精神病薬」,第2章「抗うつ薬(抗躁薬を含む)」,第3章「抗不安薬と睡眠薬」からなり,それぞれの開発の歴史から薬理,最新の学説,種類と特徴,使い方,副作用と,それらの対処方法まで詳細に述べられている。例えば,第1章「B.精神分裂病の神経伝達異常」だけで,74の文献を20頁にわたって,ドーパミンD1,D4,D1受容体群(前頭前野のD1減少と陰性症状の関係など),DAT,シナプス前機構から,ノルアドレナリン,セロトニン,アセチルコリン,グルタミン酸ニューロン,GABA,神経ペプチドなどの異常までの最新の解説が要領よくなされている。
 そしてこれら以上に,実際の診療に役立つ薬の作用機構と各疾患に対する使用方法が要領よく,詳細に,各種の表にまとめられて述べられている。薬の一般名と製品名を併記した表に,構造式,力価,用量,各種受容体に対する遮断作用などがまとめてあるので,薬物選択に便利である。

薬物の副作用と機序・対策に力を入れる

 本書のもう1つの特徴は,著者も述べておられるごとく,薬物の副作用と,その機序と対策に力を入れて詳述されていることである。例えば,悪性症候群の鑑別診断,頻発症状,治療法,予防法,合併症,発生機序,発現率,死亡率と詳しい。副作用の種類についても,水中毒などの,あらゆる身体的なものから,精神的なものまで網羅されている。例えば,抗精神病薬による欠陥症候群(NIDS),行動毒性,認知障害症候群,精神的なパーキンソニズムなど,臨床上注目すべき点がよく解説されている。
 抗うつ薬についても薬理学的特徴の表は作用機序と副作用その他が比較できて薬物選択に便利である。抗不安薬と睡眠薬についても同様の表がいろいろあって便利である。
 そして社会問題にもなったトリアゾラム(ハルシオン(R))服用と飲酒の問題を詳述し,飲酒例と非飲酒例の健忘などの精神症状の実例を,すべて表にまとめて,各薬物ごとに比較して示してある。

充実した付録

 そして以上だけでも他に類をみないほど臨床家に必要なことが詳述されているのに,さらに,本書には3つの付録がついている。この付録のために,本書の表題を『向精神薬マニュアル』(便覧,手引書)としたと著者は述べている。
 付録1は,向精神薬過量服用とその処置の表で,抗精神病薬,三環系抗うつ薬,リチウム,ベンゾジアゼピン,バルビツール酸などについて,中毒量(死亡例),中毒症状(致死率),治療および処置がまとめられていて,緊急時の対処方法,順序まで具体的に示してあり,きわめて実用的である。付録2は,向精神薬識別コード表である。患者の持参する薬剤や被包に刻まれている文字,数字などの識別コードから,製品名,含有量,会社名,一般名を知るための表で,便利である。付録3は,向精神薬DI集である。以上の3つの章の薬の他,抗てんかん薬,脳代謝改善薬,抗パーキンソン薬,抗酒薬その他の添付文書(適応から副作用まで)が集められている。
 以上のごとく,本書は精神科医必読,必携の書である。そして精神科のある診療所,病院,図書館などにも常備すべきものとして,また精神科,救急医療の充実のためにも役立つものとして推薦したい。
A5・頁360 定価(本体4,700円+税) 医学書院


医学生や研修医,外来研修の医師に最適

新臨床内科学コンパクト版 第2版 高久史麿,尾形悦郎 監修

《書 評》津田 司(川崎医大教授・総合臨床医学)

 このたび新臨床内科学第7版(親本)のエッセンスを網羅したコンパクト版第2版が出版された。親本は,日進月歩の内科学のup-to-dateの内容を網羅した本として定評のあるところである。しかし,1850ページを越える大冊となり,ベッドサイドで活用するには大きすぎ,精読すべき教科書参考書となった。これはこれで大変有用であるのだが,一方で,ベッドサイドや外来で自由に活用できるエッセンスをまとめた実用書も必要である。そこで生まれたのが本コンパクト版であり,しかも今回は版を重ねて第2版となった。

ベッドサイドや外来に

 本書にはベッドサイドや外来で活用できる簡明な内科実践の書としての位置づけがなされており,親本にはないすぐに役立つ診断や鑑別診断のための一覧表,あるいは,すぐに役立つ図表も最大限に掲載されている。そして,特に優れた点は,記述が要点を中心に簡略化して記述されていることである。知識の整理にはきわめて有用であり,またベッドサイドや外来で参照するのにはうってつけの記載法である。
 一般内科外来やプライマリ・ケアの外来では色々の問題を持って患者が尋ねて来るので,特に学生や研修医のうちは,短時間のうちに疾患の全体像とその治療法を簡潔に記述した本がほしいものである。その類の本の多くは米国のマニュアル本,例えばLittle,Brownのマニュアルシリーズなどであった。しかし,それらは治療に重きが置かれているのが常であり,疾患全体の記述という点では物足りなさを感じている読者は多いものと思われる。そんな人たちにとって本書は恵みの本になるものと考えられる。また,ベッドサイドでも鑑別診断にあげるべき疾患の全体像を短時間で調べたいときにも簡潔に記述してあるので大変参考にしやすい。
 そんな理由から,本書は内科の臨床実習を受けている医学生や研修医,あるいは外来研修を始めた医師にぜひ推薦したい1冊である。
四六判・頁720 定価(本体6,800円+税) 医学書院


眼科医・コメディカルにお薦めの1冊

網膜色素変性症 安達惠美子 編集

《書 評》小口芳久(慶應大教授・眼科学)

網膜変性疾患のほとんどを網羅

 本書の題名が『網膜色素変性症』なのに,なぜ表紙に小口病の古いカルテと小口病の眼底があるのか不思議に思ったが,内容を見るとすぐに疑問が解けた。網膜色素変性症をメインにした網膜変性疾患のほとんどを網羅している,読みやすいアトラスである。
 本書は総論と各論に分かれており,総論では網膜色素変性症の定義,用語,疫学から始まり,診断基準,検査法などが順序よく並んでおり読みやすい。また遺伝相談,分子生物学,治療法など患者が最も聞きたい事柄に関しても記載されている。特に治療法では過去に行なわれてきた治療と,現在行なわれ,また近い将来可能となるかもしれない治療法についても記されている。また本疾患ではしばしば患者から身体障害者診断書・意見書などを要求されるが,これらの補助申請書類の書き方についても丁寧に記載されている。できれば,実際の症例について記載されていれば,もっとわかりやすかったと思われる。またリハビリテーションについても,わかりやすく解読されている。
 各論では,定型網膜色素変性症から非定型の網膜変性症と,enhanced S-cone syndromeなど比較的新しい概念の疾患が,それぞれきれいな眼底写真とともにその疾患概念,臨床像,検査所見の順に並記されており,編者の最も得意とする電気生理学的所見も時には,波形とともに記載されている。網膜色素変性症の類縁疾患では,脈絡膜病変を主体とするもの,網膜色素上皮病変を主体とするもの,黄斑の変性を主体とするもの,非進行性疾患に分類し,それぞれにつき眼底写真とともに解説がある。
 黄斑ジストロフィーまで網膜色素変性症の類縁疾患に入れているのは,以前ではかなり抵抗があったと思うが,最近の遺伝子レベルの研究では,同じ遺伝子から網膜色素変性症と黄斑変性疾患が証明されているので,このように黄斑ジストロフィーなども類縁疾患として扱ったほうがよいと思われる。クリスタリン網膜症を非進行性疾患の頁に分類しているが,内容をみると進行例もあると記載されており,分類上ごとに入れるか苦労されたに違いない。また後天性網膜色素変性症として,網膜色素変性症と眼底所見の類似した疾患につき解説があり,最後に網膜変性を伴う遺伝性疾患・症候群の表があり,18の疾患・症候群が整理されており便利である。

現在の状況を要領よく解説

 本書は小冊子ながら,実に要領よく現在の網膜色素変性症とその類縁疾患について解説がなされており,また編集を担当された安達惠美子教授の留学先のオランダ人で,本疾患に関係のあるDondersの胸像やHenless, Deutmanの写真が掲載されていたり,平安時代の省目(とりめ)の女の絵が載っていたりして,本疾患の過去と現在・未来につき考えさせてくれるすばらしい書物である。眼科医のみならずコメディカルの方々にも是非一読をお薦めしたい本である。
B5・頁120 定価(本体10,000円+税) 医学書院


ベッドサイドの疑問にこたえる産婦人科マニュアル

産婦人科ベッドサイドマニュアル 第3版 青野敏博 編集

《書 評》高橋克幸(国立仙台病院名誉院長,日本母性保護産婦人科医会副会長)

 研修医をはじめ若い臨床医,実地医家,学生などが,常に携帯しながら活用する,いわゆるベッドサイドマニュアルと言われるハンドブックは,いくつかの条件を満たしていなければならない。すなわち, (1)読みやすく,理解しやすい記述,(2)新知見など新しい情報も適当に盛り込む,(3)くどくなく,図示方式などを多用,(4)携帯に便利,(5)索引が親切,の5つになると思う。しかしながら,これらの条件を満たすマニュアルを作ることは非常に難しい。それは,産婦人科は生殖生理に代表されるように,進歩が速いうえに診療領域が広いため,サブスペシャリティが強調され,専門別に分けられやすく,バランスがとれにくいという科の特殊性による。

重要な新しい知見の解説も

 青野敏博教授編集の『産婦人科ベッドサイドマニュアル』は,医局員や赴任した医師に要望を聞くというマーケティング調査を行ない,教室の専門スタッフと協力して十分な検討をするという,周到な準備のうえにでき上っただけに,見事なまでにバランスのとれた本となっている。
 腫瘍,内分泌,不妊,周産期そして現在の話題の感染症の5つの重要な領域に的を絞って,ベッドサイドや外来でしばしば遭遇する疾患につき,かゆいところに手の届くような説明をしている。
 通常の教科書に記載されている病因や症状などの説明はできるだけ簡略にして,最近の新しい理論,頻用されている検査や治療法に頁を割いている。最近の治療法の進歩は特に著しいだけに,踏み込んだ説明はベッドサイドで実際に役に立つ。
 また,この種の本にはめずらしく,重要な新知見の解説を随所で行なっているだけでなく,報告者と文献も載せている。知識欲の旺盛な研修医,臨床医に満足を与えることと思う。

使いやすさに力点をおいた編集方針

 わからない英語の略語に遭遇したら,略語索引をみる。そこでは略語の原語の記載のほか,本文中の頁や別表の指摘まで行なっている。通常はこのような親切なことはしていない。使いやすさに力点をおいた編集方針が,このようなところにも現れている。
 “Side Memo”もユニークな企画である。最近の情報をコンパクトにまとめて載せており,サブスペシャリティを異にする専門医,指導医にも大変参考になる。
 全体を総括して,本書は学生や研修医のみならず実地医家も含めた産婦人科医が,救急時はもちろんのこと,ベッドサイドで必要とする知識や手技,治療方針が,直ぐにわかるように書かれている。ベッドサイドで疑問を感じた時,まずこのマニュアルを開くとよい。
 白衣のポケットに入れて活用すれば,産婦人科臨床の力が,格段に向上すること間違いないと確信する。
B6変・頁504 定価(本体6,600円+税) 医学書院


生理学を学ぶのに好適な教科書

臨床検査技術学(6)生理学 第2版 松村幹郎,他 著

《書 評》猪狩 淳(順大教授・臨床病理学)

 臨床検査技術学全16巻のうち,生理学の初版が刊行されてから,はや3年が経過した。この間,臨床検査技師をめざす学生諸兄姉の勉学に際し,よき伴侶となってきた本書が改訂され,第2版が刊行されたことは同慶にたえない。
 私の経験から考えても,既存の書を改訂することは,最初から著述することよりも容易であるように思われるが,それが実に困難な作業である。
 本書は,臨床検査技術学シリーズの全巻の改訂企画のトップをきって刊行されたそうで,それだけに,著者らの努力と意欲,それにもまして,臨床検査に対する多大な関心の深さに敬意を捧げたい。
 改訂に当たっては,どうしても追加する項目が削除する項目より多くなりがちで,ページ数が増えるのが普通である。本書では,初版の第4,8,15章に追加の記述があり,追加された部分は詳細になり,理解しやすく改められている。しかし,著者らは,学生諸君の勉学に当てられる時間には,おのずと限界があることを十分に理解したうえで,あまりくわしくならないように配慮している。

学生の理解を深めるための配慮も

 初版の推薦文でも述べたが,第2版も同様に,文章の記述が平易であり,知っていなければならない内容を要領よくまとめてあり,読者にわかりやすい。さらに,図や表を随所に入れて,理解を深めるよう心10憎いばかりの配慮がみられる。医学の基礎として,最も重要な生理学を学ぶ上に好適な教科書,参考書である。
 臨床検査技師学校の学生諸君はもとより,コメディカルの方々,医学生に一読をすすめる次第である。
B5・頁220 定価(本体3,800円+税) 医学書院