医学界新聞

急がれる脳卒中診療体制の整備

第23回日本脳卒中学会が開催される


ブレインアタックの位置づけへ向けて

 全国の脳卒中の患者数は173万人。かつては日本の死亡原因の第1位を占めた脳卒中は,現在癌に次いで第2位にあるものの,その医療費は1兆9千億円(1994年度)で日本の総医療費の1割弱を占め第1位である。また発症1年以内に1/3が死亡,1/3が要介助を余儀なくされており,寝たきりの原因の4割,訪問看護利用者の4割を占めるのも脳卒中の患者である。
 このような背景を持つ脳卒中の患者は,今後も高齢化に伴いさらに増加することが予想されている。なお治療法としては,脳卒中の大半を占める脳梗塞に対する発症3時間以内の超急性期における血栓溶解療法の有効性が認められる一方,抗トロンビン療法や低体温療法の実践,脳保護薬の開発なども注目されている。また,経済的側面からだけでなく「治る病気」との視点から,昨年3月に「日本脳卒中協会」が設立された。脳卒中医療は今,救急体制で治療を行なうハートアタック(心臓発作)に対するブレインアタック(脳発作)としての位置づけと総合対策が急がれている(本紙2268号,2294号および本号参照)。

一般市民向け企画も

 厚生省内にも「脳卒中対策に関する検討会」が設置されるなど,脳卒中対策をめぐる動きが活発になってきている中,さる6月25-26日の両日,第23回日本脳卒中学会が,端和夫会長(札幌医大教授)のもと,札幌市のロイトン札幌において開催された。なお前日の24日から(25日まで)は,同会場において第27回日本脳卒中の外科学会(会長=北大教授 阿部弘氏)が開催されており,両学会合同による討論会「脳梗塞急性期の治療」(座長=東北大 吉本高志氏,日本医大 赫彰郎氏)が企画された。
 本学会では,会長講演「未破裂脳動脈瘤」をはじめ,シンポジウムが(1)急性期脳卒中の画像診断,(2)頸動脈病変治療の諸問題,(3)クモ膜下出血対応の進歩など5題の他,パネルディスカッション(1)Stroke Care Unitの効果とあり方,(2)日本の脳卒中医療の課題と展望,および特別企画セミナー「脳卒中と高血圧」,さらに一般市民を対象に脳卒中を理解してもらおうと,公開講座「脳卒中を見直そう-ブレインアタック時代の予防と治療」も企画された。


日本の脳卒中医療の課題と展望

 パネルディスカッション(2)(座長=国立循環器病センター 山口武典氏,端会長)は,(1)現在および将来の保険医療の問題の中での位置づけと展望,(2)臨床医療情報整備の具体策,(3)1次予防の具体策,(4)急性期医療の課題と解決策,(5)人的質的育成の課題と解決策,(6)機能回復のサポートシステムの展望の6視点からの論議が行なわれた。登壇したのは,中村吉夫氏(厚生省・生活習慣病対策室),神野哲夫氏(藤田保衛大・脳外科),松本昌泰氏(阪大・第1内科),田辺功氏(朝日新聞社),青柳俊氏(日本医師会),金子正光氏(札幌医大・救急集中治療部)の各領域からの6名。
 この中で,田辺氏は「日本の保険医療は質を重視していない。世界に売れない商品を扱っている。学会,厚生省は一般の人が施設を選べる情報の公開を」と辛口発言。これに関して青柳氏は,「プライマリ医を情報源として活用してほしい」と発言した。
 また,神野氏は「血管内外科医のトレーニングができていない。脳外科医が血管内外科手術を兼ねているが,これからの脳卒中治療には血管内外科が重要となる。人材育成とともにトレーニングシステムの構築が急務」と指摘する一方,「救急の場で対応できる神経放射線医の育成」も示唆した。
 座長の山口氏は,「一般市民に対する発症までの教育が必要であると実感できた。また,各科のクロストークの必要性,専門医の養成,情報公開,EBMなどがこれからの脳卒中医療の課題」とまとめ,学会として脳卒中医療と保険医療の問題などを論議する初めての試みは,次回での有意義な継続討論を予感させ閉会となった。