医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


留学を志す者の道しるべ的存在

医師・看護婦・歯科医師・薬剤師・医療技術者のためのアメリカ医学留学の手引き 第6版
大石実,大石加代子 著

《書 評》五味千帆(東海大医療短大・看護学/白樺グループ)

 本書は,題名にもあるように医師,看護婦,歯科医師,薬剤師,医療技術者の留学のための一書である。書評者は看護の道で留学を志す者であるので,本書の中で特に看護について述べたいと思う。

留学を可能にするための諸条件

 看護界で留学を志す場合,大別して2つのケースがある。ナースの資格を取得しているケースと,ナースの資格を持たないケースである。留学を志すのは前者のケースが圧倒的に多いと思う。臨床で,また看護教育の現場で働く中で,さらにアメリカその他の国々の先進的看護を学びたいと思うのである。アメリカで働くことを夢みるナースは私のまわりにも多い。またアメリカでさらに看護教育を受け,日本の看護界や看護教育に深く貢献したいと思っている人も多い。アメリカでナースとして働く場合,CGFNS資格試験およびNCLEX-RNの資格試験に合格する必要がある。さらに実際に働く病院を探すという難関があるわけだが,本書は各資格試験や病院を探すためのアクセスの方法が記載されており嬉しい限りである。
 日本で看護教育を受けた者がさらに学士,修士,博士過程で学ぶための概略が述べられており,各州の看護学部を持つ大学の住所が巻末に載っているので,自分でコンタクトをとることができる。願わくは,日本の看護教育の大学化に伴い,MastersプログラムやDoctorsプログラムをめざす者もこれから多いはずであるから,その内容や志願方法についての章を設けていただければ幸いである。
 本書には留学を可能にするための諸条件であるビザの取り方や生活,外国語についても詳しく述べられている。留学に際しては経済面も大きな問題であるが,医療関係学校に行く留学生と関連の深い奨学金についても記載がある。さらにアメリカ以外の国……カナダやヨーロッパへの留学についても連絡先が載っている。さらに第6版よりインターネットの普及に併せて,インターネットのURL(Uniform Resource Locator)を新たに加えている。
 本書は,留学を志す者が主体的に関連機関にコンタクトをとることを限りなく可能にしている一書である。そういった意味で本書は“留学を志す者の道しるべ”と言えようか。
 最後に,本書の中で留学を志す者の心構えを述べている一文が私の心をひきつけたので紹介したい。「アメリカ留学をしようとする人は,まず目的をはっきりさせなければならない。日本とは異なる文化の中で,英語というハンディキャップを背負って1つの学問を修めることは,日本で勉強するよりはるかに困難であり,アメリカ留学を一種の逃げ場として行くとさらに苦しい現実に直面することになる。アメリカ留学が自分の人生設計の一部であり,自分の夢を実現するのに必要な国際感覚,英語力,アメリカの進んだ学問を身につけるといったしっかりした目的を持った人は意志がくじけることが少ない」と。
 留学を志す者の心を引き締める一文である。
A5・頁312 定価(本体4,000円+税) 医学書院


新しい保健活動の強力な武器

ヘルスプロモーション PRECEDE-PROCEEDモデルによる活動の展開
ローレンスW.グリーン,他 著/神馬征峰,他 訳 

《書 評》岡田加奈子(千葉大助教授・教育学)

ヘルスプロモーションとは何か

 ヘルスプロモーションという言葉を聞いたことがあるでしょうか。それではその言葉を説明できるでしょうか。「健康増進」としか答えられない方は,医療従事者,健康教育・公衆衛生関係者とはいえません。近年,健康教育だけでは人々の健康およびQOLは達成できないことから,環境に対する働きかけを含んだヘルスプロモーションという概念が広がって来ました。いまこそ健康教育を含み,健康教育を越えたヘルスプロモーションの実践が求められているといえましょう。しかし,「ヘルスプロモーションってなんだ」と聞かれて,的確に説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。この本の第1章は,そんな悩みに答えてくれます。ヘルスプロモーションとは何か。ヘルスプロモーションの歴史的背景を明確にしながら,健康教育との位置づけも理解できるでしょう。

PRECEDE-PROCEED

 それでは,次にヘルスプロモーションもしくは健康教育を実際に進める際に,どのように行なえばよいのでしょうか。実行する際には,グローバルな視野と対象となる人々の視点に立って何が必要なのか,何を行なえばよいのかを明らかにしていく科学的方法が必要です。その強力な武器となるのが,この本のサブタイトルにもあるPrecede-Proceedモデルです。
 前半のPrecedeとは,ヘルスプロモーションプログラム実行前のニーズアセスメントを行なう段階です。PrecedeとはPredisposing,Reinforcing and Enabling Constructs in Educational・Enviromental Diagnosis and Evaluation(教育・環境の診断と評価のための前提,強化,実現要因)の頭文字をとったものです。本書第2章以降では,社会診断,疫学診断,行動・環境診断,教育・組織診断,行政・政策診断の5つの各段階ごとの診断視点,方法を教えてくれます。今まで,われわれが気がつかなかった視点からの診断の必要性を感じ,具体的方法を知ることでしょう。
 後半のProceedは診断結果をもとに実行,さらには評価を行なう段階です。ProceedとはPolicy,Regulatory,and Organization Constructs in Educational and Enviromental Development(教育・環境の開発における政策的・法規的・組織的要因)の頭文字です。ヘルスプロモーションプログラムは必ず,企画-実行-評価という一連の段階を踏むことが大切で,この本を読めば,健康教育・ヘルスプロモーションの企画,計画の視点・方法,およびそれをもとに実行した後の評価視点と方法が理解できるのです。
 原著者の1人,ローレンスグリーンはアメリカの健康政策にもかかわった,健康教育・ヘルスプロモーションの第1人者とも言える方です。この本は世界各国で翻訳され,この度待ちに待った日本語版が発行されました。健康に関わる行政担当者,公衆衛生担当者,健康教育関係者,医師,保健婦,看護婦等医療従事者,学校保健関係者,など健康教育・ヘルスプロモーションに関わる人には必読の本といえましょう。
A5・頁376定価(本体4,600円+税) 医学書院


在宅における適切なアセスメントを支援

看護診断にもとづく在宅看護ケアプラン
マリーS.ジャフェ,リンダ スキッドモア-ロス 著/Scott渡辺由佳里 訳 

《書 評》川村佐和子(都立保健科学大教授・看護学)

 わが国では,近年,看護診断への関心が高まり,学会が設立され,研究や学習の場が増加しているが,在宅看護の分野には浸透が薄いように思われる。
 看護診断の定義をいまさら述べることはないが,一般的に私たちが読むことのできる看護診断の定義では,「医療機関内で看護婦が取り組むもの」と述べているものはない。訪問看護婦も利用するものである。本書では,在宅看護における看護診断の利用について,きわめて実際的に述べられている。

総合的な知識と判断

 著者は本書の目的を在宅患者が最良の健康状態と機能性を達成できることに置き,必要なあらゆる局面のケアとそのための異分野の相互的アプローチに指標を与えるものとしている。米国の保険会社は一般的に疾病とそれに関連した病態の治療およびセルフケアの患者教育に支払対象を限っているが,著者は患者の健康向上と疾病の予防についても加えている。米国では,直接患者に接している医師や訪問看護婦などの医療従事者が必要と判断した治療やケアさえ,保険会社に拒否される場合もあり,訪問看護婦は必要と判断したサービスが保険会社に拒否されない申請方法,つまり看護診断に基づく記載法を知っていることも重要である。
 訪問看護婦は,専門的技術以外に,保険に関する知識,社会資源や法律に関する知識,患者の経済力と受けられるサービスのコーディネーション,経済観念など総合的な知識と判断力が必要である。多くの条件が複雑に絡まる在宅の場において,訪問看護婦が感情的にならず,冷静に看護問題をアセスメントできることを支援することも本書の目的である。

在宅でまず第1に行なうべきこと

 本書は在宅治療を受ける患者の中でも頻度の高い病態を選び,アセスメント,ケアプランについて,簡略にしかも要点を明確にした記述法で,利用しやすく工夫されて書かれている。アセスメントの章では,加齢による変化も含めた記述となっており,病歴聴取と系統的診査(1項目),各器官別アセスメント(12項目),心理・社会系,機能,環境,家族,経済(各1項目)で構成されている。
 ついで,ケアプランの章は,各器官別の病態に対応して記述されており,各病態に関連する疾病ごとに,「在宅ではまず第1に行なう」べきことが明記されている。さらに,疾病の下位項目として,重要な病態ごとに看護診断を複数とり上げ,それぞれに「看護診断」,「看護目標」,「看護介入・指導」,「患者と家族・介護者介入」と分類された記述がある。最後の項目は,特殊ケアプラン(化学療法と放射線療法,ホスピタルケア,入院手術または外来手術後の術後ケアなど)である。
 付録頁には,成人対象の救急蘇生法,与薬と教育ガイドライン,NANDA看護診断,自己決定ガイドライン,普遍的予防措置(ユニバーサル・プレコーション)と生体物質隔離のガイドライン,KatzのADL自立指標,Mini-Mental State Examination,Bradenのスケールが掲載されている。まさにこれ1冊で,在宅看護が理解できるといった実用書である。
 著者は,ケアを特定した理解しやすい在宅看護と看護過程フォーマットを載せ,訪問看護婦のみならず,地域保健婦,看護学生,福祉課職員,訪問看護ステーションの補助的職種(介護士,ヘルパーなど),クリニック,病院の訪問看護部など,広い範囲の人々が利用できるようにしたと述べている。このことは,わが国と国情が違う米国のこととはいえ,介護保険を活用する際のチーム活動などにおいて,在宅看護を理解する上で役に立つと考えられる。訪問看護婦だけでなく,介護に関係する多くの方々にもご一読いただきたいと思う。
B5・頁310定価(本体3,600円+税) 医学書院