医学界新聞

検証される透析医療経済

第43回日本透析医学会シンポジウムより


 さる5月29-31日の3日間,横浜市のパシフィコ横浜,他で第43回日本透析医学会学術集会・総会(会長:横浜第一病院日台英雄氏)が開催され,会長講演の他,シンポジウム,ワークショップなど多数の演題が企画された。本号では満席の聴衆を集めたシンポジウム「透析医療経済」(司会=増子記念病院 山崎親雄氏,阪市大 瀬岡吉彦氏)から話題を紹介する。
 経済学の立場から口演した安川文朗氏(広島国際大)と河井啓希氏(慶大)は,透析治療の直接的な医療コスト(診療報酬点数)と同時にその背後にある機会費用に着目して議論を展開した。
 河井氏は「透析医療の供給側から見れば,入院,外来等施設ケアの場合には必要な機材,看護婦・医師等のスタッフ費用等の機会費用が高くなり,在宅の場合には相対的に低くなる」と指摘。安川氏は「入院や通院による患者の就労機会の放棄や余暇の削減といった患者の側の機会費用も考慮しなければならず,透析医療における技術革新は,患者の機会費用を含めた透析コストの削減効果を視野に入れて進められるべきである」と述べ,共により厳密な原価計算とその情報開示,それを基にした透析医療の価格設定再検討の必要性を強調した。
 これは,現在,施設でのHD(血液透析)が主流である日本の現状に対し,可能なかぎり在宅透析へシフトすべきと示唆するものでもある。河井氏は「在宅透析は施設透析に比べてリスクが増す。患者のリスクを小さくする技術開発の援助,環境づくりが望まれる」と今後の方向性を示した。
 また,桜堂渉氏(バクスター)は米国におけるヘルスケアリフォームが透析医療に与えた影響について概観。日本の透析医療においても米国と同様に「入院部門が縮小し,外来部門へシフトする。また,福祉機関での透析が拡大する」との見解を示した。
 一方,山崎氏は,財政構造改革の推進に伴う医療費縮減の流れや本年の診療報酬改定の状況を概略し,今後の透析医療費が縮減されていく見通しを示し,また,本年度から「在宅血液透析」が保険収載となったことに触れ,「将来の施設透析費用に影響を与える可能性が高い。血液透析は専門的医療なのかどうか,施設スタッフの役割が問われる」と指摘した他,スタッフの技術料のあり方,いかに透析医療の質の担保をするか,透析施設はどう対応すべきかなどについて問題提起を行なった。