医学界新聞

第39回日本神経学会開催される

臨床神経学のさらなる充実をめざして


 さる5月20-22日,京都市・国立京都国際会館において,木村淳会長(京大教授)のもと,第39回日本神経学会が開催された。本学会では,中西重忠氏(京大)による「グルタミン酸受容体と脳機能」をテーマとした特別講演が行なわれた他,著明な研究者が一堂に会した臨床神経生理セミナー等が企画され,多くの聴衆を集めた。
 また木村氏は「治る神経内科-機能的臨床神経学の展望」と題した会長講演の中で,教室で進められたcervical dystoniaにおけるmustle afferent block(MAB)療法や,CIDP患者へのγ-グロブリン療法,さらにミオクローヌスてんかん患者へのピラセタム療法等をビデオを用いて紹介,治療後の患者の著明な症状改善を提示した。さらに同教室で現在進行中の治験であるALS(筋萎縮性側索硬化症)のmethylcobalamin療法や,デュシャンヌ型筋ジストロフィーに対するDantrolene sodiumの治療効果などを紹介するとともに,神経内科における治験のあり方を示唆し,1時間の口演を結んだ。

神経細胞死の起こる過程

 神経変性疾患の病態解明に向けての新しい展開を背景に,シンポジウム「神経変性疾患と細胞死」(司会=東大 金澤一郎氏,順大 水野美邦氏)が企画され,5名の演者が登壇した。
 まず最初に,貫名信行氏(理研脳科学総合研究センター)が「神経細胞の死に方-見えるものと見えないもの」と題して,アルツハイマー病,プリオン病などの最近の知見から,各疾患において細胞が沈着・蓄積する過程とそこに残る疑問を示し,「病態の中には,死につつある細胞だけでなく,リバーシブルな状態“sick neuron”があるのではないか」と述べ,細胞死のメカニズムを考える上での方向性を示唆した。
 続いて下濱俊氏(京大)は,「なぜ細胞選択的に細胞死が起こるのか」との疑問から,活性酸素等による「酸化ストレス」と細胞死の関連を報告。選択的運動ニューロン死に至る過程におけるグルタミン酸の働きを示し,また,大脳皮質のグルタミン酸による神経細胞死に対して,神経栄養因子の1つであるBDNF投与により細胞死を抑制するなど,「酸化ストレス」抑制よる治療・予防への可能性を示唆した。

パーキンソン病研究の新しい展開

 川上秀史氏(広大)は神経伝達物質を取り込むトランスポーターであるドパミントランスポーター(DAT)とグルタミン酸トランスポーター(GT)が,神経細胞死にどのような関わりを持つかを概説。またパーキンソン病の成因に関与するMPPは,DATを通して黒質細胞に取り込まれるが,氏はこのヒトDAT遺伝子クローニングに成功し,遺伝子構造を決定したことを報告。現在,この遺伝子を用いてパーキンソン病に相関する多型の検出を進めていることを明らかにした。一方,松峯宏人氏(順大)は,最近のパーキンソン病の遺伝学的解析の進展を中心に解説。家族性パーキンソン病で同定されたα-synucleinの孤発性パーキンソン病脳におけるLewy小体沈着が報告されているが,「パーキンソン病はα-synuclein沈着により引き起こされるのではないか」との仮説を紹介。他の神経変性疾患の細胞死機序も同様に考えられるとの可能性を示唆した。さらに,慶應大との共同研究によりAR-JP(劣性遺伝性若年性パーキンソニズム)の原因となるパーキン遺伝子のクローニング成功を報告。研究の経緯と,Lewy小体陰性など本遺伝子の病理学的特徴を提示した。
 最後は中村慎一氏(京大)が,多発性萎縮症(MSA)におけるプロリン向性リン酸化酵素について口演を行なった。
 演題終了後,フロアを交えて論議が深められたが,最後に司会の水野氏は,「神経細胞死のプロセスを分子レベルで解明し研究が進められ,早急に社会に還元することを願う」と本シンポジウムを結んだ。