医学界新聞

サービスとして提供する精神科看護を求めて

第23回日本精神科看護学会が開催される


 第23回日本精神科看護技術協会総会・日本精神科看護学会が,さる5月20-22日の3日間,櫻井清会長のもと,全国から約1700名の参加者を集め,広島市の広島国際会議場で開催された。
 今年の学会のテーマは,「21世紀に求められる精神科看護―精神科における『看護サービス』の現状と課題」。会長講演やシンポジウムも同テーマで企画されたが,23回を数える同学会の歴史の中で,この主題が持つ意味は大きい。


「疲れた旅人」に何が提供できるのか

 初日の会長講演で櫻井氏は,「看護は,時代の流れとともにある。いまの社会が求めている精神科看護とは,そして看護サービスとは,どのようなものなのか」と語り始めた。医療,看護における情報開示,契約,質の保証といった看護をサービスと位置づけるに当たってのキーワードは,どれも「精神医療は例外」との注意書きを付されかねない。だからこそ,日々の看護実践をサービスであると意識し,専門職としてこれらの課題にきちんと向き合い,乗り越えていこうというこの呼びかけは,精神科看護のこれからの時代をつくる上で多くの可能性を持っている。
 櫻井氏は,患者を「疲れた旅人」に,また病院を「宿」にたとえ,旅人の長い旅に対して何を提供するのかが1晩の宿の役割であるとして,「看護職は,病院のベッドの上の患者ばかりを見ているが,患者が歩むところの傍らに立った上でこの疲れた旅人に何が提供できるのかを考えねばならないのではないか」と看護が抱えている問題を喚起した。そして,「病院の外では,各地域ごとに地場産業と結びついた福祉サービスが,精神障害者自身の力も集めて形成されてきている。一方,不登校や失業率の上昇など,世の中の精神衛生は悪くなっている」と現在の社会状況を分析した上で,同協会支部の法人化も含めた地域特性に沿える体制づくりや,学校や職場など精神看護の場を広げる必要性を指摘した。

精神科臨床の知とは

 櫻井氏は,「精神科看護のレベルアップは,臨床の中に蓄えられる知に基づかねばならない」と講演を締めくくり,同日に行なわれた中村雄二郎氏(明大名誉教授)を招いての文化講演「21世紀と医療の原点」へとバトンを渡した。
 著書『臨床の知』で医療職にも広く知られる中村氏は,「普遍主義,論理的一義主義,客観性を軸に発展してきた自然科学がいま行き詰まっている」と指摘し,「21世紀の医療は,その原点である人間観が問われる時代になるであろう」と述べた。氏はそれを,計測され得る理論的絶対空間・時間によって排除された「場所」の復権であり,現在の潮流である能動主義から,痛みを受けることによって得られる「見えなかったものへのまなざし」への移行であると解説した。

患者の視線で看護を問う

 最終日のシンポジウム(司会=静岡県立こころの医療センター看護部長 小林辰雄氏)には,川村治子氏(杏林大助教授),高下蓮美氏(瀬野川病院副看護部長),広田和子氏(精神医療ユーザー&サバイバー),藤野ヤヨイ氏(井之頭病院看護部長)が登壇。川村氏は,産業界の「顧客満足」という経営指標を医療にも導入する必要性を,また高下氏は精神科急性期治療病棟での看護の実際を紹介しつつ,精神医療の「入り口」の大切さを述べた。続いて広田氏は,医療過誤の被害を受けた自身の精神医療体験を紹介し,安心して利用できる精神医療のあり方を訴えた。さらに藤野氏は,看護サービスの質の保証の指標として,自己評価,ピアレビュー,第三者評価の3点をあげ,特に第三者評価に力点を置いて看護をサービスとして高めるための方向性を解説した。
 同学会で当事者が精神医療体験を壇上で発表することは初めての試みであり,同学会がサービスとしての精神科看護に真正面から取り組もうとしている姿勢を端的に表すシンポジウムとなった。
 なお同学会では,この他に研究助成論文発表,一般演題発表などが行なわれたが,演題発表は昨年よりも20題増え195題に上った。次回は「知る権利」をテーマに,明年5月26-28日の日程で鹿児島市で開催される。

(「精神看護」編集部)