医学界新聞

平成10年度全国看護婦(士)職能集会シンポジウム

――転換期を迎えた看護職の課題と展望


 日本看護協会通常総会の最終日(5月22日)には各職能集会が開かれたが,国立代々木競技場では全国看護婦(士)職能集会を開催。医療施設管理者,訪問看護婦,看護教育者,患者の4者が登壇するシンポジウム「転換期の看護職」が企画された。

高まる看護職への期待

 まず最初に,医療施設管理者として発言した葭田美知子氏(老人保健施設かみつが副施設長)は,これまでの体験に基づき,看護婦不足と社会的入院の増加による(1)看護婦の非効率性,(2)在院日数の長期化,(3)研修医・准看護婦指導の未整備,(4)入院患者の環境悪化,(5)看護のマンネリ化を指摘。これらを解消するには「セルフケア基本的看護システムが有効」と主張。最低限の看護と自己管理方法の指導によって,早期退院と在宅治療を促進するこのシステムは,「看護の質や医療施設の経営効率が上昇するだけでなく,看護婦自身の自己管理能力も向上した」と語った。
 続いて訪問看護婦の立場から発言した山田雅子氏(セコム在宅医療システム)は,ハイテク在宅医療や在宅ターミナルケアの充実が,介護型在宅医療を可能にしたと指摘。家族介護者の負担軽減や療養者のQOLへの意識が高まり,従来の家族を通した間接看護から,看護婦による直接看護へと,在宅療養システムが変化してきたと説明した。さらに,これに伴う問題として,(1)利用者の生活パターンへの適応,(2)多様化する関連産業への対応,(3)看護の評価法,(4)訪問看護婦の教育,(5)病院や主治医との連携,等を挙げたが,「早期退院計画を支える訪問看護婦の役割は大きい」と主張した。
 また,看護教育者の代表として発言した南裕子氏(兵庫県立看護大)は,日本看護協会の認定看護師・専門看護師の育成を含めたこれまでの看護教育の変革過程を前向きに評価。「今後は“スペシャリスト”養成だけでなく,医療経済などの幅広い知識と情報化や国際化に対応できる柔軟性を持ち,ケアの改善を自ら進んで行なう“ジェネラリスト”としての生涯教育が重要になる」と述べた。
 最後に患者の立場を代弁する者として発言した田中秀一氏(読売新聞社)は,「患者のそばにいる看護婦には,医師の医療ミスを防ぐ大きな役割があり,患者はその役割に大きな期待を寄せている」と指摘。「しかし,それにもかかわらず,看護婦は,医師に対する発言力が弱い」とし,治療段階に応じて看護婦がリーダーになれるような“チーム医療”の重要性を主張。「優しさ,実力,そして責任が理想の看護婦像のキーワードになるだろう」と述べた。
 同シンポジウムでは全般的に,少子,高齢,不景気を背景に,QOLの向上と採算確保の両立をめざすという点でシンポジスト間の意見が一致しており,課題と対策もかなり明確に示された。これらの対策実施に向けて,これからの看護職には医療のみならず,福祉領域,関連産業などの幅広い分野との交流が必要となると考えられる。新世紀へ向けた看護の1つの方向性が示されたと言っても過言ではないだろう。