医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


手元に置きたいすぐれた手術書

脊髄・脊椎の外科 Standard and Modified Techniques
白馬明,山浦晶 編集

《書 評》橋本信夫(京大教授・脳神経外科学)

 分担執筆による教科書というものは,少なからず内容にばらつきがあり,重複も少なくなく,編者の努力にもかかわらずしばしば統一性に欠けるものである。

スタンダードを明らかにし,最新の手術法を紹介

 本書は白馬,山浦両氏の編集による「Standard and Modified Techniques」シリーズの第3冊目であり,前2冊はすでに定評のあるものである。編者らはその「序」の中で,「その編集コンセプトの特徴は,現在の脊髄,脊椎の外科手術のスタンダードを明らかにすると同時に,独自の手術手技を用いて活躍しておられるエキスパートの最新の手術法や創意工夫を変法として紹介することにある」としている。
 月並みな表現ではあるが,本書は脊髄,脊椎外科を志す者にとっても,またこの分野のエキスパートにとっても一読の価値がある。しかしなんと言っても,ある程度脊髄,脊椎の外科にかかわっている医師(おそらくほとんどの本邦の脳神経外科医がそうであると思われるが)にとって本書はぜひ,手元に置いておきたい手術書であるという点で傑出している。

読む側を考えた構成

 その理由はその構成にある。非常に多くの分担執筆により構成されている本書は,一見寄せ集めのように思われるが,編者らが項目を注意深く細分化したために,それぞれの項目での内容が非常に明快で,重複のないものになっている。それぞれの項目は数頁ずつであり,多忙な診療の合間に読むこともできるし,辞書のように活用するのにちょうどよい分量である。また,このような制限の中では,分担執筆者はその主題のエッセンスしか書けない。これは読む側にとっては大変読みやすく,理解しやすい内容となる。この編者らの分担執筆の功罪を知り尽くしたうえでの編集構想に改めて敬意を表するものである。
 本書は大きく総論,Standard technique,Modified techniqueの3章からなっている。本書に対して唯一異論を唱えるとすれば,第3章のModified technique(編者らは変法とも表現しているが)は決して変法ではなく,多くは正統的あるいはStandard techniqueであるということである。編者らはおそらく,第3章の執筆者には自分の主張,あるいは独自の方法を遠慮なく書くように,いわば教科書としての足かせをなくすことによって,エキスパートたちのノウハウを積極的に教科書に導入しようとしたのだと思う。事実,その試みは見事に成功しているが,その成功ゆえ,かえって変法という表現に若干の違和感を覚えるのである。

明快に一定のスタンダードを呈示する

 もちろん,本書1冊を読めば脊髄,脊椎の手術ができるというものではないが,解剖,生理,症候学,診断法,管理法,手術法すべてに関し,読者に簡潔に,明快に一定のスタンダードを呈示するすぐれた手術書である。また,通常,「脊椎・脊髄」とするが,編者らが「脊髄・脊椎」にこだわった理由は特に記されていないが,本書を通して理解していただきたい。
B5・頁416 定価(本体22,000円+税) 医学書院


消化器癌診療の基本が学べるテキスト

消化器癌の診断と内科治療 1 食道・胃・大腸 岡部治弥 監修

《書 評》望月福治
(JR仙台病院消化器内視鏡センター長,仙台市医療センター名誉院長)

内視鏡的治療と化学療法を一括して記述

 本書は対象を消化器癌に絞りこみ,食道,胃,小腸および大腸の診断と内科的治療について系統的な記述がなされている。癌の診断に重点がおかれていることはもちろんであるが,特に治療の項では内視鏡的治療と癌の化学療法が一括して記述されており,このような企画はおそらく本書が初めてではなかろうか。
 内容は大きく6章に分けられている。すなわち,診断編では食道癌,胃癌,小腸癌,大腸癌,消化管悪性リンパ腫,それに前述した消化管癌の内科的治療から構成されている。さらに,それぞれの章は早期癌,進行癌,深達度,浸潤範囲,生検,病理などの項目別に診断法が詳述されている。随所に症例が提示され,内視鏡,X線,超音波像,切除標本などによって具体的に診断のポイントが的確,かつ平易に解説されている。例えば IIc型早期胃癌の内視鏡診断は「病変部の周辺,病変部境界,陥凹内面に分けてみるとわかりやすい」と述べられ理解しやすいし,同様に,内視鏡による深達度診断は「病変の形態,組織型,大きさなどから深達度を類推する方法と,粘膜下層以深への浸潤した変化をもとに深達度を推定する方法」があるなど,要点を押えながら病変の特徴と目のつけどころが簡潔でわかりやすく記述されている。
 また,消化管癌の内科的治療の章では前半は内視鏡的治療,後半は主として癌の化学療法が記述されている。内視鏡的粘膜切除術(EMR)については,切除の実際,内視鏡的治療の成績,内視鏡的切除後の経過観察などが記述されている。さらにEMRの適応を決めるために病巣の拡がり,深達度の判定は精密さが必要になったことが折に触れ強調され,豊富な症例と長年の研究業績をもとにした著者らの見解が示されている。また,内視鏡的摘除術の適応については,胃癌では20mm以下の隆起型,10mm以下でU1(―)の陥凹型で,かつ深達度mの高分化型癌であるとしているが,食道癌では深達度がm1,m2まで,大腸癌ではsm1までと,消化管全体が系統的に扱われているので,臓器別に対象を異にすることが示され興味深い。
 化学療法の項では,食道と胃それに悪性リンパ腫など各疾患別に化学療法の対象と目標,各薬剤の特性と作用機序,投与法,効果判定と治療成績,副作用対策などが症例とともに具体的に記述されており,多数の図表により化学療法の現状と将来への展望が紹介されている。巻末には抗癌剤の一覧表も付記されており,著者らのこの部門での意気込みが感じられる。

消化器病を学ぶ人のために

 本書を通読すると,消化器癌の診断と治療の基本を学べるとともに,そこで積み重ねられた知識をさらに整理しながら身につくように記述されている。全編を通じて食道,胃,大腸へのアプローチの方法が具体的に解説されており,消化器病を始めて間もない人,特に消化器専門医をめざす若き研修医に広く推奨したい。
B5・頁292 定価(本体23,000円+税) 医学書院


胸部画像診断を学ぼうとする医師に有用

胸部X線「超」講義 画像パターンから鑑別診断を学ぶ
ジェームス C.リード著/蜂屋順一,土井修 編著

《書 評》中田 肇(産業医大教授・放射線科学)

CT所見も適宜導入

 本書は現在ケンタッキー大学放射線診断学教授であるJames C.Reedの“Chest Radiology : Plain film patterns and differential diagnosis”第4版の翻訳書である。杏林大学医学部放射線科の蜂屋順一教授,聖路加国際病院放射線科の土井修部長のお2人が監修に当たったもので,実際の訳は蜂屋氏以下,胸部の画像診断に実際に携わっている診断医8名が3章ずつ分担している。
 第1章の序説に続き胸壁病変など23種類の病変を取り上げており全24章,480頁より成る。いずれの病変も単純X線所見を中心に示し,問題,鑑別診断などのチャート,解説,診断のポイント,症例写真,解答と続いている。現在では胸部領域の診断に不可欠な検査となっているCT所見も適宜に挿入され,時にはMRI所見も含まれている。私の手元にある1981年に出版された第1版当時の単純X線所見だけであった内容との移り変わりに感慨深いものがある。
 各章の解説に取り上げられている重要な疾患についての記述は,簡潔で非常に理解しやすくup dateなものになっている。いたずらに文章を長くしないために重要な参考文献が豊富につけ加えてあるのは親切であり有用である。本書はReed教授お1人の記述であり,しかも15年以上にわたって改訂を重ねてきた著書であることが大きな長所である。多忙な中にあってこのような作業を続けていくことは大変なことと思うが,それだけのよさが随所に見られるテキストブックである。全体のバランスがよく記述が一貫している点で高く評価される。まさに胸部画像診断の超講義と呼ぶにふさわしいと思う。

日本の現状に合わせた配慮も

 翻訳書には時に直訳が多く原書で読んだほうが理解しやすいこともある。しかし蜂屋,土井両氏のチェックが厳しくなされているお陰で,opacityの訳に見られるように本書は,わが国での正しい用語に合わせるような配慮がなされていて,非常に読みやすいものとなっている。症例によっては最初に掲げてある症例の写真の頁に問題が合わせて呈示されていない不便さがあるが,訳者の責任ではないし全体の構成を損なうものではない。
 本書はこれから胸部画像診断を学ぼうとする医師をはじめ,すでにある程度の知識と経験のある者にも非常に有用な教科書としてすすめられる。
B5・頁480 定価(本体10,000円+税) 医学書院MYW


診察室,ベッドサイドですぐに役立つ

新臨床内科学コンパクト版 第2版 高久史麿,尾形悦郎 監修

《書 評》井廻道夫(自治医大教授・肝臓病態学)

最新の診断・治療の情報を随所に

 高久史麿・尾形悦郎監修,和田攻・橋本信也編集の『新臨床内科学コンパクト版』第2版は親本の『新臨床内科学』の単なる縮刷版ではなく,新臨床内科学の内容に加えて,最新の診断,治療の情報を随所に取り入れ,自由に持ち歩けるポケット版として編集してある。サイズ,重さも手頃である。診察室,ベッドサイドですぐ参照でき,役立つように,親本の各項目の要点が手頃な長さにまとめられており,鑑別診断表や診断の一覧表が新たに加えられているのもこのコンパクト版の特徴である。
 単に文字を小さくしただけで,内容は親本と全く同じで,かえって見にくく,使いにくいコンパクト版もあるが,本書は先に述べた「診察室,ベッドサイドですぐ役立つように」というフィロソフィーに基づき編集されているため,コンパクト版として非常に使いやすいのが特徴である。診断・治療ともに要点が簡略に記述してあり,読みやすく,必要な個所を探しだすのも簡単で,知りたいことを素早く知ることができ,時間が十分ないときに使用するのにも適している。一部に概略的に書かれている項目もあるが,多くの項目は実用的に書かれており,診断を進める上でも,治療を進める上でも非常に参考になる。改めて他の書物を見直す必要はほとんどない。
 内科学のカバーする情報量は膨大であり,疾患概念にしろ,診断にしろ,治療法にしろ,すべてを記憶することは不可能であり,患者を診察しながら内科の本を参照したくなることはたびたびであるが,診察の場に携帯でき,十分な内容を有する本はほとんどない。本書はこのような目的に合致した便利な携帯本である。
四六判・頁720 定価(本体6,800円+税) 医学書院


臨床検査技師を志す学生に

臨床検査技術学(9) 臨床検査総論・放射性同位元素検査技術学 第2版
菅野剛史,松田信義 編集

《書 評》福永仁夫(川崎医大教授・放射線医学〔核医学〕)

 臨床検査技術学9巻が基礎および臨床の進歩に合わせて約3年ぶりに改訂された。評者の専門分野である放射性同位元素検査技術学について書評する。
 放射性同位元素検査技術学は6項目(物理,測定機器,放射性医薬品,試料計測,体外計測と放射線管理)の約70頁からなる。臨床検査技師にとり重要な項目である試料計測には約20頁と比較的多く当てられている。

学生の興味を抱かせ,理解させる

 本書が臨床検査の学生の教材として用いられる場合,放射性同位元素検査技術学にいかに興味を抱き,理解し,応用できるかについて,いくつかの工夫が施されている。たとえば,必要最小限度の知識が簡明に要領よく記載され,さらに,各項目ごとに最初にキーワードと学習の要点,最後に理解度の点検と問題が設けられている。つまり,学習の目的と目標が明確に設定され,しかも適切なキーワードや要点が選定されているため,講義前に予習,講義後には復習を行なうと自ずと知識が身につくようになっている。これは著者である村中明博士が,長年の放射性同位元素検査技術学の教育に携われた経験の成果であろうと思われる。
 放射性同位元素の物理の項目は,できるだけ平易に,しかし要点は漏らさずに記載されている。核医学は,医学,薬学,理工学と放射線あるいは臨床検査技師が協同して行なうきわめて学際的な学問である。測定機器の開発は理工学者が担うが,学生は実際に測定機器を自分で操作し,体験するのが最も効率的であるが,その基礎的知識を本書から得ることができる。in vivo核医学の進歩は,薬学者が作り出す放射性医薬品の開発に依存する。in vivo核医学では,細胞,組織,臓器の機能が画像化されるため,従来の画像診断法では把握できなかった情報を得ることができる。
 例えば,血流や代謝の変化を「目で見る」ことができる。「百聞は一見にしかず」という諺のごとく,実際に自分で病変部位を見ることほど印象深いものはない。さらに癌の治療にもRIは使用されている。本書の体外計測の項では,日常診療でのin vivo核医学の概要が紹介されている。絶えず,集積機序や病態生理を考えながら本書が読まれることが望まれる。

安全管理の考え方を呈示する

 試料計測の項では,放射測定法の中心であるRIAの測定原理,成立条件とB/F分離法について詳細に記載されている。著者の1人である為近美栄氏は,臨床検査技師として試料計測を永年にわたり従事し,in vitro核医学技術の日本のリーダーである。その豊富な経験からの執筆は大変説得力がある。放射性同位元素を用いた研究と臨床は人類に多くの利益を与えたが,一方,汚染や術者の被曝を伴う。そのため,いかに厳密に管理し防護するかが重要である。本書では,現在国内法令への取り入れが検討されている放射線防護に関する国際放射線防護委員会(ICRP)からの新しい勧告も記載されており,安全管理の国際的な考え方を紹介している。
 本書の放射性同位元素検査技術学は,学ぶ人の立場になって記載されており,内容も過不足なく,基本的な事項のみならず,応用や将来展望などをも考えさせる体裁になっている。また,読みやすく,理解しやすいように努力されているのが伝わってくるので,臨床検査技師を志す学生には好著であると思われる。
B5・頁218 定価(本体3,400円+税) 医学書院


難解なMRIをわかりやすく解説

図解 原理からわかるMRI M.NessAiver 著/押尾晃一,百島祐貴 訳

《書 評》片田和廣(藤田保衛大衛生学部教授・診療放射線技術学)

MRIが難解なわけ

 MRIが現在の画像診断法で占める役割の大きさについて,異論を唱えるものはいないであろう。その重要性はまさに年毎に高まっていると言ってよい。一方で,大部分の医療関係者あるいは学生にとって,MRIを理解することは決して容易ではない。その理由の1つは,MRIの原理自体が,100年を越える歴史を持つX線に比して臨床医療の場においてなじみが薄かったことである。すなわち,MRIを学ぶことは,われわれにとってまったく新しい世界を学ぶことなのである。さらに学習の過程において現れる数式や物理知識が,MRIを一層疎遠なものとしている。

実際の講義資料を基にした簡潔な記載

 本書は,この難解と思われているMRIを可能な限りわかりやすく解説することを目的として記された教科書である。もちろん,この分野では従来多くの入門書が出されており,それぞれに多くの優れた点を持っている。本書がこれら類書と大きく異なるのは,著者自身がMRIについて教鞭をとる過程で書きためた講義資料がもととなっている点である。このため,各ページの左側に図(OHPシート),右側にノートを対比させ,項目ごとに簡潔に記載するという形式をとっている。人に教える場合には,教員自身がまずその事象について理解している必要がある。本書を一読して気づくのは,著者自身がMRIを理解しようとして努めてきた足跡がこのノートから伺えることである。本書の69の項目は,その1つひとつが,著者自身の疑問をきっかけに,十分な考証と推敲を経て記されている。すなわち,MRIを学ぶ者がどこで迷い,どこで行き詰まるかを十分に把握した上で書かれている。この点こそが,本書を他書から際立たせる点であろう。
 いまひとつ気づくのは,本書の根底に流れるMRIに対する著者の深い思いである。院生のときに,「まるで誰かが頭の中身を見ようとしてナイフで真っ二つにしたよう」なMRI正中矢状断を目にして以来,それを作り出す「物理学の理論の集積」に魅せられ,それを解き明かすことを自ら楽しみながら,この書が書かれたように思えてならない。
 本書では,訳者があとがきで指摘しているように,実際にMRI画像を作成する「画像法」をも広くカバーされている。しかも従来の教科書では避けられたり,あいまいだった事項についても,わかりやすく記載されている。これは,著者が複数のMRI装置のメーカーの技術者として働いた経験を有することを考えれば,決して不思議なことではない。結果としてわれわれは,類書では得られない画像法についての的確な説明を本書から得ることができる。

MRIを知り尽くした訳者による的確な翻訳

 訳者の押尾晃一氏は,若くしてハーバード大学の助教授を務められ,MRIの新しいシーケンスGRASEの考案者として知られる。また,百島祐貴氏は,神経放射線領域におけるMRI診断の俊英である。両氏ともまた,樋口順也氏が発明し現在世界的に標準の撮像法となった高速スピンエコー法を世に出した慶應義塾大学のチームの一員に属している。このようなMRIの裏・表を知り尽くした専門家が翻訳にあたったため,この種の書にときに見られる内容の消化不良がまったくなく,日本語としてもよくこなれた文章構成となっている。
 訳者あとがきにあるごとく,本書は他の参考書がなくとも,本書単独で学習が可能な“自習書”として作られている。各項目ごとに余白が設定され,読者が自由に書き込めるように工夫されていることも,自習書としての本書の特徴を示す部分である。
 本書を使用するにあたっては,いくつか留意すべき点がある。最初に記したように,本書の記載は簡潔を旨としており,記載の重複も可能な限り避けられている。また,本書の各項目は,鎖の環のように連環している。したがって,初学者の場合,目的とする項目を単独で参照したのでは理解がかなわないおそれがある。最初から順を追って学習するか,あるいは少なくともその章の最初に戻って読み解くほうがよいと思われる。
 また本書は,MRIに必要な物理学がわかりやすく書かれているが,決して物理学の理論を“迂回”しているわけではない。したがって最初から「物理に関するものは見るのもいや」という,“物理アレルギー”の人を対象にはしていない。むしろこのような“アレルギー”を脱感作したいと思う人に最適の書と考えられる。
A4変・頁158 定価(本体4,000円+税) 医学書院