医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


消化管エコーのパイオニアの手になる好著

消化管エコーの診かた・考えかた 湯浅 肇,井出 満 著

《書 評》秋本 伸(横浜総合病院)

 消化器領域の臨床で超音波検査が必須のものになったことは誰も異論のないところであろう。しかし,こと消化管については今日必要性,有用性いずれについても認知されているとは言い難い。この点は著者自身が本書の序に記している通りである。かつて消化管の超音波診断(たとえば潰瘍の超音波所見の検討といったようなもの)については診断機器の精度の問題もあり,学会レベルでも厳しい評価がなされることが一般的であった。かくいう私も正直なところ,消化管に対してはごく限られた疾患以外役に立たないと考えた時期がある。著者がその当時から一貫して超音波による消化管診断の可能性について主張し続けてきたことは注目すべきであり,パイオニアといっても過言ではなかろう。今日多くの消化管疾患にとって超音波検査が役立つことは本書に示された通りで,私も現在は消化管の日常診療で超音波を大いに活用している。

豊富な経験症例を提示

 著者らのこの領域での先駆者としての自信のほどは,豊富な経験症例の呈示にも見てとれる。胃十二指腸潰瘍,回腸炎,大腸炎,虫垂炎,消化管腫瘍,ヘルニア,腸閉塞,その他さまざまな典型的超音波所見が示されている。しかし著者の自信は,なによりも消化管超音波診断法についての主義主張が明確で説明に迷いがない点に最もよく現れている。
 解説,説明文は具体的でわかりやすい。随所に置かれた「コーヒーブレイク」は初学者にも役立つ親切なアドバイスであるが,ここにも著者の独特な語り口とともに明確な立場が示されており興味深い。
 図にはすべて丁寧でわかりやすいシェーマがつけられており,読者には大変ありがたい。ただ図(写真)が部分的で小さいきらいがあり,この点はやや初心者には理解しにくいのではないかと懸念される。

検査のポイントと考え方を解説

 「症例から学ぶ」の項では,多岐にわたる疾患について1頁ないし見開き2頁で,要領よく検査のポイントと考え方の解説が行なわれている。経験豊富な検者にも大変参考になろう。ここでは他の診断法,例えばX線検査や内視鏡検査,病理所見との対比もほしいところであるが,コンパクトにまとめるということからすれば無理な注文か。
 超音波診断に関しては数多く書物が巷にあふれているが,独自の領域で思う存分に筆をふるったものはそれほど多くはない。その意味から本書は著者のこの領域に対する思い入れを感じさせる好著といえよう。
B5・頁202 定価(本体5,500円+税) 医学書院


難解なMRIの物理をわかりやすく解説

図解 原理からわかるMRI M.NessAiver 著/押尾晃一,百島祐貴 訳

《書 評》渡部恒也(埼玉医大助教授・放射線医学)

難解な原理を理解する

 磁気共鳴画像に関する撮像の仕組みや原理を理解することは難しいとよく言われる。感覚的には自分で理解できたようでも,いざ人に説明する段になるとなかなか思うような説明ができず,歯がゆい思いをすることもめずらしくない。
 確かに磁気共鳴画像を理解することは容易ではない。容易ではないからこそ,これまでにも国内外を問わず平易を装ったさまざまな磁気共鳴画像入門用の本(あえて教科書とは言わないが)が出版されてきた。図解を超え,漫画による絵解きまでも導入し,いかに磁気共鳴画像をやさしく理解させるかと涙ぐましい努力をしているものもあり,それなりの評価を得ていることも事実である。これらの本のおかげで磁気共鳴画像に対する食わず嫌いは減少したかのように見えるが,残念ながら,磁気共鳴画像の原理は難しいという一般の認識にそれほど大きな変化が起きているとは思えない。
 本書の序文で著者が自ら述べているように,「理解しにくいものをごまかさずにわかりやすく説明するにはどうしたらいいのか」という点から本書は出発している。著者自身はPh.D.であり,もともとは磁気共鳴の現場に携わる技師や放射線科のレジデントを対象としたMR入門講座のコースのために準備された資料をもとに書かれたものである。

自分で学べるテキスト

 また著者が述べているように,この教科書は自習用である。磁気共鳴画像の理解に必要な予備知識の習得から出発し,章を重ねるごとにその内容はさらに上級の課題へと段階的に発展していく。それぞれの項目は磁気共鳴でよく使われる用語の簡潔な説明という形式をとっているが,流れには脈絡があり,最終的には磁気共鳴撮像全般についての知識が無理なく習得できるようになっている。一般の人には理解困難とさえ思われている,いわゆるk空間の説明も理解しやすく無理がない。
 本書のもう1つの特徴は,いわゆる入門書と異なり,磁気共鳴画像の仕組みを教える側にとっても優れた教材となることであろう。むしろ,どういう説明の仕方をすれば無理なく教えることができるかということを学ぶ意味では,この分野における自称,他称の専門家の方たちにもぜひ読んでいただきたい1冊である。

MRI物理についての心得すべて

 最後に,磁気共鳴画像ではさまざまな専門用語が使われている。翻訳において重要なことは,原語でも理解の困難なこれらの用語や,それを説明する文章の行間までも見通し,適切な翻訳を介して読者の理解を助けてあげることである。幸い本書の翻訳に関わられた押尾,百島の両先生はともに磁気共鳴撮像の分野において常に先端を切る立場で国際的に活躍されており,このような内容の本を自ら書き下ろすだけの知識と能力を兼ね備えた方々である。直訳すれば,「MRIの物理についての心得のすべて」ということになる原題を簡明に表した「原理からわかるMRI」という邦文タイトルにも,この教科書の特徴がよく伝えられている。よい翻訳はその内容に精通した者によってのみ可能であるが,本書は図らずもこれを証明した,読みやすい翻訳書となっている。
A4変・頁158 定価(本体4,000円+税) 医学書院


胸部疾患のCT診断はこの1冊でマスター

胸部のCT 池添潤平,村田喜代史 編著

《書 評》河野通雄(前神戸大教授・放射線科/現兵庫県立成人病センター院長)

 池添潤平愛媛大学医学部教授,村田喜代史滋賀医科大学助教授の編著になる『胸部のCT』が出版された。両先生とも,私の古くからの知人であり,ほぼ同じ領域の画像診断を専門としている関係で私の教室員ともども交流させていただいている。今から約16年前の1982年に『胸部CTの読み方』を医学書院から出版し,1997年に第3版を出したばかりだが,その編著者の筆者が書評を書くことになったのは,いささか皮肉ともとれ,池添,村田の両先生から「それみたか」と言わんばかりに,この本を突きつけられた思いである。
 とはいうものの,本書には私どもの教室員も執筆者として参画させていただいていることと,両編著者のユーモアも十分くみとることができ,敢えて若干の感想を述べて書評に代えたい。

最新の手技や読影技術を網羅

 執筆者はいずれも第一線で活躍中の新進気鋭の放射線科医であり,最新の手技や読影技術が網羅されている。特に画像と病理像との対比は診断の基礎となるが,病理標本作製法についても詳述されており,これから勉強しようとする人にはよい参考となる。正常解剖もイラスト入りでわかりやすく解説されている。
 本書の全体の流れは,疾患別に記述されているが,所見から疾患を考えるといった成書も多い。すなわち,総論的に画像所見から考えられる疾患をまとめ,次の各論として,疾患別または部位別の各々の所見を分析するといったやりかたもあろうと思われる。本書では原則として疾患別または部位別に記述されているが,診断へのアプローチなど総論的な内容もミックスされている。このことは分担執筆のため止むを得ないことと思うが,むしろ読者にとっては便利であろう。
 疾患別では腫瘍と感染症・びまん性肺疾患は編者の得意の領域であり,詳述されている。びまん性肺疾患を理解するために肺の微細構造,特に高分解能CTで観察される二次小葉レベルの形態を十分に把握することが重要で,詳細に記載されている。一般的にびまん性肺疾患診断は,取っ付きにくいという観念が持たれがちであるが,イラスト等を駆使して読者が自然に入り込めるように配慮されている。

心臓大血管系異常も含んだ記述

 小児を中心に,先天性異常や心臓大血管系異常についても記述がある。胸部疾患は肺,縦隔,胸膜,胸壁,横隔膜,は含まれるが,心臓大血管については記載しないとする成書が多い。しかし本書には呼吸器疾患を取り扱う医師も知っておくべき心臓大血管系異常も含まれており,ここにも編者のフィロソフィーが感じられる。
 胸部疾患のCT診断はこの1冊でマスターできるといっても過言ではない。学生,研修医,放射線科医をはじめ,呼吸器内科,呼吸器外科医に格好の参考書である。
 画像はCTのソフト,ハードの進歩により,年々向上しているので,陳腐化しないように配慮されることを願っている。
B5・頁500 定価(本体14,000円+税) 医学書院 MYW


予防医学の基本となる考え方を提示

予防医学のストラテジー 生活習慣病対策と健康増進
G.Rose 著/曽田研二,田中平三 監訳

《書 評》村井千賀(石川県南加賀保健所作業療法士・主任技師)

 老人保健法が施行され,市町村が実施する機能訓練事業の効果的支援を目的に保健所に作業療法士が配置され,10年が過ぎました。公衆衛生の分野に飛び込み,「木を見て,森を見ず」ではいけないと言われ続け,公衆衛生って何?保健活動とどう違うの?という素朴な疑問を今日まで持ち続けています。

1次予防の重要性を説く

 本書はこの疑問に対し,明快に応えてくれました。機能訓練事業の参加者は,発病して間もない者ほど健康への関心も高く,自分の病気や障害についての情報交換を好みます。その間に多くの情報を提供することにより,今まで吸っていたタバコを止めて減塩に気をつけ,今までのリスクある生活様式を改めて再発と寝たきり防止に気をつけようとします。単なる高血圧と言われ脳卒中既往のない人より,生活習慣の改善がうまくいくのです。
 これは本書によるハイリスク・ストラテジーの1つであり,本書はそのストラテジー,つまり戦略の長所短所をわかりやすく紹介しています。また,今日提唱さている寝たきりゼロ十か条はポピュレーション・ストラテジーの1つであり,より広く住民に寝たきりのメカニズムを紹介し,知らないことによりつくられる寝たきりを防ごうという教育的戦略です。このように本書では,公衆衛生には,木も見て,森も見る,2次予防的考え方であるハイリスク・ストラテジーとともに,1次予防的考え方であるポピュレーション・ストラテジーが重要であることを説いています。

個々に応じた健康対策の戦略

 平成9年度の地域保健法の施行により,公衆衛生行政は従来の国民生活全体の健康を守るための感染症対策に見られるような行政権限のある活動の他に,住民個々のニーズに応じた多様な健康対策を提供するとされました。そのことにより,いかに迅速に優先とされる住民の健康課題を把握し,その解決に向け個人を尊重しつつ,効果・効率的戦略を展開するかが要求されることとなりました。本書は,戦略(ストラテジー)を健康問題別に,問題の捉え方をはじめ,個別レベルの取り組みから集団全体の健康意識を高め変化させる方法をわかりやすく解説しています。
 今後は,高齢化社会の到来に伴い,視力の低下や身体機能の低下による生活障害が増加し,寝たきりや痴呆などの2次障害の予防医学,障害者の自立をはじめとする健康増進,環境整備や生活スタイルの改善方法について,研究や行政,地域保健活動の展開がますます求められるものと考えられます。ぜひ本書を一読していただき,これからの新しい分野開発の示唆を得,作業療法士が医療に貢献するだけではなく,公衆衛生・社会福祉にも貢献する職種として活動を展開していっていただければと考えます。
A5・頁170 定価(本体2,900円+税) 医学書院


最新かつ標準的な心臓病の教科書

Hurst's The Heart Arteries and Veins 第9版
R.W.Alexander,他

《書 評》井上 博(富山医薬大教授・内科学)

分子生物学の記述も倍増

 Braunwaldの“Heart Disease”と並ぶ心臓病の代表的な教科書である『Hurst's The Heart』が4年ぶりに改訂されて第9版となった。編集は従来の5名に新たにV.Fuster教授が加わっている。第8版(1994年)に比べ,総頁数は約130頁増えて2600頁余りとなったほか,図表が2色刷りとなって見やすくなっている。章立ても大幅に変更され,8版では「症状(Symptoms)」が独立した章となっていたが,新版では「General evaluation」の章に含まれている。また諸検査もそれぞれ独立した章立てになっていたものがすべてここに含まれ,すっきりした形になった。
 昨今の分子生物学,遺伝子工学の進歩を反映して,新たに「心血管疾患の遺伝子治療」が独立した章として追加されており,また分子生物学に関する章も頁数が倍増した。71枚あるカラー図版も変更が加えられており,ことにカラードップラー心エコー図は大きくなり見やすくなった。カラー図版の最初を飾っているのは田原先生の刺激伝導系(左脚)のスケッチであり,日本人として誇りに思う。
 Hurstの教科書には,本邦の心臓病の教科書と比べて際だった特色がいくつかあげられる。まず第1章に「合衆国における各種心疾患の罹患率,死亡率」がまとめられている。旧版では第8章に置かれていたものである。この種のまとまった記載は残念ながら本邦の教科書にはみられない。ただし,これはあくまでも合衆国の成績である。
 2番目の特色は,冠動脈疾患に多くの頁(500頁余り,全体の約1/5)を割いていることである。これは合衆国の心疾患の特色を反映しているものと思われる。また最近は高脂血症に対する治療によって心臓死を含んだ心事故が抑制されることがいくつかの大規模試験(4S,WOSなど)で明らかにされている。これに関する記載(「脂質代謝異常の評価と管理」)が大幅に改訂され,頁数も3倍となっており,大いに参考になる。

心疾患治療の費用と効果の関係についても言及

 3番目の特色は,心疾患の治療に対する費用と効果の関係(Cost-Effective Strategies)が独立した章として追加されていることである。ここでは費用効果分析や費用効用分析の結果が各種心疾患についてまとめられている。例えば,冠動脈疾患のうち左冠動脈の主幹部病変の例に対するバイパス術は費用と効果のバランスの面から見ると大変有用な治療法であるのに対して,2枝病変で狭心症の程度も軽い場合にはバイパス術は有用性が低いことがわかる。
 米国のみならず本邦においても医療費の高騰は深刻な問題である。この問題への対応の1つがこのような費用効果分析であるが,残念ながら本邦ではこの種の成績が欠けている。医療費の内容は合衆国と本邦と異なる点が多いが,治療方針を決める上で「経済的な効率」という観点も不可欠な時代になろうとしている今日,是非この章は読んでいただきたい。
 米国の教科書を使用する際には,疾病構造と薬剤の投与量に関して彼我に差のあることに注意が必要である。わが国の常用量の2倍以上の量が常用量として記載してある薬剤もあり,投与量についてはわが国の情報を参考にする必要がある。
 最新かつ標準的な心臓病の教科書として,循環器の専門家ばかりでなく循環器に興味のある方々にお薦めする。
頁2602,1998年,\24,650(in 2 vols),\22,100(singlenvol),McGraw-Hill,lnc.,New York,日本総代理店 医学書院洋書部


臨床化学の基本的な性格を理解するために

臨床検査技術学 臨床化学 第2版 菅野剛史,松田信義 編集

《書 評》屋形 稔(新潟大名誉教授)

 本著の第1版が刊行され愛用されるようになってから3年目で早くも第2版として衣替えして出版された。従来は総論と各論を分冊にしていたものを1冊にまとめてある。臨床検査技術学の総編者の1人である菅野剛史浜松医大教授が自らも執筆にあたり,実践面でのベテランである仁科甫啓,安部彰両氏が共同執筆者となっている。一読してこの方々のただならぬ力の入れ方がうかがえる著書である。

臨床化学をいかに臨床に役立てるか

 臨床化学は検査の技術面から見ると早くから構築が進められてきた領域であり,実際臨床検査全体に占める割合も最も大きなものとして進歩してきた。しかし医学全体の中で占める位置となると把握に困難な性格も内在しており,従来かかる問題点をふまえた上での適正な教科書がなかなか見出だし難い点があった。それは本学問をいかに考えるかで意見が分かれたり,理解が多面的な面があるからである。
 基礎的,臨床的に進歩し変貌しつつある現代医学の中で,臨床化学の位置づけはかなり困難な性格を有している。日本臨床化学会の内部でも「臨床化学よ目的を定めよ」などといった基本的な議論が噴出するゆえんでもある。菅野教授は永年にわたりわが国の臨床化学の構築に努めてきた方で,現在本学会の会長もつとめている。本書はその点で上述の難問に対してかなり咀嚼された記述が用意されているのが強味となっている。検査技術学としての実学とともに,いかに臨床に役立てるかの道筋が平易に述べられている。
 したがって本書は幅広く臨床化学全般をカバーする内容であるが,次に簡単に2,3の特色をあげてみる。
 前半を総論と各論に分けてこれを一体として理論と根拠を明確にしている。後半を実習に割いて,両者を併せてタテ糸ヨコ糸が繋がるように配慮している。
 初版に比して図表が多く使用され,理解を助けるべく用意されている。
 多くの新しい検査,知りたい検査が含まれている。例えば1,5AG,ドライケミストリーの原理,超微量分析,ROC曲線,自動分析器の構造,等々である。
 さらに実習編では手技のコツ,トラブル対策などにも触れられている。巻末にはSI単位(Systeme International d'Units)の詳しい叙述がみられ,基準範囲,蛋白の分子量など詳細な表もあり,これらは臨床化学の辞書代りとしても役立つものである。

新しい知識をコンパクトに

 なお,本書は臨床化学の基本的な性格が理解されるよう工夫されており,検査技師および技師学生の技術書として,また医師や医学生の臨床化学学習書として適切な内容を有するものである。座右の書としても,またソフトカバーなので携帯用にも便利である。現時点での新しい知識がコンパクトに整理記載された好著というべきであろう。
 今後の課題としては,テレビやビデオゲームで育っている若い世代に対して,もっと短い記述やわかりやすい図表,カラー表現などがどこまで導入できるかということがあろう。
B5・頁316 定価(本体6,000円+税) 医学書院