医学界新聞

第1回在宅血液透析研究会開催


 在宅血液透析は今春の診療報酬改定で新たに保険収載となった項目の1つで,透析患者がわが国ではすでに16万人を超え,医療財政上も大きな圧迫要因であることから今後の展開が注目されている。そのような折り,さる4月19日第1回在宅血液透析研究会が前田憲志会長(名大教授・在宅管理医療部)のもとで,東京のシェーンバッハ砂防において約500人の参加者を集め開催された。
 会議では,冒頭前田会長から,保険適応となった経緯を踏まえ,1969年の家庭透析施行第1例以後,わが国の家庭透析が関係者の努力によって途切れることなく続いてきた実態が指摘された。また今後在宅血液透析が普及するためには,どのような問題があるかを施設へのアンケート調査結果から分析し,示唆に富む報告がなされた。次いで,フランス(J.Chanliau氏)と米国(C.M.Kjellstrand氏)での在宅血液透析の現状が紹介された。
 その後一般演題(司会=甲南病院 内藤秀宗氏)に移り,(1)在宅透析における教育訓練システム(新生会在宅透析室 佐々木しのぶ氏),(2)血液回路よりの直接の自動血圧測定の開発について(高宮病院 高宮登美氏),(3)在宅透析へのPush/Pull HDFの導入の可能性(名大 新里高弘氏),(4)在宅血液透析のための個人用水処理システム(北九州ネフロクリニック 金 成泰氏)の4題が発表された。
 引き続いて行なわれたパネルディスカッション「日本における在宅透析の発展には」(司会=東海大 黒川清氏,慈恵医大 川口良人氏)では,(1)新生会における在宅透析の実際(新生会第一病院 小川洋史氏),(2)欧米における在宅透析(東海大 斎藤明氏),(3)本邦の在宅医療の中の在宅透析(前田憲志氏),(4)在宅透析のための施設基準(自治医大 浅野泰氏),(5)在宅透析関連機器の現状(昭和大藤が丘病院 秋澤忠男氏),(6)この度の在宅血液透析保険適用の解釈(増子記念病院 山崎親雄氏)の6氏が報告して熱心な討議が展開された。
 特に西暦2000年4月から導入が確定している介護保険は,医療における介護的要因を介護保険に振り向けていこうというものであるが,透析医療は介護的側面がきわめて大きく,特別養護老人ホームなどに入っている老人が透析に移行した場合には,どのような扱いになるのか等をめぐって議論が沸騰した。
 また,夫が透析患者である場合の妻の精神的・物理的負担にも話題が集中。「自分は透析になったら在宅でやりたいが,わが家では無理だろう」という諧謔的な質問に会場から笑いが起こったが,この部分に何らの配慮もない今回の制度導入は,医療職の人件費を結局は家人の無償の行為に置き換えるだけではないか等の批判も出された。また一方,疑問や問題点はあるものの,今回保険適応となった点を評価し,在宅血液透析を単にcost‐downという視点からだけではなく,これを機にDaily Home Hemodialysisを含め,患者のQOLを高める方向で考えるべきだという建設的意見も数多く出された。
 最後に挨拶に立った副会長の黒川清氏は,近年の医療費削減を施策の基本とする厚生行政を厳しく批判。「よりよい在宅血液透析を発展させるためには,本研究会も国民を巻き込んだ,あるべき医療の姿を追求する運動を展開しなければならない」と強調し,会場から大きな共感を得ていた。なお,書籍展示では,新生会第一病院における長年の家庭透析の成果を,今回の保険適応に合わせていち早くまとめた『在宅血液透析ハンドブック-実技を中心にして』(医学書院刊)が展示され,大きな反響を呼んでいた。