医学界新聞

第1回日本看護診断学会研修会開催

クリティカルに考える基盤を培う


 さる3月15日,聖路加看護大学のアリス・セント・ジョンメモリアルホールにて,「看護の質の向上のために 正しく学ぼう看護診断」をテーマに第1回日本看護診断学会研修会が開催された。
 本研修会を主催する日本看護診断学会の研究推進委員会(委員長=千葉大学教授 草刈淳子氏)は昨年設置され,昨秋より活動を開始している。すでに,学術大会におけるアンケート調査に基づき,「頻回に使われている用語および概念が不明な用語等」について報告しているが,同アンケートには教育研修の要望が多数寄せられていたため,それに応えるべく研修会の準備を進めていた。看護診断はすでに多くの看護臨床の場で用いられているが,その基本的な考え方や基本的診断プロセスが十分に共有されるには至っていない。草刈氏は,「看護の質の向上が指摘される今日,改めて看護診断の歴史的発展とその目的,診断のプロセスなどを基本から学び直し,クリティカルに考える基盤を培うことは質のよい看護を提供する上で意義深い」と研修会の開催意図を述べた。
 当日は,全国から400人の看護婦が参加し,真剣な眼差しで研修に取り組んだ。


 午前中のプログラムには,江本愛子氏(三育学院短大教授)による「基本から学ぶ看護診断プロセス」と題した講義が組まれ,(1)看護診断の歴史的発展,(2)看護診断の概念,(3)看護診断カテゴリーの構成要素,(4)看護診断の種類と記述方法,(5)看護診断の視点とアセスメントの枠組み,(6)アセスメントと診断のプロセス,(7)診断することの意義,(8)看護計画,介入,評価,(9)診断プロセスに必要な能力,(10)看護過程とクリティカル・シンキング(批判的思考法)」について概説が行なわれた。

看護診断を行なうことの意義

 江本氏は,NANDA(北米看護診断学会)による「看護診断とは実在あるいは潜在する健康問題/ライフプロセスに対する個人,家族,地域の反応についての臨床判断である。看護診断は,看護婦が責任を負っている目標を達成するために看護介入の選択の基礎を提供する」という定義を紹介し,その考え方と方法論を具体例を交え解説。さらに,看護診断を行なうことの意義については「分析された診断ラベル(診断名)とさまざまな関連因子(影響を与える原因または寄与因子)を結合させることで,その人をまるごとみることができる。診断することによって『観察―実施』の間を根拠づけるようになる」をあげ,「多くの場合,看護ラベルからは目標(結果)を導き出せる」「多くの場合,関連因子から介入を導き出せる」とその特性を示し,「看護診断の記述において,診断文は看護介入の方向性を示していることが重要である」と指摘した。

看護診断プロセスを体験学習

 午後には「アセスメント-看護診断プロセス演習」(コーディネータ=東海大教授藤村龍子氏,日赤秋田短大教授 大島弓子氏)が行なわれた。参加者が演習を通して看護診断プロセスを体験しながら学べるように工夫された企画である。
 演習の進行は,(1)「脳梗塞患者の看護事例」VTR視聴,(2)直感的判断と推論的思考を活用してアセスメントを行なう,(3)ゴードンの機能的健康パターンを活用し情報を整理する,(4)類似した看護診断を鑑別しながら,患者の看護診断をリストアップする,(5)診断プロセスの妥当性を検討してみる,(6)最終的に記述した診断名とプロセスについて発表する,(7)コーディネータからのフィードバック,の順に行なわれ,個人ワークだけでなく,2人またはグループによる討議を行なった。なおその間,藤村氏,大島氏の他に6人のファシリテータが会場を回りながら参加者の演習を支援した。
 ファシリテータらの活躍もあり,多くのグループが診断名とプロセスをまとめ,発表を行なったが,グループごとに診断が異なる場面もあり,議論にも熱が入った。
 参加者たちは自らが行なう看護診断プロセスを複眼的に検証し,看護診断への認識を深める格好の機会となったようだ。