医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床現場の『広辞苑』

今日の診断指針 第4版 亀山正邦,他 編集

《書 評》上野幸久(川崎中央病院名誉院長)

得意領域以外の患者を診るときに

 約5年ぶりに『今日の診断指針』の改訂第4版が出版された。医学の進歩に伴い疾患分類がますます細分化し,検査法も従来は生化学的検査が主体であったのが,血清学的検査や画像診断が重要性を持つようになり,さらに遺伝子診断や分子医学的なものが実用化しつつあるのが現状である。そのため,かなりの経験を積んだ医師でも,自分の得意とする領域から多少とも外れた疾患の患者を診るとき,診断を固め,治療方針を決めるための診断の進め方(検査も含めて)に迷うことが少なくない。そのような場合の指針として役立つのが本書である。
 本書の構成としては,総論的な症候編と各論的な疾患編とに大別され,前者は患者がどのような疾患であるかのオリエンテーションをつけるためのチェックポイントが重点である。後者は確定診断への道筋が示されており,大よその診断がついている場合には直接該当項目を披見すればよい。症候編,疾患編ともにチャートや表が豊富に示され,鑑別診断を容易にするのに役立っている。

各分野の動向と今後の課題を提示

 また消化器,呼吸器等各分野の劈頭にその領域の動向と今後の課題が簡潔に述べてあるのも一読に値する。各疾患は診断のポイントから始まり,症状や検査所見の見かた,確定診断から鑑別のポイント,予後判定からワンポイント治療まで述べられており至れり尽くせりである。さらに内科的疾患ばかりでなく,皮膚科,眼科,耳鼻咽喉科など他科の主要疾患も網羅され,大学や大病院の医師ばかりでなく,開業医諸氏にとっても便利である。当院内科の中堅ならびに若手医師に聞いたところ,いずれも折に触れて本書を利用しているということであった。
 要するに本書はいわば国語辞典における『広辞苑』の如きものであり,座右に置いて,疑問のある症例を診た時はもとより,ありふれた疾患についても専門外であれば自己流の診断法に陥らないように,随時本書を活用されることをお奨めしたい。
デスク版 B5・頁2000 定価(本体23,000円+税)
ポケット版 B6・頁2000 定価(本体18,000円+税) 医学書院


ユニークかつ臨床にすぐ応用できる眼科書

緑内障の治療戦略 谷原秀信 著

《書 評》三嶋 弘(広島大教授・眼科学)

日常臨床の緑内障治療を実践的に

 ヨーロッパ,アメリカ,日本を含む先進諸国では,緑内障が糖尿病網膜症とならび2大失明原因である。1988,1989年の日本での緑内障疫学調査の結果から,現在,日本には約200万人の緑内障患者がいると推定されている。このうち治療を受けているのはたかだか20%前後と思われる。このため,眼科を含む医療関係者のみならず,一般社会でも,近年緑内障に対する関心が高まり,その重要性が認識されてきている。
 眼科診療機関でさまざまなタイプの緑内障に遭遇するチャンスが増えてきている。時として,緑内障の患者にどのように対応したらよいか困ることも多い。緑内障に関する本は数多いが,日常臨床で緑内障治療を実践的に記載してある成書は数少ない。谷原秀信氏著の『緑内障の治療戦略』はそのような目的に最適な,ユニークかつ,すぐ臨床応用できる成書の1つである。
 著者は序の中で,「刻々と変貌しつつある臨床医学の中で,限られた情報から取拾選択して臨床の現場にフィードバックしなければならない。できるだけ平易で実際的に緑内障戦略のあり方と行く末を本書に記載した。また,進歩していく眼科学と,著者の経験とともに進歩していく教科書である」と述べている。まさに,これから求められる緑内障の教科書は,こういうものであろう。

臨床の現場に容易にフィードバック

 本書は「I.総論」,「II.薬物治療戦略」,「III.レーザー治療戦略」,「IV.手術治療戦略」の4篇からなる。いずれの篇を見ても,しっかりとした論理的な組み立てがしてある。特筆すべきは,ふんだんに模式図,わかりやすい表が使用してある点である。読者がどの項目を読んでも,従来の緑内障の知識がさらにスッキリと整理されるであろう。また,臨床の現場に容易にフィードバックできるように,さまざまな工夫がこらしてある。所々にはめこんである「ワンポイントアドバイス」も読者には大いに参考になろう。もし,この本にあえて望むとしたら,主要な文献の引用,参照を示してもらうと,読者は大いに助かるであろう。
 著者の谷原秀信氏は,眼科臨床と眼科基礎研究のいずれにも秀でており,国内のみならず国際的にも活躍の目覚ましい若手眼科医の1人である。読者は本書を読めば,谷原氏の眼科学への,中でも緑内障治療と研究への情熱のほとばしりがひしひしと感じられよう。加えて,今後の眼科研究がどのように眼科臨床に関わっていくのかが理解できよう。
B5・頁152 定価(本体7,500円+税) 医学書院


最も正統的な皮膚科学の教科書

標準皮膚科学 第5版 池田重雄,他 編集

《書 評》塩原哲夫(杏林大教授・皮膚科学)

現在考えられる最高のレベル

 本書は1983年に初版が発行されて以来,3-4年ごとに大幅な改訂が繰り返され,今では最も正統的な皮膚科学の教科書として広く認知されている。正統というと何となく無味乾燥なイメージを持ちがちであるが,本書をまず手にとったときの第一印象は,角のとれたデザインからも連想される「親しみやすさ」である。そして本書の内容を子細に見てみると,その親しみやすい外観からは想像できないきめ細やかさに少なからず驚かされる。
 本書のような教科書はその対象が医学生,研修医,一般医と幅広いため,その各々の欲求を100%満たすのは不可能であるが,少なくとも本書は現在考えうる最高のレベルでその欲求を満たしているように感じられる。まず読者に興味を持たせるための概説(執筆者の個性がよく出ているものは大変おもしろく読める)があり,続いてこれだけは覚えておきたいポイントが各項目の最初に整理して述べられているのも初心者にとってはありがたい。そしてもっと詳しく知りたい皮膚科研修医や一般医には参考文献がついている本文は大いに役立つに違いない。

充実した「診断のポイント」

 それにも増して本書で最もアトラクティブなのは「主訴・主症状からみた診断のポイント」の項目である。初め各疾患の記述のところを一読したとき,なぜ鑑別診断の項目がないのか不思議に思ったのだが,この「診断のポイント」の項の充実ぶりをみて,これならそれは必要ないと大いに納得してしまった。実にポイントをとらえた簡潔明瞭な鑑別診断の表には参照頁までついており,研修医や一般医はこのライトブルーの頁だけを切り取って絶えずポケットにしのばせて置きたいと思うのではないだろうか。この表に対応させたカラーの臨床写真でもあればという思いも頭をよぎったが,これはない物ねだりになるかもしれない。
 次に本書で驚いたのは索引の充実ぶりである。実際教科書を使うときには索引から自分に必要な部分を探し出す場合がほとんどなので,索引が充実していないとせっかくの本文の内容のよさが生かされないことになる。索引を作るという作業はきわめて地味で根気のいる仕事であり,それをここまで完璧に作られた編集の先生方をはじめとする関係者のご努力には本当に頭の下がる思いがする。「主要冠名疾患・症候群」や「略語一覧」なども本当に役立つものであるが,できればこれにも本文中の参考頁を入れていただけたらと思った。
 本書をこのように見てくると,第5版と改訂を重ねるごとに厚くなってくるのも,やむを得なかったのだという実感がわいてくる。筆者の学生時代のように最小の努力で最大の効果をあげたいと願う熱心とは言い難い医学生から,勉強意欲に燃えた皮膚科研修医,一般医まで幅広い用途にたえうるまさに「標準」皮膚科学書として広く推薦したい。
B5・頁620 定価(本体7,800円+税) 医学書院


豊富な経験に基づいたCABGテキスト

CABGテクニック 南淵明宏 著

《書 評》岡林 均(小倉記念病院・心臓血管外科主任部長)

 今回,南淵明宏氏が出版された『CABGテクニック』というタイトルの本を読ませていただく機会を得た。手術中の写真や冠動脈造影,挿し絵などが豊富に挿入されており,非常に読みやすく,3時間くらいで全部読み終えることができた。従来の手術のテクニックに関するテキストは一気に読み終えることはまず困難であるが,この本は他のテキストと異なり,著者の豊富な経験に基づいて書かれているため,教科書というよりもエッセイを読んでいるような感覚でおもしろく読ませていただいたからであろう。

若い外科医のなすべき当面の目標

 本書の特徴として,まず最初に若い心臓外科医が手術を始めるにあたって必要な心構えが書かれている点が特記すべきことである。本邦での心臓外科の歴史として,手術時間が長いことや心臓外科医のマナーの点で病院内では敬遠されることが多かったが,心臓外科手術はチーム医療であり,循環器内科医,麻酔科医や手術に関わるコメディカル全員の協力がなければ成り立たないことや,心臓外科医の奢りに対する戒めが巻頭に書かれている点は,従来のテキストにはみられないユニークな特徴である。
 また,冠動脈バイパス術において,若い心臓外科医がまず習得しなければならない各種グラフト採取の技術に関しても,国際的に通用するためには単に採取できればよいのではなくて,時間的要素も大事であり,15―20分で採取できるようにならなければならないことなど,具体的に述べられている点は若い外科医にとって自分がなすべき当面の目標となり,非常に参考になるものと思われる。
 著者が湘南鎌倉病院で手術を始められて間もない頃であったと思うが,私の病院を訪問されたことがある。それが著者と私の出会いである。その当時から動脈グラフトの積極的使用や冠動脈手術後のfast track recovery, warm heart surgeryを実践されており,欧米で行なわれている新しいシステムをいち早く取り入れ,成果をあげて来られた。本書にはその経験が集大成として,非常に懇切丁寧に書かれており,これから心臓外科医をめざす者だけでなく,現在第一線で活躍されている心臓外科医の先生方にとっても非常に有用と思われる情報がたくさん盛り込まれている。私も同じような経験をしてきたので,著者の意図が手に取るように理解でき,このようなテキストが出版され非常に嬉しく思っている。

失敗から得られた貴重な体験をもとに

 本書には,著者が手術に際し経験したことが正直に述べられていることも特筆すべき点である。著者も決して最初からすべてうまくいったわけではなく,失敗から得られた貴重な経験をもとにして,次のステップに進んできた経緯が述べられており,若い心臓外科医の道標となると思われる。
 忙しい日常の診療を行ないつつ,本書を書かれた著者のたゆまない努力と心臓外科に対する情熱に,心より敬意を表する。
B5・頁160 定価(本体9,000円+税) 医学書院


豊富な症例写真で画像診断の必須知識を整理

必修 骨軟部の画像診断 D. J. サートリス 著/大澤忠,片山仁 監訳

《書 評》宗近宏次(昭和大教授・放射線医学)

 このたび,D. J. サートリス著の“Musculoskeletal Imaging:The Requisites”が大澤忠(自治医大),片山仁(順大医学部)の両教授の監訳により『必修 骨軟部の画像診断』となって医学書院MYWから発売された。両教授は骨軟部の画像診断におけるわが国でのパイオニアで,しかも8名の訳者はこの分野でのエキスパートなだけあって,和訳用語の適切さには感心させられる。

まさに骨軟部画像診断の必修書

 本書は骨軟部疾患を病因別に8領域(8章)に分け,各章で,まずその疾患領域の画像診断に必要な基礎的知識について解説し,続いて,日常臨床で遭遇する頻度が高く,また重要と思われる疾患を取りあげ,それぞれ解説している。各疾患の解説では,骨軟部疾患の画像診断の実際で必要になる知識と診断技術の修得に重点がおかれ,要点がわかりやすく,しかも記憶するのに便利なように箇条書きになっている。重要な一般的疾患概念,必要な臨床知識,画像診断の重要な項目については,本文の中から反復して取りあげられて,NoteまたはBoxとして別に整理され,見やすく太字で書かれている。初心者には何が重要なのかがとてもわかりやすくなっている。さらに画像診断に必要と思われる基本的数値は表にまとめてある。本文中の事項のうち,実際の画像での説明が必要なものには,適時,実際の症例写真が解説付きで載せてある。それらは単純X線,MRI,シンチグラム,CT,USと広範囲にわたり,一般に,その疾患の画像診断で最も重要と思われるモダリティによる画像が中心に用いられ,写真の数も必要最小限に止められている。すべての領域で要点が簡潔に整理され,まとめられ,さらに重要な事項は反復して強調されているなど,まさに骨軟部画像診断の「必修」書である。

研修医の自習書として最適

 画像診断の思考過程は訓練によって上達する技術である。この技術の修得を想定して,基礎または臨床にこだわることなしに書かれたのが本書の特徴といえる。この点,本書は画像診断の自習書として用いるのに適している。研修医または放射線科レジデントが骨軟部疾患の画像診断でわからないことに遭遇したとき,本書の解説を読めば,疑問が解消されるに違いない。本書は和文と欧文の索引を含めて407頁で手ごろな厚さであるが,A4判なので「必携」書とはいえない。自分の書棚に持っていて必要なときに用いるか,画像診断のトレーニングを1度受けた研修医が,放射線科専門医試験などの前に要点を整理する目的で目を通すのに最適の書といえる。座右の書の1つに加えることを薦める。
A4変・頁424 定価(本体15,000円+税) 医学書院MYW