医学界新聞

第25回日本集中治療医学会開催

「患者の尊厳と治療の進歩」に焦点を当てる


 さる3月5-7日,第25回日本集中治療医学会が,窪田達也会長(自治医大教授)のもと,東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて開催された。
 5500名を擁する本学会では,医師部門,会員の1/3を占める看護部門や臨床工学技士部門と,職種ごとに分かれて発表が行なわれた他,各部会の合同開催によるシンポジウムなどが多数企画され,多くの参加者を集めた。中でも医師・看護部門合同シンポジウム「患者および患者家族から見たICUでの治療と看護」(司会=窪田氏,山口大 立石彰男氏,東女医大 山崎慶子氏)では,家族へのメンタルケアなどに加え,ICUでの死亡率が20%にのぼることから,演者の冨岡譲二氏(日医大多摩永山病院)は「ICUはターミナルケアの場でもある」とし,「ホスピスとは異なった『死の医学』の体系を模策すべき」と提言。それにリンクする形で,作家の柳田邦男氏による特別講演「集中治療におけるターミナルケアのあり方と提言」が行なわれた。


脳保護療法の基礎と臨床

 シンポジウム8「脳保護療法の基礎と臨床」(司会=山口大 前川剛志氏,日大 林成之氏)に先立ち,R. Bullock氏(バージニア大)がアメリカの脳保護療法の現状を概説。その後同氏を交えてシンポジウムが開始された。
 まず最初に片岡喜由氏(愛媛大)が,低体温療法の動物モデルでの成果とそのメカニズムや最近の知見を概説。続いて木下浩作氏(日大)は,脳低体温療法を施行した脳虚血患者を生存群と死亡群に分けて心拍出量,酸素飽和度,酸素運搬量などを測定,両群間では酸素運搬量の差が大きく,「患者管理上,酸素運搬量は800ml/分以上を確保することが重要」とし,重症脳損傷における本療法の有効性を明らかにした。
 次に相引眞幸氏(香川医大)は,頭部外傷後の軽度低体温療にサイトカインがどのように関与するかを検討。低体温療法を行なった患者は常温管理患者より状態が良好でIL-6が有意に減少,また低体温群の中でも予後不良例にはIL-6の上昇が認められ,本療法の機序におけるIL-6の低下作用の関与が示唆された。
 一方,山上和寿氏(関西医大高度救急センター)は低体温療法中の患者における血管収縮因子エンドセリン-1と血管拡張因子NOx,本療法で最も多い合併症である血小板減少に関与する血小板産生刺激因子TPO(トロンボポイエチン)の動態を検討。常温患者に比べて低温療法下ではTPO値が上昇し,本療法中でも血小板産生機能は確実に温存されていることを示した。

低体温療法を導入するとき

 最後に定光大海氏(山口大)が,本療法の適応について,頭部外傷では病変の位置によるがGlasgow Coma Scale8以下を,CPA(心肺機能停止例)では(1)arrest timeの範囲内,(2)循環安定,(3)酸素飽和度がある一定の範囲内にあることを指摘した。また血小板減少や白血球数増加例を禁忌とし,「感染のリスクを防ぎ,循環抑制のハイリスク症例をどうするかが今後の課題」とした。
 演題終了後,本療法をめぐる問題点を(1)治療のメカニズムとターゲット,(2)復温期の管理法,(3)本療法のクライテリアに絞り論議が行なわれた。障害を受けた患者にいつ本療法を開始するかは「全身循環を改善しながら体温を34℃程度まで管理しつつ開始のタイミングを見計らうべき」との意見があがった。(2)では,本療法中の管理によっては復温期に死亡することもあり,末梢血管へのケアや感染対策,栄養管理,白血球動態への注意など,さまざまな管理上のポイントが示された。司会の林氏は,低体温療法中は下垂体ホルモン低下が起こることから免疫不全が避けられないとし,患者には「エイズ同様に,感染に最大注意をはらうべき」とした。


「よりよいICUを目指して-ICU規準の見直し」

 「今後の課題は,患者および患者家族のアメニティを視野に入れた患者管理学のあり方である」との窪田会長の意図のもとに,パネルディスカッション「よりよいICUを目指して-ICU規準の見直し」(司会=東大工学系 長澤泰氏,阪大 妙中信之氏)ではあるべきICUの姿が検討された。

アンケート結果を紹介

 現在のICUの施設基準は,1973年に日本麻酔学会が提案した基準に基づき厚生省が認定したもので,近年,その骨子に依っている本学会は「専門医研修施設」として認定するための基準を策定した。妙中氏は国立大学病院集中治療部協議会が行なったICU施設設置基準の見直しを目指したアンケート結果を紹介。それによれば,ICU施設の問題点は,(1)手術室・救急部から離れている,(2)ベッド周りが狭い,(3)機材室が狭い,(4)感染対策用個室がない,(5)患者生活環境が悪い,(6)電源容量不足・コンセントが少ない,(7)医師・看護婦不足により独立運営が困難,(8)臨床工学技士不足などがあげられ,「本学会は,種々の施設に共通するICU施設基準を策定する立場にある」と結んだ。

医療の原点を視点においた機能的ICU

 次いで,前述の「脳低体温療法」の第1人者である林成之氏が「医療の原点は“患者中心の視点”であり,“ベッドサイド中心の患者管理”である」と強調し,「医療の原点を視点においた機能的ICU」を次のように要約して紹介した。
 (1)徹底したチーム医療:チームには医師,看護婦,臨床薬剤師,臨床工学技士を中心とし,各分野の指導医は疾患に応じてチーム医療に参加する。(2)患者の情報は,主治医,担当ナースの他に,リアルタイムにスタッフやカンファレンスルームから患者の病態変化や生化学的検査データまで確認できるEMTEK-200コンピュータ管理システムを工夫。(3)ベッドサイドの設計では,モニタの他にwork stationを設置し,リアルタイムのコンピュータモニタ解析法を開発し,集中治療に必要な医療機器の収納スペースの確保,緊急手術後の照明,コンピュータ解析使用を可能とする無停電装置の電源,光ファイバー伝達,フローティグ配線をした24個のコンセントを用意。(4)ICU内に24時間勤務の薬剤師とクリーンベンチを用意し,支柱ごとに水まわりと手洗い部位を設計し,感染予防の機能充実を図る。(5)疲労因子としての光,匂い,音,色調については,光源は天井内埋め込み非直接光源とし,ベッドごとに圧縮空気と空調を設定し,建築物の色調は生理的・心理的解析に基づく合理的な工夫を行なう。
 続いて園田康男氏(大村市立病院)が一般病院の立場から,安本進氏(工業デザイナー)が設計者の立場から報告した。