医学界新聞

看護職の主体性と医療のシステムを論議

第5回「看護職の主体性に関する総合シンポ」開催


  

 さる2月18日,第5回「看護職の主体性に関する総合シンポジウム」が,小島通代実行委員長(東大教授)のもと,東京・本郷の東京大学山上会館で開催された。
 同シンポジウムは,「医療・福祉の変革期にある今,看護職の主体性がますます求められている」として,1993年に「診療の補助における看護職のジレンマ」をテーマに第1回が開催された。以降「効果的な看護職と医師の協調」,「看護の主体性と協調」,「実践的医療経営ゲームを通して学ぶ看護職の主体性を支える経営」をテーマとして,法律・規則からの制約や関係職種との交渉技術など,看護職の足下にあるさまざまな課題に取り組んできた。今回は「看護職が主体的に動くことで医療のシステムがどう変わるのかを,実践経験から参加者とともに学びたい」との主旨から,「看護職が主体的に動くと医療のシステムはこう変わる」をテーマに掲げた。

医師・医療が変わった実例を報告

 実践経験発表で中部労災病院の隅井春江氏は,「癌性疼痛に対するMSコンチンの使用に関し,看護職から医師へ情報提供することでよい方向に向かう事例もあった。しかし,医師との交渉の際に看護職は“心のざわつき”を抑えつつ交渉することが多く,時には医師の拒否により怒り,悲しみが生じ,それが看護職のやりがいの消失につながる」と,看護職の葛藤を“心のざわつき”と表現。「医師とのジレンマを述べる言葉としてピッタリの表現」と述べた。
 三井記念病院の相良尚美氏は,「肺理学療法の効果を医師に提示することで,医師の指示通りに行動するのではなく,看護職が独自に肺理学療法をすることを了承させた。現在はリハビリテーションのほとんどを看護職が主体的に行なうようになったが,結果にも責任を持つことの重要性,臨床判断能力を高めることが課題」と報告。
 愛心メモリアル病院の佐藤陸子氏は,「年末年始に連続する休診は患者に負担を与え,医療の責任を果していない」との考えから,外来看護婦を中心にデータの収集分析を行ない,1996年には「年末に1日,年始に1日」の外来を開くことを病院側に要望,年末の1日を臨時外来診療日となった経緯を解説。昨年末も同様に1日の外来診療の実施をした。「患者にとってよいことは積極的にやろうという職場風土を大切にしていきたい」と述べた。
 西部腎クリニックの大坪みはる氏は,「質の高い看護婦の働きは生産性に貢献する」との経営者との合意のもと,看護婦のキャリア蓄積と生活のゆとりを目的に週休2.5日,フレックスタイム,リフレッシュ休暇などを獲得,看護婦は全員が正看護婦となり,看護職主体の医療を展開している実態を報告。「経営者の理解を得ることができれば看護主体の新しい試みは可能」と述べた。
 北里大学病院の小島恭子氏は,同病院看護部がこれまでに行なってきたユニークかつ先端的なシステム作りを解説するとともに,「看護の立場から発言する重要性」を指摘。看護職1人ひとりが力をつけ,結束するとともに,サポートしあうこと,教育と学習の積み重ねの必要性を指摘する一方,「男社会を承知の上で対応すること」で,看護部の院内での政治力アップにつながったことを強調した。

患者の抱える問題を解決するために

 座談会には小島委員長の司会のもと,稲田まつ江氏(富山県高志リハビリテーション病院),宇田有希氏(腎不全看護研究会長),大森文子氏(前日本看護協会長),河野總子氏(北海道医療福祉大),田中靖代氏(豊橋市民病院)が参加。
 その中で大森氏は「発表の際の看護婦は早口だが,患者に話をする時にはもっとゆっくりのはず。相手に自分の話をわからせる手だてが必要」と指摘。また河野氏は「治療を有効的かつ効率性を高める努力をするのが医師,病院の考え。看護職はその時に患者と同等の立場でものをみることができる。患者の抱える問題を解決するために,看護職が主体的にかかわることが施設内看護職の目的」と強調。さらに田中氏は,「看護職が患者の生活支援者というなら,自立させるために何をすべきか,専門職として問われるだろう」と示唆した。
 今回は前回までの2日間の日程から1日のみの開催となったために,濃厚ながらも駆け足に討論が交わされた感があったことも否めない。会場からは「時間的にゆとりがない」との意見がある一方,「満足感も得られるシンポジウム」との指摘があった。なお,明年は2日間の日程を考慮するとのことだが,本シンポジウムは,参加者が主体的に意見交換ができることが魅力の1つでもあり,グループディスカッションなどでは,十分な意見が交換ができるような時間設定を期待したい。以下に参加者の1人である萩澤氏の印象記を紹介する。