医学界新聞

在宅ケアの質の保証を論議

第2回日本在宅ケア学会が開催される


 さる1月31日,第2回日本在宅ケア学会が,川村佐和子会長(東医歯大教授)のもと,横浜市のパシフィコ横浜にて開催された。介護保険法の制定,医療保険制度の改革などに伴い,在宅サービスは医療の中でますます重要なものになりつつある。しかし,在宅ケアは急激に整備を行なっていることから質の低下も危惧される。このような背景の中,今学会では「在宅ケアの質を保証する戦略と研究」をメインテーマに掲げた。午前中に 4会場で32題の口演,およびポスターによる発表が行なわれた他,午後からは,会長講演およびシンポジウムが企画された。

ケアマネジャーに問われる中立性,公平性と職業倫理

 会長講演「在宅ケアをマネージする技術」で川村氏は,「介護保険法下での利用者と社会資源を効率的につなぐ職能が,ケアマネジャー(介護支援専門員)である」と定義し,要介護認定から介護サービスまでの経緯を図示し解説を加えた。また,「介護保険の機能は,これまで看護・介護職が訪問看護などで行なってきた個別ケア技術を組織化したもの」と述べ,自身の訪問看護の体験事例を紹介。川村氏はその中で,金銭上のトラブルや家族間の意見の相違,確執など,医療以外の患者を取り巻く状況にも難しい現実があることを指摘した。
 一方ケアマネジャーの役割については,「利用可能なサービス情報の提供や要介護者,家族の了承を得たケアプランの作成」などをあげるとともに,その基本姿勢として(1)人権,自立性,自由選択の尊重,(2)公立性,中立性,公平性,(3)プライバシーの保護,(4)処罰規定などを提示。さらにチーム運営の重要性を強調,「参加する関係者相互の統一した協力体制と情報の共有が利用者の幸福につながる」と示唆した。

量から質への転換にどう取り組むか

 シンポジウム「在宅ケアの質を保証する戦略」(司会=茨城県立医療大 大田仁史氏,東医歯大 島内節氏)は,「わが国における在宅ケアは,急速な高齢人口の増加に対して量的対策とサービスメニューの拡大に追われる現状が続いた。今後はサービスの質の向上を考える必要がある」との主旨のもと,「量から質への転換」にどう取り組み,実現するかについての論議された。
 最初に登壇した田中雅子氏(富山県流杉老人ホーム)は,介護福祉士の立場から,「要介護者本人が主役であることを忘れてはならない。介護は一方通行で与えられる行為ではなく,相互の関係の上に成り立つ」と指摘。訪問看護の視点からは内田恵美子氏(日本訪問看護振興財団)が,「患者は自分が受けた医療の質をどう評価するかはわからなくとも,受けたサービスの結果については評価できる」と発言。在宅ケアの質の評価方法にも触れ,「質の基盤である構造評価や第三者評価,ニーズ解決率や利用者満足度等,客観的手法を用いて評価し,質を高めていく必要がある」と提言した。
 一方医師の立場から岡本祐三氏(神戸市看護大)は,カナダ・トロント市のコミュニティケアアクセスセンターの活動を紹介するともに,「サービスを受ける側が提供者を選べることや,サービスに対して苦情がよせられることでケアの質も鍛えられることを提供者は認識すべき。これからは看護の専門性が問われる時代」と指摘。寺山久美子氏(都立医療短大)は作業療法士の立場から,質の高い地域リハビリテーションサービスを提供するための方策として,(1)マンパワーの育成と確保,(2)在宅ケアにおけるリハビリテーション研究の促進などをあげ,地域リハビリテーションのシステム化などを解説した。
 最後に大橋謙策氏(日本社会事業大)は,コミュニティソーシャルワークの立場から,地域自立生活支援を考察。コミュニティソーシャルワーカーの役割や,ケアマネジメントシステムのあり方を解説し,「ホームヘルパーと訪問看護婦を中心としたシステムを作り上げることが重要」と述べた。

チーム医療の重要性

 日本在宅ケア学会は,「在宅ケアの学術的発展と教育・普及を図り,人々の健康と福祉に貢献する」ことを目的に1996年に発足。今学会も,「在宅ケアに携わる多くの職種や職員が一堂に会し,それぞれが帰属する立場を越えて研究的な実践活動から得た成果を共有しあい,サービスを受ける人々のために,質の高いサービスを提供すること」を目的に開催された。なお,同学会に参集する会員は,全体の57%を占める看護職,25%の医師をはじめとして,PT,OT,社会福祉士,介護福祉士,薬剤師,臨床工学技士,省庁・企業研究職,建築士など幅広い分野の専門家から構成され,1997年末現在364名となった。
 なお,チーム医療の重要性を掲げる同学会は,次回の第3回会長に,学会初の医師の立場から丸茂文昭氏(東医歯大教授)を選出。また第4回会長も,リハビリテーション部門から寺山久美子氏の就任が決まった。次回は丸茂会長のもと,「介護保険の向上」をテーマに開催される。