医学界新聞

第13回日本環境感染学会が開催される

院内感染の感染率低下をめざして


 さる2月20-21日,第13回日本環境感染学会が,岩井重富会長(日大教授)のもと,東京の東京プリンスホテルにおいて開催された。当日は医師,看護婦を含む約1300人が参加した。
 特別講演には井上栄氏(国立感染症研感染症情報センター)が「日本の感染症サーベイランス体制」をテーマに,日本の感染症の現状やサーベイランスについて解説,今後の感染症予防制圧のための戦略として,一昨年のO-157感染状況を鑑みた厚生省の食品流通への介入と,疫学調査官の必要性を説いた。また教育講演では小島莊明氏(東大医科研)が「環境と寄生虫感染」を,伊藤一章氏(伊藤喜三郎建築事務所)が「建築計画からみた院内感染予防」をテーマに行なわれた。

院内感染における看護婦の役割

 シンポジウム1「院内感染における看護婦の役割」(司会=日大 熊坂一成氏,東大 奥住捷子氏)では,医師,看護婦,弁護士,患者とさまざまな立場から参加者が集まり,今後の院内感染防止に向けて看護職は何をすべきかが論議された。
 まずはじめに奥住氏が「日常,看護婦は病院関係者と感染対策に必要な十分なコミュニケーションがとられているか」と疑問を投げかけ,続いて伊藤美和子氏(日大板橋病院)が,病院内の感染対策委員会における看護職の役割を,全国の看護婦長あてに行なったアンケート調査の結果から報告。また細萱信予氏(佐久総合病院)は保健婦の立場から,在宅医療を受けるMRSA保菌者の追跡調査を行ない,「周囲の感染症に対する理解を得るために,患者家族や地域の保健福祉関係者との十分な話し合いが重要」とした。
 一方,医師の立場から山口惠三氏(東邦大)が「検査部と病棟との密な連携が感染率低下につながる」とまとめ,さらに渡邊都貴子氏(岡山大附属病院)が,感染管理担当婦長となり各病棟をラウンドした経験から,看護婦から医師への要望を述べた。続いて弁護士の立場から,嵯峨清喜氏(嵯峨法律事務所)が最近のMRSA感染に関わる判例を紹介した後,患者のニーズの担い手としての看護を期待すると述べた。最後に夫を院内感染で亡くし,『院内感染』を著した富家恵海子氏(日本リサーチセンター)が市民の立場として登壇し,看護職への要望を語った。
 フロアからは感染管理医師(infection control doctor:ICD)や感染管理看護婦(infection control nurse:ICN)の必要性を強調する意見や,また「ICNが判断した院内感染と主治医がみている感染症とのギャップをどう埋めるか」との発言に,医師からは「看護職は検査室との連携をはかるなど,感染症対策に積極的に介入すべき」との意見があがった。さらに日常臨床の場において看護職が感じているジレンマの問題解決に向けて論議が交わされた。

術後感染症予防に対する姿勢

 シンポジウム2「抗菌薬の予防投与の功罪」(司会=名古屋市厚生院 品川長夫氏,広島大教授 横山隆氏)では,1980年代に起こったMRSAパニックを背景に,外科手術後の抗菌薬の適正な予防的投与のあり方が論議された。
 佐藤毅氏(日大)は抗菌薬の術後感染症の予防効果を確認したことを報告。感染兆候の早期発見の重要性を強調した。続く真下啓二氏(名古屋市厚生院)は,全国20施設の調査結果から,術後感染症の分離菌の薬剤感受性の変遷を検討した。
 一方,泌尿器科医の立場から公文裕巳氏(岡大)が術後感染症の分離菌の年次推移を検討。続く竹末芳生氏(広大)は抗菌薬の術後投与を腸内細菌叢への影響から,抗菌薬選択には腸管内の細菌への影響を考えた視点が必要とした。さらに草地信也氏(東邦大)は,常在菌のうち1,2菌種を目標に,投与は術中から開始し術後3日間までとした術後感染予防のための抗菌薬選択のガイドラインを作成,MRSA発生率に減少がみられたことを報告した。
 最後に細菌学的立場から井上松久(北里大)が,「現在の医療の環境下では施設内で耐性化した菌に患者が感染する可能性が大きい」とし,MRSA分離菌調査から「菌は施設内に常在しており,それが患者間を移動しているのでは」と考察した。
 これらの話題を受けて演題終了後のディスカッションでは,「1980年代の第3世代セフェム系薬剤多用がMRSA感染症の直接原因ではないが,きっかけであることは間違いなく,何らかの薬剤感受性を高くしたことは確か」とする見解の他,ICUでの感染管理法,専任のICN,ICDの必要性などが論議され,抗菌薬の予防的投与については,16%の割合で術後感染が起こる現状から,起炎菌を確かにした上での適切な抗菌薬選択の重要性を示唆した。