医学界新聞

第20回日本POS医療学会開催

新しいPOS医療のあり方を求めて


 POS(Problem Oriented System=問題志向システム)を用い,より質の高い医療の提供をめざす第20回日本POS医療学会が,福間誠之会長(明石市立市民病院長)のもと,さる2月28日-3月1日の両日,明石市の明石市立市民会館を主会場として,「POSで良い医療」をテーマに開催された。
 今回は第20回という節目の学会ではあったが,福間氏の「今回は特別な企画はせずに実質的な討議に時間をかけることとした」との提言により,日野原重明氏(聖路加国際病院理事長)による会頭講演「POSはどこに行くか-POSとフォーカス・チャーティングの融合」をはじめ「医学診断と看護診断」と題したパネルディスカッション,17題の一般演題,6題のワークショップが企画され,密度の濃い討議が行なわれた。


ワークショップでの新しい試み

 同学会では,参加者全員がテーマごとに小グループに分かれて行なわれるワークショップが恒例となっているが,今回は従来の「初心者のためのPOS」,「プロブレムリスト」,「看護診断」,「オーディット」の4題の他,新しい試みとして「服薬指導とPOS」,「在宅医療とPOS」が加えられ,計6つのテーマが設定された。
 「服薬指導とPOS」(司会=聖路加国際病院 松井征男氏,同 井上忠夫氏)では,教育入院した糖尿病患者の症例検討,服薬指導の計画立案を通じ,患者の基礎データの収集,問題の明確化などのトレーニングが行なわれた。会場には薬剤師の他,医師,看護職の参加者の姿も見られ,これからのチーム医療における薬剤師の役割に対する期待が感じられた。
 また「在宅医療とPOS」(司会=ライフプランニングセンター 片山蘭子氏,日赤武蔵野女子短大 畑尾正彦氏)では,在宅医療の症例について,訪問看護指示書,看護計画書などをPOSのプロセスに基づいて作成。それをもとに討論が展開された。
 司会の畑尾氏はまとめとして「長期的なケアを提供する在宅医療の現場では,そこに関わるすべての人が情報を共有し,患者さんと接していかなければならない」と語り,在宅医療における患者情報の共有の重要性を強調。さらに「情報を共有する場合,問題点などを簡潔にまとめるPOSの技法は非常に有効である」と述べ,在宅医療におけるPOSの可能性を示唆した。

POSの今後

 会頭講演「POSはどこに行くか-POSとフォーカス・チャーティングの融合」においては,日野原氏が,厳しい医療費削減を強いられる中,急激な変化を余儀なくされることになったアメリカの医療の現状を解説。変革期を迎えつつある医療の現場におけるPOSのあり方を論じた。
 現在アメリカにおいては,人件費と医療 費削減を強制する管理医療が猛威を振るい,病院側は合併,人員削減,入院日数の短縮などの経営の合理化によって対応せざるを得なくなった。その結果,医療の中心は外来,在宅医療に移りつつある。
 日野原氏は「この波は日本にも必ず押し寄せる」とし,「医療の場が,かかりつけの医師から病院へ,病院から在宅ケアへと移り変わっていく中では,医療従事者だけでなく,患者本人やその家族が,データを持ち寄り,共有し,患者の問題解決に活用すべきである」と語る一方で,「それらのデータは明確な事実に基づいた(Evidence-based)ものでなければ意味をなさない」と述べ,問題解決におけるデータの重要性を示唆した。
 また日野原氏は,「POSのめざすところは『患者の問題を,患者のQOLを大切に,最も効果的に解決されるように,全人的な立場から問題を取り上げ,考え,行動する一連の過程の記録』であるが,医療の簡略化に応じて,より効率的な記録の方法を考えていくべきである」と述べ,POSの簡素化や,フォーカス・チャーティングなど新しい技法の導入の必要性を強調した。