医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


現在の心臓突然死に関する知識の集大成

心臓性突然死 村山正博,笠貫宏 編集

《書 評》春見建一(昭和大藤が丘病院客員教授)

 近年,抗不整脈薬の目覚ましい発展があり,また植込み型除細動器の発達とともに,心臓突然死が注目の的になってきた。この時に現在の心臓突然死に関する知識のまとめが発刊されたことは誠に時宜を得たものである。村山教授はスポーツ心臓の大家で,スポーツの突然死から心臓突然死の研究に関与されており,笠貫教授は抗不整脈薬,ICDの臨床に詳しく,両編集者により心臓突然死に関する事項がよく選択されまとめられている。本書は47名の分担執筆になっているが,ほとんどの執筆者は若手で占められ,これが本書の特徴を作っているように思われる。

心臓突然死の現状を知る

 本書は序にもあるように,心臓突然死について,「ここまではわかった」「今後どういう方向で研究が進められるか」がわかるような本をめざして編集されている。したがって,実地医家が患者診療の際,座右の書として使用するというよりは,若手研究者が,コメディカルの人が,また学生が心臓突然死研究の現状を知るのに向いているように思われる。
 本書は総論と各論に分かれ,総論が全体の約360ページのうち約230ページを占め,わが国の突然死の実態について疫学,突然死の主な原因である不整脈のメカニズム,診断法・治療法等の新しい情報が満載されている。突然死のわが国における現況を知るのによくまとめられている。それだけではなく,各論では,多くの症例の提示がなされ,臨床が理解されやすいように配慮されている。
 突然死の診断基準には国際分類のICD-10が採用され,スポーツと突然死,過労との関係等の問題点も取り上げている。抗不整脈薬については日本版Sicilian Gambitの紹介,ICDの適応,Ablation法などの他,突然死の要因として総論を通じてストレスの重要性を強調し,ストレス評価法などもまとめられている。遺伝性QT延長症候群ではLQT1,LQT2,LQT3の紹介をする等,随所に新しい知見が取り入れられている。
 本書はまず循環器専門医の突然死に関する知識の整理に最も役立つといえるが,初めに述べたように,研修医,コメディカル,高学年の医学生の教育にも十分使用しうる専門書といえよう。本書は広く循環器領域に働く人々に読まれることを希望するし,推薦するに値する労作といえよう。
B5・頁360 定価(本体15,000円+税) 医学書院


MR画像の基礎を理解するために

図解 原理からわかるMRI Moriel NessAiver著/押尾晃一,百島祐貴 訳

《書 評》土井 司(奈良医大・中央放射線部)

 1946年にPurcell,Pound,Torry(ハーバード大)とBloch,Hansen,Packard(スタンフォード大)が核磁気共鳴(NMR)現象を報告したが,画像化の発端となったのは1976年のLauterbur(ニューヨーク州立大)の研究である。さらに本格的なMR画像が提供されるようになったのは,1982年のBydder,Steiner(ハマースミス病院)の研究からで,NMR現象の発見以来36年も有している。しかし,その後今日に至るまでの16年間の技術の進歩には目を見張るものがある。2年後の1984年には,MRI用造影剤がすでに使われ,1986年には高速spin echo法の基礎となるRARE(rapid acquisition with relaxation enhancement)法がJ.Henningにより発表され,diffusionやperfusionの脳画像やgradient echo法が開発されている。1990年にはfMRI(functional MRI)におけるBOLD効果がすでに報告され,1991年には高速SE法やMR angiography,MR hydrographyが臨床可能となっている。最近では,開放型装置によるIVR(interventional radiology)への応用が現実となっている。このようにMRIは,形態の描出から生理機能の描出へ,そしてリアルタイム画像へと急速に進歩(技術革新)している分野である。

組織コントラストの解明

 MR画像は,パルスシーケンスにより決められた組織の緩和を,ボクセルからの信号強度として画像に反映させたものである。存在診断から質的診断へ,そしてさらに高次の機能診断へと無限の広がりをもって画像診断に寄与している。しかし,画像が表現する濃淡(信号強度)は,複雑になるばかりである。今や組織の組成を追求するばかりか,その組織の分子の状態がどのように信号強度を支配しているのかまで解明しなければならない時期にきている。diffusion,perfusion,EPI(echo planar imaging),fMRI,MTC(magnetization transfer contrast)などがその代表例である。それらは,画像に新しい情報を与えてくれるが,それが組織のどのような状態(緩和時間)を現しているのか,その解明は難しい。
 そのようなとき,必要とされるのがMRの発生から信号取得までのメカニズムと核磁気共鳴工学とも言われる基礎物理の知識である。本書は,NMRの発生原理からシステム構成,画像再構成理論,各種撮像原理(パルスシーケンステーブルの構成)と画像コントラストの関係,アーチファクトの発生原理と対処法,画質評価法まで,MRにおける基礎物理を明解にまとめた今までにない専門書である。

辞書的活用

 もはやMR画像の濃淡だけで画像診断を下せる時代ではないと思われる。種々の信号強度を示す組織の状態を解明してこそ,さまざまな病態,さらには人体の生理が明らかになってくるように思われる。そのためにもオペレータの基礎物理の修得は必修となってくるだろう。MR信号の本質を知り,MR装置の性能を最大限に生かし,さらに新たな撮像(画像)技術を生み出すためにも,本書のような内容を理解しておく必要がある。
 本書では,著者が物理学の授業(入門コース)で使っているOHP原稿の図解が全ページにわたり掲載され,非常に読みやすく設計されている。ちょっと困ったときの参考書として,辞書的に活用するのも有用な利用法である。大いに本書の特長を生かし,今後のMRの発展の糧としてご活用されるようお勧めしたい。
A4変・頁158 定価(本体4,000円+税) 医学書院


外来や当直で「なすべきこと」を行なうために

外来診療・小外科マニュアル 「臨床外科」編集委員会(編)

《書 評》諏訪勝仁(聖路加国際病院・外科)

 研修医が医学図書店に入ったとき,必ずや立ち寄るのは「マニュアル本コーナー」であろう。必要不可欠な内容がコンパクトにまとめてあり,いざというときにはすぐに取り出せる「マニュアル本」こそ,研修医にとっては座右の書なのである。実際われわれの施設でも,ポケットにこれらの本を備えていない者を探すのは困難である。しかし,その種類が増えるにつれ内容は画一的となり,斬新な書を探すのが難しいというのも1つの現状であろうか。
 さて今回,医学書院から出版された『外来診療・小外科マニュアル』を拝見する機会を得た。本書は医学雑誌「臨床外科」の増刊号として出版されたため,B5版とマニュアル本にしては少し大きい。厚みも2.1cmとしっかりしており,持ち運ぶには少々かさばるかもしれない。しかし,恐る恐る内容に触れてみると,なかなかどうして,あっという間に全部読み終わってしまった。

多科にまたがる問題を統一化

 読みやすい理由は何かと考えてみると,まず構成がしっかりしている。I 章では「外来患者の診察法」から始まるのだが,II章では「頭部・顔面・口腔・咽頭」の疾患を扱い,続いて「頸部・肩」「胸部」となり,最後に「四肢・皮膚」「乳幼児の外来外科疾患」で終わる。すなわち,疾患を科別でなく部位別に分けることにより系統化し,多科にまたがる問題を統一化している。次に,1つ1つの項目がだらだらと長くなく,すっきりと読み終えることができる。慣れない外来で,「ちょっと待ってください」と患者を診察室に待たせ,奥に引っ込み,書物を読んで戻ったという経験は誰にでもあろう。このように,すぐに知識を得たいときにも無駄なく目的が達せられる。そんな長所を備えている。

Dos & Don'ts

 そして,私が何よりも気に入ったところは,各項に設けられた「Dos & Don'ts」である。日本語に訳せば,「なすべきこと,なさざるべきこと」であろうが,これによって不慣れな外来医はどんなに救われるであろうか。むろん,研修医のみならずである。
 外来や当直をしていて,他科の疾患を扱うことは稀なことではない。この場合でも,焦ることなく「なすべきこと」を行なえばよいのである。ぜひそばにおいてほしい。「持ち運びにはかさばるかもしれない」と先に述べたが,読み終えて実感,どんどん持ち歩いてほしい。安心の携帯と思えば,軽くも感じられようものである。
 最後に読者の方々にお伝えするが,各項の間に垣間見るコラム,「談和室」を見落としのないように。とても蘊蓄があり,おもしろい内容である。
A4・頁376 特別定価(本体7,800円+税)「臨床外科」第52巻11号(増刊号) 医学書院


在宅酸素療法に携わるスタッフの必読書

在宅酸素療法 包括呼吸ケアをめざして 木村謙太郎,石原享介 編集

《書 評》飛田 渉(東北大助教授・内科学)

包括的医療のあり方を追究

 近年,わが国において在宅医療の推進が叫ばれているが,その先人的役割を担ったのが在宅酸素療法である。多くの基礎的臨床的研究の積み重ねが実を結び,本療法が1985年に社会保険適用になり,呼吸不全に悩む多くの患者がその恩恵を受けることができるようになった。かかる状況下においてこれまでもこの領域における出版物が出されたが,本書ほど在宅酸素療法に関しての独創的な著書は見当たらない。本書は呼吸不全の領域における臨床研究の第一人者である木村,石原両氏の編集により,医師,医学教育者のみならず看護婦,理学療法士,保健婦,福祉関係者など在宅酸素療法に携わる多くの方々が,それぞれの立場より豊富な経験に基づく具体的な問題点や将来への提言を記述しており,そしてこれらの内容を通じて在宅医療のあり方,包括的医療のあり方を追求しようとしている新しいタイプの書である。

在宅酸素療法に関する詳細なる歴史

 本書は11章から成り,第1章にはわが国における在宅酸素療法の歴史について,多くの先達の業績を系統的に解説し,これらの個々の業績の積み重ねが在宅酸素療法が社会保険で適用される上で欠かせなかったことや在宅酸素療法が社会的に認められるまでの背景などが詳細に解説されている。在宅酸素療法の歴史に関してこれまで詳しく記載された著書は見当たらない。また医学教育のための資料としても欠かせない内容となっている。さらに包括呼吸ケアとしての在宅酸素療法のダイナミズムについてや本療法における将来の課題についての編集者らの主張も記載されており,ここに本書の基本的な心が読みとれる。
 第2章以下には呼吸不全患者の生理学的特性,酸素療法に関する基礎的知識,急性増悪時の病態治療予防法,人工呼吸管理,理学療法,在宅酸素療法患者のケア上の問題点,在宅酸素療法患者と社会との関わり,社会福祉資源の活用法,在宅医療支援のための人材養成,将来への展望など150ページとコンパクトの割には在宅酸素療法に関する豊富な内容が記述されており,読者に強い感銘を与える。

どの章からでも読める

 各分担者がそれぞれの章全体を担当しており,各章がよくまとまっている。また,わかりやすい図や写真,表,グラフをふんだんに使用しており,どの章から読んでも理解できるような構成になっている。いずれの分担者もわが国で早くから積極的に在宅酸素療法を取り入れた関西地区で活躍している方々であり,その地域における多くの事例を紹介し,筆者自身の立場からの問題点や対策を浮き彫りにしている等,専門でない人にもインパクトを与える内容となっている。特に,阪神淡路大震災の経験をもとに大災害時における在宅酸素療法患者のケアのあり方を述べている章はかかる大震災を目のあたりにした方でないと記述できない内容である。
 在宅医療が重視され,普及しつつある現在,本書は関西地区から全国に在宅酸素療法を例にとった包括呼吸ケアのあり方を発信している書とも言え,呼吸不全の医療福祉に携わる医師,看護婦,保健婦,理学療法士など各領域のスタッフのみならず,これから在宅医療の関連の仕事に携わらんとするスタッフの方々にぜひお薦めしたい本である。
B5・頁168 定価(本体4,200円+税) 医学書院


婦人科手術書のバイブル

TeLinde's Operative Gynecology 第8版
J.A.Rock,J.D.Thompson 著

《書 評》塚本直樹(国立病院九州がんセンター院長)

50周年を記念する大改訂版

 婦人科手術書のバイブルとも言える『TeLinde's Operative Gynecology』の第8版が出版された。1946年の初版以来5-9年ごとに版が重ねられ,これは出版50周年目を記念する大改訂版である。TeLindeは,第2次世界大戦中に第1版の執筆に着手した。これは,当時,彼が主任をしていたジョンズホプキンス大学婦人科で行なわれていた手術の哲学と手技とを記述したものであるが,今回の第8版に至るまでその基本理念は貫かれている。すなわち,手術の適応は正しい病理学的診断に基づき厳格に決められるべきで,行なう手術が患者に対して,(1)to save life,(2)to relieve suffering,(3)to correct deformity,の何れかに該当しないようであれば手術の適応を再考すべきであるとするものである。また,最近の生殖医学の発達により第8版では,これに(4)to allow the creation of lifeが追加されている。
 私とこの手術書のつきあいは長い。最初に購入したのは1966年7月,私が産婦人科医としてスタートしたときで,1962年の改訂第3版であった。以後,第4,5,6,7,8版と私の書棚に並んでいる。第4版はレジデント研修中にクリーブランドで,また第5版は婦人科腫瘍学フェローのときにニューヨークで求めている。レジデントのときには,婦人科教科書兼手術書として術前・術後に何回も読み,レジデントの教育にも活用した。ジョンズホプキンス大出身の婦人科のScott教授が,自分がTeLindeに腟式手術を教えたのだという話を聞きながら一緒に手術したことが思い出される。また,ニューヨークでは高齢になっておられたTeLinde教授が,自分の癌患者を紹介してこられ感激したことなどもある。
 帰国して遠藤幸三先生の名著『実地婦人科手術』を初めて読んだときに,先生の手術に対する考え方がTeLindeにあまりにもよく似ており驚いたものである。軍医であられた遠藤先生は,戦後フィリピンの捕虜収容所でアメリカ人の医師よりTeLinde手術書第1版を見せてもらい,その内容に感激してむさぼり読んだとの話を後でご本人よりお聞きした。
 1946年の初版は751頁で,1962年の第3版(907頁)まではTeLinde自身によって改訂された。しかし,彼も高齢(76歳)で後継者が必要となり,1970年の第4版では弟子のMattingly教授を共編者に招き,この版より数人の執筆者とともに改訂されるようになった。この版をもってTeLindeは改訂作業から退いたが,1989年95歳で亡くなるまで序文(第6版まで)は書き続けた。
 今回の第8版は,いずれもTeLindeの弟子であったRock教授とThompson教授による編集と72名の執筆者による大改訂版で,54章,1670頁に及ぶ大冊である。
 1970年代にアメリカ産婦人科学会にGynecologic oncologyとReproductive endocrinologyのsubspecialtyができたのを反映して,この手術書の内容も拡大していった。
 第8版は以下の7節からなっている。 I.General topics affecting gynecologic surgery practice,II.Principles of anatomy and perioperative considerations,III.Principles of surgical management and endoscopy,IV.Surgery for fertility and benign gynecologic conditions,V.Surgery for correction of defects in pelvic support and pelvic fistulas,VI.Related surgery,VII.Gynecologic oncology

婦人科手術の全分野を網羅

 婦人科手術の全分野が網羅されており,どの章を見ても充実した内容とup-to-dateな参考文献があげられている。この本と30年以上つきあっている今でも手術の前にはかならず目を通すように心がけており,また,研修中の医師には術前・術後に読むことを義務づけている。1985年の第6版に対するJAMAの書評である,“I cannot imagine any gynecologist who performs surgery doing without it,first as a primer and then as a reminder."という表現は,私の実感でもある。ぜひ読んで下さい。
1670pp.\24,000,1997 Lippincott-Raven社
取扱い 医学書院 洋書部