医学界新聞

第28回日本心臓血管外科学会が開催

新しい冠動脈バイパス手術-MIDCAB


 第28回日本心臓血管外科学会が,さる2月18-20日の3日間,東京の京王プラザホテルにおいて,細田泰之会長(順大教授)のもと開催された。
 シンポジウムは,「胸腹部大動脈瘤の手術成績向上のための対策」(司会=東北大田林晄一氏,東大 高本眞一氏)と,「小児心疾患の弁形成術と弁置換術の問題点と対策」(司会=阪大 松田暉氏,九大 安井久喬氏)の2題が企画された。またパネルディスカッションは,最近のMIDCAB(minimally invasive direct coronary artery bypass grafting:低侵襲冠動脈バイパス手術)に対する急速な関心の高まりを背景として「非体外循環使用の冠状動脈バイパス手術の功罪」をテーマに行なわれた。さらに海外からの招請講演には,MIDCABを最初に報告したA.M.Calafiore氏(Sen Camillo病院)をはじめとする4名が登壇し,多くの参加者を集めた。
 また,同会場において,第6回アジア太平洋心臓血管外科学会(会長=筑波大 三井利夫氏)が同時開催された。
 本紙では2日目に行なわれたパネルディスカッションを中心に報告する。

CABGのメリット・デメリット

 現在,低侵襲の冠動脈バイパス手術(CABG)の手技として,体外循環を使用せずに心臓拍動下で行なわれる非体外循環使用(off-pump)CABGの1つであるMIDCABが注目を集めている。本法は従来のCABGに比べ侵襲が少なく,また体外循環を使用しないために,従来の手術の適応外の患者も対象となる利点がある。その一方,血管の吻合など技術的に難しく,術後に血管が詰まる可能性があることが指摘されている。現在,体外循環を使用する(on-pump)CABGが100%近い成功率で行なわれている中,MIDCABを含めたoff-pumpCABGの適応をめぐっては議論がなされるところである。
 このパネルディスカッション(司会=埼玉医大尾本良三氏,国立循環器病センター北村惣一郎氏)では,両者の適応をどのように考えるかを議論する場となった。
 まず最初に,「現在の日本の人工心肺使用CABGのスタンダードな成績」と司会の言を受けて,高沢賢次氏(順大)が登壇。CABG730症例の手術成績と遠隔期成績を検討し,現時点ではoff-pumpに比べてon-pumpCABGがリスクが少なく,安全な手技であることを示唆した。続く近藤敬一郎氏(大阪医大)は,on-pumpCABGでは脳血管病変が大きなリスクファクターで適応が難しいとされるが,最近は術前調査で対象患者の10%を越えるなど増加傾向にあることから,脳外科と共同して脳血流量の絶対値を計測するゼノンCTを用いたoff-pumpCABGかon-pumpCABGかの手技選択のストラテジーを紹介し,このため脳血管障害の発生件数がゼロになったことを報告した。
 また遠藤真弘氏(東女医大)は,off-pumpCABGの自験例とともに,心臓を固定し一時拍動を抑えるスタビライザーをはじめとする,自身が開発したオリジナルのMIDCAB用の手術器具をビデオを用いて紹介し,これらの器具により手術の安全性が確保されることを示した。
 一方,田代忠氏(福岡大)が心筋保護法や人工心肺の進歩した現況における重症例へのCABGのあり方を検討。今まで適応除外されてきた重症例にもon-pump CABGが安全であることを証明し,off-pumpCABGは大動脈石灰化病変を有する場合に,MIDCABはLITA-LADにと,限られた症例のみへの適応になるのではないかと示唆した。さらに成瀬好洋氏(虎の門病院循環器センター)は,上行大動脈病変を有する症例にon-pumpCABGを施行し,術前の精査で脳血管障害などの合併症はある程度防止できるとの観点から,「正確な吻合が可能なon-pumpCABGを第1選択にすべき」と結論づけた。

MIDCAB適応をめぐって

 大川育秀氏(国療豊橋東病院)は,実際に冠動脈一枝病変にCABG,PTCA,MIDCABを施行した場合の医療費を比較した結果,CABG305万円,PTCA154万円,MIDCAB134万円と,MIDCABが一番コストが安いことを報告。またMIDCABは技術的に難しいなどの問題があるが,症例を重ねるにつれ確実に手術成績が向上することを強調した。最後に磯村正氏(湘南鎌倉総合病院)が,123例のoff-pumpCABGのうち通常の正中切開によるMedi-CABと,左第4肋間開胸によるMIDCABについてその適応,成績などを比較検討。ビデオを用いて両者のスタンダードな手術手技を紹介し,MIDCABとPTCAなどとのコンビネーションセラピーの有効性を報告するとともに,術後平均入院日数ではMIDCAB6日,Medi-CAB12日と前者ではかなり短縮できたことを報告した。
 演題終了後に行なわれたディスカッションでは,MIDCAB施行についてはその適応範囲,術後閉塞症例への対応などが論議され,また術前後の内科医との連携の必要性が強調された。
 最後に,伴敏彦氏(小倉記念病院長)が特別発言し,MIDCABの適応については左前下行枝1枝病変をあげ,その導入については「200-300例以上のCABG経験者のみが行なうべき手技であり,現時点ではon-pumpCABGのさらなる成績向上に努力すべきで,安易な導入はすべきではない」と,論議を締めくくった。