医学界新聞

第6回総合診療研究会が開催される

総合診療のためのネットワーク作りへ


 川崎医大に最初の総合診療部が誕生してから16年が過ぎ,現在では23の大学および23の臨床研修指定病院において総合診療部(科)が設置されるにいたっている。疾病構造の変化や,医療費の増大といった医療を取りまく社会状況の変化から,総合診療に対する期待は増す一方である。そのような中,第6回総合診療研究会が,津田司会長(川崎医大教授)のもと,さる2月14-15日の両日,倉敷市の川崎医療福祉大学において開催された。
 今回の研究会では,Kenneth Eino Yokosawa氏(ミシガン州立大)による教育講演「U.S.-Japanese Collaboration in Family Practice Medical Education」,Robert M. Centor氏(アラバマ大)による特別講演「Treatment Decisions in Serve Gastroesophageal Reflux Disease:Lessons from Cost-Effective Analysis」をはじめ,「臨床教育」,「診療・受療行動」,「外来・在宅医療」,「臨床疫学」,「臨床決断分析」,「感染症」,「循環・呼吸」,「臨床研究」の8つのテーマに基づいた38題の一般演題が発表された。


家庭医療学教育における日米協力

 教育講演「U.S.-Japanese Collaboration in Family Practice Medical Education」では,ミシガン州立大において卒前卒後教育の運営委員を務めるKenneth E. Yokosawa氏が,アメリカにおける家庭医学専門医のあり方について解説するとともに,ミシガン州立大と川崎医大が共同で進めているプライマリ・ケア教育者の育成に関するプログラムを紹介した。
 Yokosawa氏は,ミシガン州立大におけるプライマリ・ケア教育の指導法に関する教官のためのトレーニングプログラムに日本の大学の指導者を受け入れ,また川崎医大と協力しインターネットを利用した日米の指導者による医療倫理に関するケースディスカッションを行なっていることを報告。「このようなプログラムが日本の総合診療の発展に何らかの寄与するところがあれば幸いである」と述べ,講演を締めくくった。

多彩なワークショップ

 本研究会の特徴ともなっている,参加者全員が少人数のグループに分かれて行なわれるワークショップ。今年度は(以下,カッコ内はコーディネーター)「総合診療リサーチネットワークの構築(京大 福井次矢氏)」,「魅力ある臨床教育の行ない方(天理よろづ相談所病院 今中孝信氏,佐賀医大 小泉俊三氏)」,「地域志向型のプライマリ・ケア教育(北大 前沢政次氏,田坂病院 田坂佳千氏)」,「臨床疫学入門(佐賀医大 吉原幸治郎氏)」,「EBM:Evidence-based Medicineの実践(国保作手村診療所 名郷直樹氏)」の5つのテーマが企画され,各会場では活発な意見の交換が行なわれた。
 「魅力ある臨床教育の行ない方」では,参加者を4つのスモールグループに分け,それぞれのグループで設定したテーマ((1)魅力ある初期臨床研修,(2)ターミナルケアをどう教えるか,(3)魅力あるカンファレンスの持ち方,(4)診療の基本をどう教えるか)について討論を行ない,現在の臨床教育における問題点や,これからの臨床教育のあるべき姿などを検討した。ワークショップ後,コーディネーターの小泉俊三氏は「実際に研修医の教育に関わっている方々が,問題点や日頃考えていることなどをぶつけ合うことは,参加者の皆さんにとってよい刺激になると思う」と,ワークショップの意義を語った。

総合診療のための ネットワークとは

 一方「総合診療リサーチ・ネットワークの構築」においては,コーディネーターの福井次矢氏が,総合診療における研究のためのネットワーク作りを提言。インターネットなどを利用し,臨床疫学に必須なデータの集積などを行なうことのできるリサーチ・ネットワークを作ることの意義,構築の手順などについて検討が行なわれた。
 ワークショップの後,津田氏は会長からのメッセージとして「若手医師のための研修ネットワーク作り」と題した講演を行なった。その中で津田氏は,若手医師が積極的にさまざまな施設において研修し,それぞれのよい点を幅広く吸収することができる研修プログラムの確立の必要性を主張し,「そのためには研修を受ける側と研修場所を提供する側の連携のとれたシステム(=ネットワーク)作りが不可欠である」と述べた。津田氏は最後に「プライマリ・ケア教育の発展のために,われわれが力を結集してネットワークを構築すれば,日本の教育システムは急激に改善されるのではないか」と研修ネットワークに対する期待を語った。