医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


心臓性突然死に関する今日の知識を網羅

心臓性突然死 村山正博,笠貫宏 編集

《書 評》杉本恒明(公立学校共済組合関東中央病院長)

 突然死とは急速な経過をとる予期されない死を言う。中でも経過がもっとも速く,予期しにくいのが心臓性突然死である。心臓性突然死は社会性の上からいっても突然死の代表的なものといってよい。本書はこのような心臓性突然死の現状,病態,そしてその予知に関する今日の知識のすべてを網羅した本である。
 編集の1人,村山教授は運動生理学の大家であり,運動と突然死を長年の研究課題としてこられた。今1人の笠貫教授は臨床電気生理学の第1人者として致死的不整脈の診断と治療の領域で活躍しておられる。心臓性突然死に異なる切り口から取り組んでこられたお2人の編集になるがゆえに,本書は一味違う書物となっている。

突然死予防のための医療体制

 死亡学という学問の中での突然死の位置づけに始まって,類書にないチャプターがあった。例えば,心臓性突然死の実態の把握法,特殊な状況としての入浴,自動車運転,性行為中の突然死,乳幼児突然死症候群,労災事故,慢性疲労,ストレスなどとの関係といった項があり,突然死予防のための医療体制にも触れられている。学校保健,疫学調査,解剖所見などにみる世界各国あるいは日本における実態は貴重な資料でもある。実態把握のための調査法はこれからのこの領域の研究を始めようとする者には大事な指針となるものである。入浴中の事故が欧米ではみられないというのには興味を持った。労災保障と突然死については事例が添えてある。慢性疲労の突然死にはマグネシウムとプロスタグランジンが要因として関与するというものも興味深い。
 心臓性突然死の機序については,機械的心不全と電気的心不全のそれぞれを解説した上で,各論として,基礎心疾患別に記述している。この項では症例が提示されていてわかりやすい。今日における心臓性突然死の予知法の現状も紹介されている。話題の植え込み型除細動器は一般向きの図解となっている。欲をいえば,Brugada型心電図やQT延長症候群などは章を別にして解説し,ことにQT延長症候群の遺伝子解析も紹介してほしかったと思ったことであった。

最近の考え方を様々な角度から

 一杯の内容ではちきれそうな本である。機序を中心としながら心臓性突然死についての最近の考え方を様々の異なる多くの角度について収集し,整理し,今後の研究の方向づけに役立たせたいという編者らの狙いは十分に達せられているように思った。研究者ばかりの本ではない。感心を持つコメディカル,ことに労災担当者にとってはその座右に置かれてよい本である。広く利用をお薦めするものである。
B5・頁360 定価(本体15,000円+税) 医学書院


手術を教える側にも教わる側にも有用な専門書

眼科手術アシスタントマニュアル 坪田一男,他 著

《書 評》小原喜隆(獨協医大教授・眼科学)

 現代の医療はチーム医療が基本で,手術も同じことが言える。術前から術後までの患者管理,手術器械の調整,そして手術への直接的・間接的介助などスタッフが各々役割を分担している。術者は手術のたびにアシスタントは誰かなと気になるものである。手術をマスターし,術者と気心が知れているアシスタントほど力強い味方はいない。手術によってよい作品を作りあげるにはアシスタントの働きが鍵となる。本書は手術を教える側にも教わる側にとっても求められている専門書であり,時宜を得た企画である。
 本書をめくる前にまず,本書のタイトルが新鮮で,厚さもちょうどよいので読みやすい感じを受ける。執筆者をみると真に第一線でばりばり活躍していて,理論的にも技術的にもシャープな方々ばかりである。読んでみると,さすがに内容に無駄がなく,的確な記述がされている。読んでいくうちに,実際に手術をしているバーチャルリアリティの中にいる感じになる。著者の鋭い感覚にぐいぐい引っ張られて,苦もなく内容を理解しながら読破できる。

手術をスムーズに行なうための実践論を展開

 本書は総論と各論から構成されている。総論は手術のセットアップ(ベッド,頭位,洗眼,消毒,ドレーピング),患部の消毒,麻酔方法や麻酔薬,手術顕微鏡の扱い方,糸や針の基本知識,術中管理,術後管理などを中心として手術全般をあらゆる角度から分析し,手術をスムーズに行なうための実践論を展開している。その具体的な例として,術前準備の項では「術眼を間違えるな」,「頭と目のポジション」,「眼圧を十分に下げるのが腕のみせどころ」,「アルコールと生食を間違えるな」などと,かなり具体的な指示が書かれている。
 各論は代表的な手術である白内障,緑内障,網膜硝子体,斜視,角膜移植,救急,涙嚢鼻腔吻合,眼窩底骨折,眼瞼下垂を取りあげている。アシスタントは手術の手順を知っておかなければならないという観点から,術直前のチェックすべき点をあげ,手術の流れを図示している。次いで手術の概要を説明し,術式に適した準備についてポイントを簡単にまとめている。また,各手術操作ごとにアシスタントがなすべき行動を太字ではっきりと指摘している。例えば合併症が生じた場合には「ここぞキミの出番だ!」,「まずは状況の把握,冷静さが必要だ」,「精神面でも術者をサポート」などと的確なアドバイスがされている。

付録も充実

 付録としてまとめられている眼科スラングと略語集も,手術の共同作業の場で意思疎通をスムーズにするために知っておいたほうがいい。
 教育する側では医局員,研修医,そして看護婦に本書を持つことを勧めれば理想的なアシスタントが生まれ,教育される側は本書を理解することによって手術が目立って上手になり,手術が好きになるという両者に有益な専門書であることに間違いない。近頃のヒット専門書である。
B5・頁120 定価(本体5,800円+税) 医学書院


精神医学の基礎を系統的に把握するために

力プラン臨床精神医学ハンドブック DSM-IV診断基準による診療の手引
ハロルド I カプラン,他 編著/融道男,岩脇淳 監訳

《書 評》岩崎徹也(東海大教授・精神医学)

 このたびH. I. Kaplan, B. J. Sadock編著,『Pocket Handbook of Clinical Psychiatry』(第2版1996年)が邦訳・出版された。本書の親本である『Comprehensive Textbook of Psychiatry』は1967年に初版刊行以来,精神医学の発展を忠実にとり入れながら,30年間に6回の改訂,増補を重ね,今や3000頁を越える大著に成長している。その間一貫して,アメリカにおける現代精神医学の最も標準的な教科書として評価され,国際的にも学問的,臨床的な意義を果たし続けている。
 一方,この教科書には初版以来Synopsisつまり要約版が刊行されており,わが国でもその第7版が1996年に順天堂大学精神医学教授の諸氏によって『カプラン臨床精神医学テキスト』として翻訳出版されている。このたび,東京医科歯科大学神経精神医学教室の融道男教授らの監訳によって刊行された本書『カプラン臨床精神医学ハンドブック』は,それをさらに要約して携帯にも便利なようにした原著『Pocket Handbook of Clinical Psychiatry』(1996年)を邦訳したものである。  

レジデントの白衣のポケットに

 原著者も序文で述べているように,本書は親本のいわば「エキス」のようなものである。「DSM-IV診断基準による診療の手引」という副題にも示されているとおり,内容はDSM-IVの診断分類に沿って構成されている。わが国の精神科臨床にDSMが浸透している現在,第一線で活動する精神科医,レジデントが白衣のポケットに入れて常用するのに大変便利な一書であるのみならず,医学生,心療内科医,臨床心理士,ケースワーカーなどにとっても,精神医学の基礎を正しく系統的に把握するのに大変使いやすい手引き書である。
 DSM-IVであげられている各障害について,概説,定義,歴史,症候論,診断,病型,疫学,原因論,検査,鑑別診断,経過と予後,治療等々が要領よくまとめられている。また,そこでは生物学的視点から,精神力動論や社会的なかかわりまで,公平にとらえられている。文章は簡潔,明快な箇条書きが多く,また約100に及ぶ表が用いられていて,読者の整理を助けてくれる。本書を読む過程でさらに深い知識を求める場合のために,各章ごとに親本の相当箇所が明示されているばかりでなく,本訳書には上記Synopsisの邦訳書,つまり『カプラン臨床精神医学テキスト』で相当する部分も加えられており,わが国の読者にとって親切な配慮がなされている。

最も現代的で簡明なハンドブック

 翻訳作業は東京医科歯科大学神経精神医学教室の方々によって行なわれた。原書発刊後1年にして翻訳書が刊行されたという事実に,訳者の方々の熱意が感じられる。この種の翻訳作業は,ともすると数をたのんで行なわれることが多く,そのために訳文の不揃いなどが生じがちであるが,本書は同じ精神病理研究室の4名の方によって訳出されたとのことであり,訳文も十分にこなれたまとまりのよい日本語で,読みやすい。監訳者序文で融道男教授が述べておられるとおり,本書は新しい分類に従って精神医学の全体像を示しているもので「最も現代的で簡明なハンドブック」である。原書はアメリカですでに6万部を売り尽くしたとのことであるが,わが国でも精神科臨床にかかわるすべての人々にとって必携の書物になるであろう。
A5・頁416 定価(本体6,800円+税) 医学書院MYW


多くの画像をどう読むかがわかる1冊

フィルムリーディング(3)胸部 池添潤平 編著

《書 評》河野通雄(神戸大教授・放射線科学)

 胸部放射線医学の領域で,バイタリティにあふれる活動をされ日頃尊敬している池添潤平教授の編著になる『フィルムリーディング胸部』が出版された。池添教授の序にもあるように胸部単純写真の重要性,さらに高分解能CTの登場による進歩とその有用性について症例を呈示して解説されている。

多くの症例を積み重ねて

 学会や研究会などで聴衆が最も多く集まるのはフィルムリーディングのセッションである。これは,何といっても明日の診療に役立つからであろう。臨床医学は症例の積み重ねであることは言うまでもなく,公式の応用である。本書はその意図が貫かれている。症例については心大血管疾患から肺・縦隔疾患まで多くの症例が呈示されているが,強いていえば,臓器,疾患別に分けて記載されていると読者が利用しやすいように感じた。
 単純X線写真や関連画像の所見,鑑別診断とその進め方,診断,読影のポイントなど非常に簡明に記載されており,理解しやすい。特に「病気の豆知識」については放射線科医や,それを専門としない領域の医師,学生を意識した編集で,臨床経験の豊富な医師にとっても,リフレッシュするためのよい参考となっている。特に胸部放射線医学を学ぶ者にとって,呼吸器疾患を得手としても循環器疾患に関する知識は必ずしも高いとはいえず,この視点からも豆知識はありがたい。
 難易度マークがつけられているのは,池添教授らしい発想で興味深い。ただどういう基準でつけられたのか定かではないが,おそらく専門とする領域によってはその評価は異なるかもしれない。しかしある程度は決めつけることも大切であろう。むしろ読者がそれにチャレンジしてみるのも一興であろう。
 最後に,症例によっては参考文献の記載されているものとそうでないものがみられる。読者の立場に立っての希望としては,すべての症例に文献と本文中にその番号を記載していただきたいと思う。このフィルムリーディングは,医学書院よりシリーズとして全10冊の発刊が予定されており,胸部はその3である。タイムリーな企画であり,多くの臨床医にお推めしたい。
B5・頁216 定価(本体6,500円+税) 医学書院


難しい理論を省いた電気生理診断学入門書

臨床筋電図・電気診断学入門 第3版 千野直一 編著

《書 評》鈴木堅二(帝京大附属市原病院教授・リハビリテーション科学)

 わが国で開催された1995年の第10回国際筋電図臨床神経学学会では筋電図と運動制御が主題となり,1997年の第8回国際リハビリテーション医学会では経頭蓋的磁気刺激による運動誘発電位の計測,末梢神経における伝導ブロック計測がトピックスとなった。
 このように近年,電気生理学的研究手法は運動障害を伴う疾患の診断や評価,治療効果の判定においてその重要性はさらに高まってきており,脳血管障害,外傷性脳損傷や神経筋疾患での予後予測においても欠かせない診断・評価法となっている。

細部にup-to-dateな知見を加える

 本書の初版は1976年であり,1981年に第2版が出版され,そして今回第3版として改訂の運びとなった。筆者は,15年ほど前,整形外科教室員の初期研修用テキストに本書の第2版を用いたことがあった。本書は従来のテキストに比べて簡潔にして即臨床利用ができるなどの特徴を持ち,著者らの合理性を基調にした編集方針は第3版にも受け継がれている。編者は米国筋電図電気診断学専門医であり,同学会の正会員としてもご活躍であり,第3版では同門の木村彰男,岡島康友,正門由久先生が執筆されている。旧版の細部にup-to-dateな知見が加えられ,新版ではF波,H波と体性感覚誘導電位について新たに章を起こし,それらの臨床例が加筆されている。
 本書は基礎編,主な神経筋疾患と筋電図・電気診断,症例編,付録に分けて編集されている。「基礎編」では筋電図検査,神経伝導検査,疲労検査,体性感覚誘導電位の測定における機器の使用法,計測手順,結果からの考察,検査上の注意点にいたるまで手に取るような解説がなされている。検査結果の報告書の書き方では,他の検査法と同じく必要十分に記載し,臨床診断名をつけることを目的とせず,運動ニューロンや筋の病態を客観的に記載すべきことを強調している。「主な神経筋疾患と筋電図・電気診断」では,各疾患について概説し,電気診断学的所見について解説している。筋疾患の診断では血清酵素測定や生検がより有用であること,神経根圧迫障害では補助診断として価値が低いことなど,この検査法の臨床診断における位置づけを明示している。
 「症例編」では日常診療でよくみられる症例を取りあげ,主訴,病歴,現症からどのような筋に対してどのような検査を行なうか,またそれらの結果をどのように総括するかを詳細に解説している。症例として末梢神経麻痺,前角細胞疾患,脊髄障害高位,筋疾患,脳血管障害などの26例が供覧され,症例ごとにポイントについての病態の解説が加えられている。巻末の「付録」には正常と異常の筋電図所見,伝導速度,体性感覚誘発電位の潜時,主な筋電図所見がまとめられており,さらに臨床検査に必要な神経筋の解剖図や脳波・筋電図学用語集が加えられ,ベッドサイドの利用を容易にしている。
 編者自らが検者となっているユーモラスな写真もあり,本書は難しい理論を省き理解しやすく構成され,手短かに学べる電気生理診断学の入門書である。リハビリテーション科,整形外科,神経内科の研修医や運動障害学を学ぶ方々に広くお薦めしたい。
B5・頁208 定価(本体5,600円+税) 医学書院


腹部超音波の格好の手引き書

Abdominal Ultrasound A Basic Textbook
福田守道,D. O. Cosgrove 著

《書 評》大藤正雄(前千葉大学教授・内科学)

 世界の超音波医学界の泰斗である,わが国の福田守道名誉教授と英国のDavid Cosgrove教授の共著『Abdominal Ultrasound』が,今回医学書院から英文にて出版され,通読する機会を得た。

基礎から臨床応用まで簡潔に記述

 腹部超音波の基礎から臨床応用まで要点をとらえて簡潔に記述し,病変をわかりやすい症例写真集と図を用いて説明しており,英文著書であるといった言葉の壁をほとんど感じさせない内容である。高い学問的レベルを保ちながら実用性を備えているといったことで,著者の長年の超音波に対する研鑽の成果と臨床経験の蓄積が凝集したものと言える。腹部超音波の臨床に関わる誰もが一度は目を通すに値する著書である。
 「A Basic Textbook」の副題があるとおり,腹部超音波に関する基本事項を網羅してまとめており,腹部超音波をこれから学ぼうとする者にとって格好の手引き書となり,その内容をよく理解すれば,豊富な経験を持つ専門医に匹敵する知識を身につけたことになる。その後は,実践により磨きをかけることで立派な専門医が誕生することになろう。一方,すでにかなりの臨床経験を持つ専門医であれば,平素,頭の中に未整理で十分に咀嚼せずに放っておいた事項をきちんと理論的に裏打ちされた形でまとめることに役立つことになろう。また,必要な箇所では,吟味した文献が引用されており,専門医にとってありがたいことである。座右において繰り返し目を通す専門書として大いに役立つに違いない。
 各編に目を通すと,Chapter 1と2では超音波の基礎についてまとめられており,超音波医学の過去から現在までの発展の過程がわかりやすく解説されている。また,現在一般に広く普及しているリアルタイム超音波装置が,電子工学的にどのような開発の過程を経て進歩してきたのか,画像描出にあたって注意すべき事柄といったことが模式図によって簡明にまとめられている。これらは,リアルタイム超音波装置を実際に応用するにあたって,何か問題がある時,その解決に大いに役立つことになる。実際に画像を描出するあたって,先ず心得ておくべき様々なArtifacts,病変を正確に表すための走査手技,続いてでき上がった画像を判読するポイント,などなどの問題について懇切丁寧な説明が加えられている。

超音波の臨床にすぐにも役立つ

 臨床編では,肝,胆道,膵,脾,腎・後腹膜腔,消化管といった臓器別に正常解剖像と代表的疾患の病的像が,それぞれの特徴をとらえて見事な症例写真と解説によって呈示されている。各疾患の病理肉眼所見を目の当たりにしている感じさえするほどで,それによって超音波が病変の描出に優れ,高い信頼性を持つ診断法であることを理解することができる。
 臨床編の最後には超音波内視鏡による消化管疾患の診断の項目が加わっており,超音波が臓器専門分野に一段と深く立ち入って応用されている状況が明らかにされている。超音波が総合診断から特殊診断まで,広い範囲にわたって応用される手段となっていることがわかる。
 本書は,リアルタイム装置を応用した腹部超音波が現在の臨床に大きく貢献し,必須の手段になっていることを教えてくれている。超音波の臨床に直ぐにも役立つ立派な著書が世に出たことを心から喜ぶものである。
B5・頁376 定価(本体17,500円+税) 医学書院