医学界新聞

第10回日本内視鏡外科学会総会印象記

加納宣康(亀田総合病院・主任外科部長)


 白日高歩会長(福岡大教授・第2外科)のもとで,昨年12月18-19日に,アクロス福岡において開催された第10回日本内視鏡外科学会総会は,600題近い演題が集まり,これまでで最高の参加人数を記録するとともに,年末の福岡の町を活気づかせるのにも貢献していた。本学会出席によって筆者の受けた印象を紙面の許す範囲で記すことにする。

乳腺とTEMのセッションの盛況ぶりに驚く

 これまでの本学会は研究会の時代から振り返ると,まず腹腔鏡下手術部門に多くの参加者を集める時代が続き,それに続いて胸腔鏡下手術にも参加者が増えてきたという歴史があった。しかし今回筆者が驚いたのは,乳腺の内視鏡下手術の会場が超満員で,ドアの外まで人が溢れ,さらに多くの参加者が会場への入場をあきらめざるを得なかったという盛況ぶりである。このような事態は主催者側もおそらく予想できていなかったのではないか。乳腺疾患の患者数の増加を背景に,よりminimally invasiveな,より美容的な治療を求める患者側からの要求と,それに応えようとする医師側の熱意が確実に高まっているのが感じられた。乳癌の生物学的特性が明らかになるとともに,内視鏡下手術手技の乳癌治療への関与はますます高まるものと期待される。
 また,乳腺に次いで会場が超満員であったのはTEM(transanal endoscopic microsurgery)のセッションであった。経肛門的に,粘膜あるいは筋層を含んで病巣を的確に切除する手技を必要としている外科医がいかに多いかを実感させられた。今回は,「経肛門的手術手技研究会」と業者の協力によって,この手技を実習する場が用意されたのも大きな魅力だったと考えられる。このTEMの手技を実行するのに必要な器具を設置する余裕のある施設が全国でどれだけあるかによって,この手技の実施数も影響を受けるであろう。より安価に入手可能な状態になることを期待する。

胃癌に対する内視鏡外科の位置づけ

 シンポジウム II「胃癌に対する内視鏡外科の位置づけ」(司会=鹿児島大教授 愛甲孝氏,北里大教授 比企能樹氏)では,腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)を中心に討論された。
 林賢氏(長野市民病院)らは,腹腔鏡下胃手術の適応について,IIa,IIc(Ul)で2.5cm以下,深達度M,分化型腺癌ではtotal lesion area lifting(TLAL)法かintragatric surgery(IGS)法を適応し,胃体部,幽門部病巣でIIc(Ul),2.5cm以上,深達度SM疑いはLADGを施行している。また中川昭彦氏(東北大)らは,LADGの適応は術前予想深達度SM微小浸潤までの分化癌と報告したが,これに対して林氏は,LADGなら未分化型にも適応可能であると述べた。
 LADGによる郭清範囲に関してはほとんどの発表者がD1+αとし,このαはNo.7とするものが多かったが,一部には小開腹下の追加操作も含めればNo.8も可能とする意見を述べていた。
 リンパ節郭清を完全腹腔鏡下に施行するか,あるいは小開腹を追加した後に施行するかについては,永井祐吾氏(和歌山医大)らは前者を,中川氏らは後者を好んで施行しているが,諸家の報告を総合すると,D1+No.7なら完全気腹下にも施行可能と思われた。小開腹創をどこにどう置くかについては,上腹部の縦切開を用いる施設と横切開を用いる施設があったが,林氏は縦切開にケント挙上器を併用した。
 腹腔鏡下胃手術は,リンパ節郭清を必要としない早期の小病変を対象にlesion lifting法から始まって発展してきたが,これまでのlesion lifting法の適応を外れたやや大きめの病変に対してもLADGが施行されるようになる可能性が高まったとの印象を受けた。

大腸癌に対する内視鏡外科の位置づけ

 シンポジウム III「大腸癌に対する内視鏡外科の位置づけ」(司会=久留米大医療センター教授 磯本博晴氏,愛知県がんセンター副院長 加藤知行氏)では,7人の演者がそれぞれの施設の大腸癌に対する腹腔鏡下手術の現状について報告した。
 適応に関しては,早期癌に限ることを原則とするもの(筆者)から,SEにまで適応としているもの(国立佐倉病院 山田英夫氏)まで多岐にわたっていた。
 リンパ節郭清の手技に関しては,手術手技の向上,各種器機の発展もありD3までfeasibleとの印象を受けた。ただ,これが従来の開腹術で施行されてきたD3と同じかというと,疑問符がつく。側方郭清は無理と言うべきであろうし,D3を施行すると言ってもD3をより確実にすることをめざしたD3と言うべきであろう(特別発言:浜松医大教授 馬塲正三氏)。

内視鏡外科手術に対する「企業のめざすもの」

 ランチョンセミナー(司会=日赤医療センター院長 森岡恭彦氏,筆者)は「内視鏡外科手術に対する企業のめざすもの」と題して行なわれたが,会場が溢れるのをおそれて主催者側が事前の宣伝を控えたにもかかわらず会場は満席であった。
 川畑佳樹氏(エチコンエンドサージャリー),小久保篤氏(オートスーチャージャパン),寺山俊樹氏(オリンパス光学工業)らが順に登壇して,内視鏡下手術における各社の器機開発の歴史と現状,今後の展望と企業としての基本姿勢を熱っぽく語った。1990年にわが国で初めて内視鏡下手術が施行されて以来,約7年半になるが,初期の頃に比べると器機の発達は目覚ましいものがあり,この分野の進歩は医師と企業が密に協力して進めなくてはならないことを痛感した。今後は,「環境問題をも視野に入れた産学協同体制」がより合理的に確立されることが重要である。
 この他,パネルディスカッション I「食道疾患に対する胸腔鏡下手術」,パネルディスカッション III「総胆管結石治療における外科的治療の現状」,ワークショップ I「3-Dビデオを用いた内視鏡手術」,ワークショップ III「肝疾患に対する内視鏡手術」などに多くの参加者が集まり,熱心に討議が行なわれていた。
 まだまだ印象記を続けたいところであるが,紙面の都合でこれにて終わることにする。今回の学会は,福岡大学第2外科が,会長(白日高歩教授),事務局長(山下裕一助教授)のもとによく一致団結され,「手作りの学会」として開催し,大成功に導かれことが特に強く印象に残った。
 心からお礼を申し上げるとともに,同教室の益々のご発展をお祈りする。