医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


ケアマネジャーの立脚点を明解に示す

ケアマネジャー実践ガイド イギリス保健省 原著/白澤政和,他 訳・著

《書 評》中島紀恵子(北海道医療大教授・看護学)

英国のケアマネジメントを どのように消化吸収できるか

 本書は,われわれが訳書として通常いだくイメージとは違う。まえがきで訳者は「イギリスのケアマネジメントを単に紹介することにとどまらず,日本にどのように対応が可能で,どのように消化吸収できるのかに焦点を当てることを狙っている」と述べている。
 狙い通りというべきか,評者は,この本を読みながら,知らず知らずのうちにイギリスと日本の体制・制度を比較し,「ここが違うのよね」とか,「サービスの地域格差に対する公開や点検評価の体制を日本は持っているのだろうか」とか考えて,何度も天井を見てしまった。まことにユニークな本である。
 本書の構成は,大きく2つに区分できる。1つは,この本の読み方に対する案内(入り口にあたる「このガイドブックの読み方」)と,イギリスの施策を踏まえて日本のケアマネジメントをどのように学ぶことができるかといった案内(出口にあたる「ケアマネジメント──イギリスに学ぶもの」)の部分。もう1つは,原文の翻訳による「概要編」と「実務者編」からなる部分である。しかし,ここにも読者の概念整理や日本の施策・組織上の違いを踏まえて理解すべき必要性を喚起させられるように,訳者の解説が随所に織り込まれている。原文の訳語に関する説明への配慮もされていて,とてもありがたかった。

ケアマネジメント・プロセス に対する共通的指針

 原文の発行は1991年,原著者はイギリスの保健省で,1993年以降自治体のソーシャルサービス部を責任部署として,本格的に取り組むことになるケアマネジャーへのガイドを目的として書かれたものである。私たち日本人の多くは,「ガイド」と「マニュアル」を明確に分けて考えることが苦手で,ガイドの中にも,マニュアルの中にも,自分の行なう手続き,手順,技能を欲しがる傾向がある。この本は,ケアマネジメント・プロセスに対しての共通的指針をガイドするために作られた本である。すなわち,ケアマネジメントの理念・本質でもあるニード優先のアプローチのあり方,そのための組織整備や情報公開のあり方,自治体のケアマネジャーとして成すべきプランニングを,各地の有限な資源を踏まえた創意工夫を重ねて組み立てていく時の行動計画とその方略をアドバイスするといった性質の指導書である。
 概要編では,組織整備の意味するところに多くの頁をさいているが,評者が大事だと思ったことは,情報公開と利用者の選択権に関連して,「法律で定められたニード」と「当該自治体の方針として位置づけられる裁量性のあるニード」とをパンフレットに明記すべきだと述べられている点である。このことと,コミュニティケア改革のための組織整備や責任分担を明確化にしていくことは一連の機能といえる。これに関しては改革達成までの日程表の組み方までもがガイドされていて興味深かった。
 実務者編では,既刊のケアマネジメントプロセスの各書物に類似しているが(というより,この原文の影響力が大きいのだろう),サービス提供者の組織・機関,利用者へのサービス提供の方法などへのアプローチが明確にガイドされていて,ケアマネジメントに関心を持ってきた読者のモヤモヤは,そのモヤモヤがどんなことだったのかということが理解できるという意味でスッキリすると思う。プロセスの7段階ごとに「達成状況チェックリスト」が用意されているが,これは読者の理解度チェックとして役立つかもしれない。 間近に介護保険導入とあって,われわれの大部分はアレもコレも疑問といった状況の中にいる。こんな時こそ,介護保険は誰のためのものか,ケアマネジャーの立脚点はどこか,といったことをしっかり考えておきたい。本書は,このような学びに格好のガイド本である。
B5判・頁168 定価(本体2,300円+税) 医学書院


統計学と看護研究の内容をバランスよく整理

〈JJNブックス〉看護研究のための統計学入門 中野正孝 編集

《書 評》藤野文代(群馬大助教授)

 私が本書を手にしたのは,現在行なっている乳癌術後患者の研究において,統計処理に取りかかろうという時で,個人的に大いに役に立った。
 本書は看護学の研究者と統計学の専門家の5人の著者が執筆した共著である。そのため,これまでの書と比べ,統計学と看護研究の内容がバランスよく整理されており,基礎から応用まで具体的な統計例・研究例が豊富に網羅された入門書となっている。
 本書の内容は基礎編,技術編,応用編から構成されているが,基礎編の「看護研究と統計学」の項では看護研究の目的や統計学とは何かというような基本的な知識が解説されている。
 中野正孝氏は,「看護研究のめざすところは看護実践の改善に貢献することである」と述べ,さらに読み進むと研究の倫理として,「研究のために人の生活を無視したり,権利やプライバシーを侵害したり,人を不当に苦しめるようなことは絶対避けていただきたい」と強調し,重要な点が押さえられている。

見やすい表と豊富な具体例

 統計的研究の予備知識の章では「喫煙と健康」を例に概念枠組みと仮説の検証方法や質問例が具体的に説明されている。
 また,著者の1人である桂敏樹氏は,看護業務におけるデータ収集について検温の例をあげ,質的データと量的データをわかりやすく説明している。
 統計学の基礎知識の章では看護研究に必要な必須事項を主に本多正幸氏が,(1)統計的推測の考えかた,(2)データの整理,(3)平均値に関する推測,(4)比率に関する推測,(5)相関係数に関する推測,(6)多変量解析を解説。これらはどれも理解していなければならない基本的な内容である。もし,忘れてもすぐに見直せるような見やすい図表や豊富な具体例で解説されている。
 応用編は,桂氏が調査研究のプロセスと実際について,数間恵子氏が臨床研究のプロセスと実際について,実験研究のプロセスと実際については山内一史氏が分担執筆している。
 桂氏は最近の卒業研究の動向として,臨床事例研究45%,調査研究42%,実験研究4%,文献研究10%と報告している。新設の看護系大学の状況も知りたい気がする。3分野の研究について,それぞれ研究計画書から論文作成まで3氏が解説している。読者は自分の興味で選んで読んでもプロセスが理解しやすい文脈になっている。
 最後に統計ソフトの利用については,(1)コンピュータは誰でも使える,(2)コンピュータ用データ作成のための注意点,(3)統計解析ソフトによるデータ解析の手順の順に,具体的なSPSSのデータ入力,解析の手順がWindows画面の写真入りで解説されている。
 本書は編集者の中野氏の前書きにある通り「統計学を利用して看護研究を行ないたいというナースや学生を対象に企画」された書であり,身近な例が多く,読みやすく親切な入門書といえる。
 繰り返しになるが本書は統計学または看護研究のみに偏った内容でなく,どちらにも重みがある。入門書とはいえ,内容はかなり充実しているので初学者からベテランのナース,教員まで幅広く活用できる書である。
AB判・頁162 定価(本体2,400円+税) 医学書院