医学界新聞

「カルテ開示の法制化」を望む声

厚生省「カルテ検討会」が公聴会を開催


 厚生省は,昨年6月に「患者からの請求があれば原則的にレセプト(診療報酬明細書)は開示すること」を主旨とする通知を行なったが,さらに同省では「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」(以下,カルテ検討会,委員は表参照)を昨年7月に設置した。カルテ検討会では,「カルテ開示」を中心に医療情報をめぐる諸問題について幅広い検討を重ねているが,平成9年度中に報告書をまとめる予定でいる。

カルテをめぐる諸問題を検討

 公開を原則に,月1回の割りで開催されている同検討会では,「医師等と患者の関係において,診療情報が有効に活用されることは,共同して疾患を克服する上で必要」とし,診療情報の範囲や利用の場面,診療情報を提供する理由と法的根拠,さらに提供の要件および方法,環境整備など,より具体的な論議を深められている。
 これまでのカルテ検討会では,以下のような意見が出された。
●診療録や看護記録は,開示を前提に書かれていないために,開示に際しては記載方法,教育,管理体制,情報提供の方法などの条件整備が必要
●適切に作成されていない診療情報を開示するのは混乱を起こすが,不備な記載を後で訂正や修正をすることは,カルテの改ざんとなってしまうため,どういうものが許されるのかはっきりさせる必要がある
●看護記録は法的な義務づけはないが,診療報酬で看護料を請求する際に必要であること,過去の慣習から書いているということもある。カルテ開示の目的にかなうものが看護記録に記載されているかという点では,今後検討していかなければならない
●開示の目的にかなったものにするためには,どのように効果的に,合理的に書くかを検討しなければならない。診療録の書き方のガイドラインも必要

広く国民の意見を募集

 カルテ検討会では,一般国民からの幅広い声を検討資料に加えようと,昨年末より厚生省ホームページに「カルテ等の診療情報の活用について」の意見募集の案内を掲示し意見を求めた。その結果を踏まえ,さる1月27日に厚生省内で開かれた第6回カルテ検討会では,初の公聴会形式による6名からの公募意見発表が行なわれた。
 また,小児科医で100%開示をしているという王端雲氏ら医師・歯科医師を中心に11通の文書による意見が寄せられ,同席上で資料として紹介された。
 同日意見発表を行なったのは,(1)工藤嗣顕氏(工藤クリニック・内科医),(2)勝村久司氏(医療情報の公開・開示を求める市民の会事務局長・高校教師),(3)近藤郁夫氏(医療過誤原告の会・会長),(4)森谷和馬氏(患者の権利法をつくる会常任世話人・弁護士),(5)岡本隆吉氏(知る権利ネットワーク関西・事務局長),(6)前納宏章氏(医療記録の開示をすすめる医師の会・医師)の6名。
 工藤氏は,生活習慣病で通院中の患者を対象に診療情報ファイルを配付していると報告。日々の診療記録,検査結果,現症状の要約,治療目的,処方箋などが記載されているファイルは,重複診療の改善,病診連携にもつながるとの利点をあげ,診療情報提供の具体例を提示した。
 勝村氏は,「日本の医療全体を国民本位なものに抜本改革するために,医療情報の公開・開示が必要。医師の価値判断ではなく人間の権利としての個人情報という観点で検討をしてほしい」と要望した。
 子息が重篤な医療過誤にあったという近藤氏は,「医療過誤は少数のまれにみる事件として処理されてきている。医師の自己防衛では医療に向上がない。玉虫色ではない罰則規定を含めたカルテ開示の検討を」と抜本的な改革を求めた。
 森谷氏は会を代表して意見発表。「患者が自分の診療情報を入手することは固有の権利であり,継続的に情報を得られる保証のために,開示を求める権利がある」と医療記録開示の早急な法制化を訴えた。

カルテ開示を求めて

 岡本氏は,「カルテの統一化などの論議ではなく,あるがままのカルテの開示を」と要望する一方で,「患者に無断で冷凍で臓器や血液を保存している医療機関がある」と会の調査結果として具体名をあげ指摘。「情報化社会の潮流にあっては,医師の独断的な価値判断を排除し,カルテだけではない医療情報公開が必要」と述べた。
 前納氏は,豊富な資料を提示しながら「医療の情報は,患者の自己決定のために患者が理解しやすいような形で開示を」との考えを示し,「わかりやすい,実行可能な,医療者も得心できるような報告書」の作成を要望。最終的にはカルテ開示の法制化の実現であると主張した。
 またその後の発表者と委員との意見交換の場では,委員より「カルテは内部文書でもあり,そのものを閲覧することと診療情報提供とは違う」,「カルテそのものではなく,まとめられた個人情報を提供したほうがよいのでは」という意見が述べられる一方で,「カルテそのものは医師が治療にあたっての自分のスタンスを明確にできるものであり,患者の要望によって見せることが原則」などの意見も発せられた。
 カルテ検討会としては,今後これらの意見を踏まえ,検討会としての意見をまとめる予定である。

※この検討会に関する問合せは下記まで
・厚生省健康政策局医事課
 TEL(03)3595-2196
ホームページ:http://www.mhw.go.jp

●「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」委員(敬称略)
森島 昭夫(座長,上智大法教授)
岩井 郁子(聖路加看護大教授)
宇津木 伸(東海大法教授)
大熊由紀子(朝日新聞社論説委員)
開原 成允(国立大蔵病院長)
木村  明(日本診療録管理学会理事長,新潟市民病院長)
木元 教子(評論家)
畔柳 達雄(弁護士)
斉藤 憲彬(日本歯科医師会常務理事)
高橋 清久(国立精神・神経センター武蔵病院長)
武田 文和(埼玉県立がんセンター総長)
樋口 範雄(東大法教授)
宮坂 雄平(日本医師会常任理事)